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古市公威 近代土木工学のパイオニア

トップ画像は土木学会のシンボルです。土木学会のHPはこちらからアクセスできます。


それでは本日のメイントピックである古市公威の紹介を始めます。


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 「土木工学の神 初代土木学会会長」

明治維新を迎え、日本が諸外国の国力に追い付け追い越せと大義に燃えていたこの時代。土木工学においても例外ではありませんでした。

明治時代といえば身分の差が撤廃されることで誰しもが勉学で身をたてることができる時代でありました。また当時のエリート学生による海外留学も盛んに実施され、古市公威も例に漏れずその一人です。

このような立身出世の世の中で近代土木工学のパイオニア的存在である古市公威(以下、古市)とはどのような人物だったのでしょうか。彼の生い立ちを通して土木業界に与えた偉大なる功績をのぞいてみましょう。

目次です


非凡ではなかった幼少期

1854年 安政元年  0歳  9月4日 江戸牡蠣殻町の姫路藩中屋敷にて誕生
1863年 文久3年    9歳 藩校「好古堂」にて漢学および国学を学ぶ
1865年 慶応元年   11歳 勤学生として文武両道に励む
1869年 明治2年  15歳 開成所に入学 語学としてフランス語を学ぶ
1873年 明治6年  19歳 開成学校に設置された諸芸学科に進学

好古堂」は江戸時代に姫路藩主であった酒井家によって開口されました。現在は「好古園」と名称が変更され、文化財の一つとして開園されています。

 

開成所とは、当時幕臣の息子たちを対象として蘭学などの洋学教育を施していた蕃書調所(ばんしょしらべしょ)が由来となって設置されたもので現在の東京大学の源流とみなされております。

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その後、幕府解体に伴い一時閉鎖されましたが、政府によって西洋の医学校であった医学所を吸収し、官立の開成学校が開設されました。

古市は後に開成学校で習得したフランス語を生かしてフランスに留学します。古市は特に勤勉な学生であったと記されており、幼年期から日本の発展のために熱を費やしていたことがうかがえます。


留学を経験。局員と講師、激動の20代

1880年 明治13年 26歳 帰国後に内務省土木局に入局
1881年 明治14年 27歳 東京大学講師を兼務する
1883年 明治16年 29歳 豊平川水害防御計画工事に着手
1884年 明治17年 31歳 結婚 信濃川堤防改築に携わる

豊平川は、北海道札幌市を流れる石狩川系石狩川支流の一級河川です。前年度の水害で破堤したことを受けて翌年2月、計画立案となりました。
計画内容は2Kmに及ぶ堤防と護岸の新設および水門1ヶ所の築造です。工事は1984年に竣工されました。しかしながら、古市の海外の最新の水理学の知見を生かした計画でも豊平川の出水を抑えることが出来ずに決壊を迎えてしまいました。

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豊平川水害防御計画図面・部分拡大図(国立公文書館蔵、重文)

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低水堰平面図・横断面図等

この計画はフランス留学によって古市が習得した技術が存分に生かしてあります。現存する近代最古級の河川改修平面図であると考えられています。かなり丁寧に綿密に作図されているのがひと目でわかります。

豊平川防御改修工事と並行して1884年に信濃川の低水路整備および水害を防ぐため、川幅の整理と築堤を行った工事に携わりました。設計や監督を通して1986年の帝国大学工科大学長に就任して帰郷するまで河川改修に尽力しました。

信濃川と桁橋

コンクリートと信濃川のコラボレーションです。ぜひ信濃川お散歩を満喫してください。


技術者兼教育者の頭として日本を先導

1886年 明治19年 32歳 工科大学教授兼工科大学長 内務技士兼任で土木局に勤務する
1888年 明治21年 34歳 工学博士を授与 山縣有朋(当時、内務大臣)の欧州諸国巡回に随行
1890年 明治23年 36歳 内務省土木局長に任局 工科大学教授兼工科大学長は兼務となる 貴族院議員となる
1894年 明治27年 40歳 内務省土木技監に任命
1897年 明治30年 43歳 足尾銅山鉱毒事件調査委員
1898年 明治31年 44歳 土木技官兼土木局長兼工科大学教授兼工科大学長を免ぜられる

工科大学教授としては古市は「河川・運河・港湾」を担当しました。ここまでの話から古市の功績の多くは水に関すること、つまり治水や利水を主として土木構造物の発展に精を出していました。

古市は山縣有朋からの信頼も厚く古市を調査旅行の技術顧問として開発行政の参考にしたと言われています。それだけ古市が持つ知識や技術が突出していた様子が伺えます。明治20年代以降特に両者の連携が日本に大いなる影響を持つようになりました。

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山縣有朋(歴史の授業で同じみ)

その後、後身に自らのポストを譲るために内務省技監、工科大学長を辞任し以後そのどちらにも戻ることはありませんでした。この潔さにも古市の人柄を感じます。


ここで改めて技監を説明すると技官とは文字通り技術を掌る最上位の役職です。工科大学長は言うまでもないですね。まさに日本の発展を背負って立つ一人でありました。


古市は鉄道の発展に努めた

1898年 明治31年 44歳 鉄道会議議員に任命される
1899年 明治32年 45歳 鉄道国有調査会委員と鉄道会議議長を兼務
1903年 明治36年 49歳 東京帝国大学名誉教授 鉄道作業局長官

内務省技監と工科大学長を辞任した古市に課された次なる課題は鉄道の発展でした。政府は、鉄道敷設法を1892年に公布し全国の鉄道網の骨格が形成されつつありました。

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今でこそ船や航空機による物資の輸送が行われておりますがやはり地を這って進んでいく鉄道や道路は国力の増加に不可欠であることが容易に想像できます。下画像は国土交通省がHPで紹介している手段別国内貨物輸送量の推移です。

日本は四方を海に囲まれているため海運による割合が多いことが特徴的です。年別における割合の変化はあまり見られず、鉄道はおよそ年5%の割合で推移していることがグラフからわかります。

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余談ですが、1903年は浅野セメントによってポルトランドセメントの大量生産が開始されました。

浅野セメントは現在日本のセメントメーカーでセメント生産量首位を誇る太平洋セメントの前身です。セメントがいかに文明の発展に寄与しているかを考えさせられます。

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浅野総一郎の銅像

さらに古市は50歳を迎える以前にこれまでの実績を評価されて東京帝国大学より名誉教授の称号を授受されています。

その後、明治42年古市は56歳で東亜工業(株)社長に就任します。


土木学会会長、亡くなるまで日本の発展を支えた

1915年に大正4年に古市は61歳で土木学会会長となりました。これまでの実績を顧みれば、誰の目から見ても当然でした。今回、記載した年表以外でも古市は日本の国土発展に対してかなりの功績を残しています。

さらに古市は1934年昭和9年79歳に亡くなりますが、その2年前である1932年まで日仏会館理事長を務めています。同年には歴史の授業で名高い5.15事件が勃発した年です。こうして年表で振り返ると学生時代に学んだことと並行して何が起きていたのかわかるので非常に私自身もためになりました。

おまけ

留学時代の逸話

留学生時代の古市の逸話を少し紹介いたします。冒頭で古市は非常に勤勉だったと言いましたが、フランスでもホームステイ先のおばさんが思わず休みなさいと言わんばかりに勉強にふけっていたそうです。その時に古市はこう言って勉強を続けたそうです。

「自分が一日休むと、日本が一日遅れます」

能が堪能だった古市

ダジャレではありません。

古市は能が得意で実際に舞台に立って主役を演じたこともあります。古市が舞台に姿を現すと「あれは素人ではないぞ」と語ったとのことです。画像9

自らを鵺とたとえた

鵺(ぬえ)は日本の妖怪で平家物語などに登場しています。猿の顔やタヌキの胴体、虎の手足、尾は蛇と外国のキメラと相似の概念で語られております。

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(京都 鵺 大尾、木曽街道六十九次)の内、歌川国芳画

確かに古市は年表でも分かるように学者でも実業家でも技術家でも行政家でもなくどこにも所属しないような人物でした。しかしそれは、あくまで当時の土木業界が様々な場面でリーダーが不足していたことを考えさせられる一言であります。

書籍

古市を題材とした書籍が司馬遼太郎によって発売されています。個人的に司馬遼太郎の『坂の上の雲』は名作であるのでぜひ読んでいただきたいです。

古市は例の一つとして紹介されています。


終わりに

明治・大正・昭和を駆け抜けた1人の男の人生はいかがでしたか?

もし古市公威に興味を持っていただけたなら、さらに詳細な内容が土木学会図書館のアーカイブスにありますので参照してください。


また紹介するかはモチベーション次第です。ありがとうございました。

引用資料および参考文献
土木学会図書館
http://library.jsce.or.jp/Image_DB/human/furuichi/index.html
オドフラン(東京大学の画像)https://blog.goo.ne.jp/odohuran/e86bcac698d7ce870b4df0c718e5cb82b
土木学会より(豊平川の各図面)
http://jsce100.com/furuichi/history.html
国立国会図書館(山縣有朋)
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I000000710630-00
フレームイラスト
https://frame-illust.com/?cat=256
国土交通省HP
http://www.mlit.go.jp/common/001173035.pdf
いらすとや 能面
https://www.irasutoya.com/2017/03/blog-post_13.html


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