「エコノミスト」の購読料
ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」を読み、ヒトの認知のクセについて、具体例を挙げながら考えてみたいと思っています。
フロイトは、ヒトが心を乱す不都合なことから自らの信条の安定を維持するための仕組みを、いくつかのパターンで示しました。これを防衛機制と言います。「予想通りに不合理」は、ヒトに認知のクセについて整理したものであり、防衛機制をもう少し拡張したものと考えてよいかもしれません。「認知的不協和」も、これと近いものでしょう。
ここから、認知のクセの例に入ります。
アリエリーがまず紹介しているのは、「エコノミスト」の月々の購読料金に関するものです。
1 ウェブ版のみ 59ドル
2 印刷版のみ 125ドル
3 両方 125ドル
どれを選びますかとMITの大学院生に聞いたところ、
1 ウェブ版のみ 59ドル 16人
2 印刷版のみ 125ドル 0人
3 両方 125ドル 84人
だったそうです。
次に、誰も選ばなかった「2 印刷版のみ」という選択肢を外して同じ対象者に聞いたところ、
1 ウェブ版のみ 59ドル 68人
2 両方 125ドル 32人
に変わったそうです。
誰も選ばなかった「2 印刷版のみ」という選択肢ですが、ヒトの認知のクセに引っ掛かるものがあるようです。
もともと0人であった「2 印刷版のみ 125ドル」を削除したところ、結果が変わるという不思議なことが起こりました。
「2 印刷版のみ 125ドル」があることによって、選択行動に大きな影響があるということが示されました。つまり、それがあることによって、「3 両方」が割安であるように思えるということです。こうした認知のクセを知ったうえで、「エコノミスト」は、より売り上げを高めることができるように、おとりとして「2 印刷版のみ 125ドル」を入れたのです。
比較するものが並べてあると、それによって惑わされるのがヒトの性(さが)ということでしょう。
別の例も示されています。
北海道と沖縄とのツアーがあるとき、どちらも同じ程度に魅力的な商品であれば、北海道ツアーの商品だけツアーの内容を少し落とした商品を追加して並記おくと、内容を落としていない北海道ツアーが選ばれるようになります。逆に、沖縄ツアーの商品だけツアーの内容を少し落とした商品を追加しておくと、内容を落としていない沖縄ツアーが選ばれるようになるのです。
こうした結果を踏まえて、アリエリーが助言をしています。パーティーで異性にもてたかったら、自分と同じようなタイプで、自分より少し見た目に劣る友達を誘って行くと良い、と。ただし一緒に行く友達にはそのことをばらしてはいけません。
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