赤と青

 2017年5月,単身赴任先から自宅に戻っていたときのことだった。テレビのニュースで,鎌倉の海で赤潮が発生したとの情報が流れていた。


 私は,瀬戸内海沿岸で生まれ育った。そこにいた頃、夏に海を見に行ったときに,赤潮らしきものを何度か見た。防波堤から見ると,やや濁った暗緑色の水の一部が,赤黒い色に染まっているように見えることもあれば,その色の原因となるプランクトンが赤や黒の柄の泡のようになって固まって浮かんでいることもあった。赤潮がやってくると,生簀で養殖しているハマチなどの魚が酸欠になって大量死するという話も聞いていた。余り気持ちの良いものではないというイメージが赤潮にはある。


 高校時代に友達と夜に防波堤の先の方まで行き,深夜まで空を眺めたことがあった。8月上旬のペルセウス座流星群の時期である。一時間に50とか60の流れ星を見ることができた。昭和40年代の瀬戸内海の漁村の夜は,空全体が真っ黒で,そこに澄んで輝く星たちがぎっしりとちりばめられており,流星観測には良い条件がそろっていた。そんなある夜,防波堤に当たる小さな波が,青く発光していることに気付いた。防波堤にあった小石を投げると,波紋に合わせて水面が青い光を放った。夜明け前の暗いうちから港を出ていく漁船が舳先で海を分かち,大きな波を作って,船の左右の後方へと波を広げていく。その波は,大きな帯状の青い発光体として漁船の両側を青白く染め,後方へと広がっていった。


 青い光の正体は,夜光虫である。夜光虫こそが,赤潮の原因となるプランクトンである。昼間はあまり手を触れたくない赤潮が,夜になると幻想的な青い光を放って,人を魅了するのである。


 そんなことを思い出して、またあの青い光を見たくなり、夕食後に小一時間かけて、鎌倉の材木座海岸に行ってみた。広い砂浜には、夜光虫を見ようという人がすでに大勢訪れていた。砂浜に寄せる波が崩れたところで、波が青い光を放っていた。

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