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【Q10.宇都宮LRTと、その先】2.芳賀・高根沢工業団地から安住神社まで

(前回の記事はこちらです)


芳賀・高根沢工業団地から安住神社まで歩く

 宇都宮ライトレールの終点「芳賀・高根沢工業団地」停留所から、更に先に進みたい。とは言っても、この先には公共交通機関は、何も存在していない。選択肢は一つ。徒歩である。


 歩道橋を渡り、幹線道路脇の歩道を、北に向かって歩き始める。右手にはホンダの工場の、広大な敷地が続く。工業団地を走る自動車道は車線も多く立派なものだが、車の姿はそんなに多くない。
 この方向に歩く人間は自分だけかと思ったが、そうではなかった。自分の前を歩いていく中年夫婦がいる。

 一度下り坂となり、しばらく歩くと登り坂となる。この区間に、芳賀町と高根沢町の町境を示す標識がある。道路幅には充分な余裕があり、ライトレールの延伸も可能な様子だが、交通需要があるかどうかは疑わしい。
 坂を登りきると、T字路に突き当たる。ここで中年夫婦を追い抜く。安住神社に行くには、ここを右折しろと案内があるので、そうする。進行方向は東となる。

 安住神社は、この徒歩旅の目的地だ。グーグルマップを見ただけで、何も考えず適当に決めた目的地なので、事前情報は何もない。
 工業団地が尽き、農村地帯の風景となる。この車道沿いには、商業施設はほとんど存在していないが、道の南側には一軒だけ定食屋がある。「ライトレールの終点から更に歩いた」記念として、是非ここで飲食してみたかったのだが、今日月曜は定休日であった。残念だ。
 定食屋の向かいにはセブンイレブンがある。ロードサイド型店舗らしく、とにかく広大な駐車場を備えているが、現時点では特に用事もない。帰路に寄ろうと思う。
 北側には、ブドウ園が数軒あるが、今はシーズンオフだ。グーグルマップによると、更に北側一帯は牧場らしい。空には鳶が待っている。遊弋しながら時折声高く鳴く。いかにも悠揚としていて、長閑だ。撮影しようと思うが、距離が遠く中々難しい。

 地表にて藻掻ているスズメバチを見つける。何となく写す。

 道はやがて、左右を森に挟まれた丘陵地帯に入る。森の入口に「安住神社は次の信号を右折」との看板がある。ひたすら登って進む。登りきってまた下る。反対方向から、男児とその父親らしき男の二人組が、自転車を曳いて登って来る。この勾配に力尽きたのだろう。

 下る途中で、森が尽き、視界が開ける。広大な盆地に広がる、一面の田園地帯。遠くに、水田に浮かぶ小島のような森が見える。その森の中に、一点の朱色として鳥居が自己主張をしている。この距離から見えるのだから、かなりの大きさだ。あの鳥居が、目的地である安住神社で、森は鎮守の森だろう。
 もう一息だ。
 
 「次の信号」に辿り着くまでが、存外に遠かった。右折して神社に向かう。16時18分、安住神社着。

安住神社にて・復路

 
 広い駐車場がある。立地条件からして、参拝者の九割以上は自動車またはバイクで来るのだろう。停まっている車の数は、今は少ない。駐車場の舗装には、ヘリポートであることを示すHマークが黄色で書かれている。

 看板類の日付は、既に明日、令和六年四月三〇日のものに差し替えられている。何だかなあと思ってしまう。

 境内に入る。予想以上に商業化、観光地化、ポップ化されている。ここは、安産と交通安全の神社とのことで、「バイク神社」「ヘリコプター神社」の看板がある。自分は運転免許を持たない独身者なので、正直どちらも別に関係ない。この場所までひたすら歩く行為自体に、意義があったのだと思うことにする。

 縁起が書かれた看板を撮影しておく。後で読むことがあるかも知れないし、無いかもしれない。
 最寄り駅は「芳賀・高根沢工業団地」であるという案内は、当然ながらどこにもない。
 トイレが施錠されていて使えないのは不便であった。私以外にもう一人、ドライバーらしき男性が用便を済ませたかった様子でやって来たが、どこかから老人の係員が出てきて、四時半で閉鎖だと素っ気なく告げた。
 

 復路は、往路で歩いてきた車道沿いとは異なるルートを、出来るだけ選びたい。丘の麓までは、水田地帯に碁盤目状に敷かれた狭い道を歩くことにする。用水路の水門から流れ出る水の音が心地良い。潺湲たるという形容は、このような情景に用いるものだろうと思う。いかにも初夏といった感じがする。

 田んぼの中のある区画は、田植えが行われたばかりであり、またある区画は代搔きを行っている最中である。軽トラックが走れる程度の幅の道が一直線に長く伸び、電信柱が規則正しく等距離に並ぶ。
 その碁盤目状の道を、縦横に交互に進み、やがて元来た幹線道路に辿り着く。ここから先の帰り道は、来た道と同じだ。坂道を登る途中で水田を見下ろすと、ある特定の一面にだけ烏が群がって遊んでいるのが見える。
 盆地の部分は水田に利用され、往路に見た丘陵地はぶどう園や牧場にされる。地理の教科書のように明確な土地利用だ。

 17時28分、セブンイレブン高根沢上高根沢西店着。ここで休憩。便所に行き、イートインにて飲み物と菓子を摂る。イートインスペースは、想像していたよりも席が少ない。

 18時頃、セブンイレブン発。しばらく歩き、往路に通ったT字路まで戻る。このT字路には屋台が出ていて、幾つかの焼き物を売っている。中々強気の価格設定だと思ったが、せっかくこの場所に来たのだから、一番安い焼き豚串を一本買う。記念焼き豚だ。


 18時25分、芳賀・高根沢工業団地停留所に帰着。同30分、上りのライトレールに乗り、宇都宮市街地に向かう。既に半ば以上日は暮れている。ティーンエイジャーを含め、乗客は多く、途中から立ち客も出始める。復路も全線乗り通し、19時14分宇都宮駅東口着。夕飯に餃子を食べ、夜の宇都宮を走るLRTをしばらく眺めた。

芳賀・高根沢工業団地から安住神社までの徒歩経路(Googleマイマップ)


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