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【Q1.二〇二三年三月一八日開業の新駅を巡る】4.幕張豊砂駅から東北地方へ向かう

 一〇時三八分幕張豊砂駅発。
 各駅停車だが、この列車は、途中で快速に抜かれることなく東京駅まで先行するようなので、このまま乗り続けることにする。
 往路は陸側の車窓を見てきたので、復路は海側を眺める。埋立地の工事現場、倉庫群、工場群の建物、そして空地が視界を流れていく。川を渡るたびに、遠景が拓け、広々とした河口とその先の東京湾まで見える。


 市川塩浜から新浦安の間は視界の拓け方が特に素晴らしく、遥かに対岸の川崎、横浜方面の建造物まで望める。


 新木場駅手前。太陽光発電パネルが、増えているように感じる。
 車窓には右側から、東京ゲートブリッジがスライドインしてくる。
 新木場から潮見の急カーブを曲がり、地下に入る。
 東京駅京葉線地下ホーム4番線、一一時三〇分着。乗車していた先頭車両を降りる。ここから、東北新幹線の発着する乗換え口まで歩かなければならない。
 何度もエスカレーターを上り、動く歩道を速足で歩く。遠い。途中、エスカレーター脇でステンドグラスを見かける。心惹かれる。昔、総武横須賀線の地下ホームに向かうエスカレーターの入口にも、ステンドグラスが飾られていたことを思い出す。それと同じ作者の作品だろうか? 気になる所だが、今日はゆっくり鑑賞する時間はない。先を急ぐ。


 東北新幹線への乗換え口、新幹線南のりかえ口まで、成人男性の急ぎ足で六分三三秒かかった。
 みどりの窓口にて、乗り越し運賃を精算し、目的地までの乗車券、新幹線特急券を発行する。乗車券に関しては、精算と発行を同時に処理してくれる。「幕張豊砂→前潟」と、両駅の駅名が入った乗車券(区間変更券)を入手出来て、自分としては大満足だ。新幹線特急券に関しては、「はやぶさ」に乗りたいが、席が無ければ、自由席特急券でも良い旨を伝える。「はやぶさ」が全て満席なら「やまびこ」を乗り継いででも、盛岡まで向かうつもりだった。
 相席で良ければ、一一時五六分発の「はやぶさ55号」に乗れると言う。もしくは、同車と連結の「こまち55号」ならば、通路側席が空いているという。「こまち」を選ぶ。


 


 発車ホームである20番線には、既に列が二本出来ている。一本目の列は、先行して発車する「とき319号」の利用者だ。「はやぶさ・こまち」は全席指定席なので、そんなに急いで並ぶ必要もないだろうと、呑気に構えてホームを散歩し、写真を撮影する。
 秋田新幹線の車両、E6系に乗るのは始めてだ。2列+3列で横5列の「はやぶさ」の座席と異なり、「こまち」座席は2列+2列の4列となっている。少し贅沢な気分になる。


 隣席、窓際には少女が座っている。自席の前に巨大なスーツケースを抱え、テーブル上には日本史Bの参考書が置かれている。受験生のようだ。定刻通りに発車する。
 通路側座席のため、車窓を撮影するのはやはり難しい。その代わりに、車内販売で買い物をする時は楽だろうと考えていた。ところが、車内放送によると、この列車は臨時列車のため、車内販売は行わないという。手元にある『JTB小さな時刻表』を確認すると、確かに臨時列車である旨が記載されている。残念だ。通路側座席のメリットが、全く何も無い。


 隣席の少女は、タッパーに詰められた手作りの弁当を食べ始めた。母親が作ったものなのか、祖母が作ったものなのか、それとも自分で作ったものなのかは分からない。旨そうな玉子焼きだ。この少女は、これから祖父母の住む田舎に帰省するのか、それとも祖父母が関東地方に住んでいて、両親が住む自宅が北東北にあるのかも、分からない。現役なのか浪人生なのかも分からない。確実に分かっている情報は、少女は日本史選択者であること、自分は朝から、立ち食いソバ以外何も食べていないこと、空腹であること、幕張のイオンで買った爽健美茶以外に何も飲食物を持っていないこと、玉子焼きが旨そうなこと、そして車内販売が無いことだ。
 車窓は撮影できない。だが、撮るものは他にもある。鉄道系ユーチューバーに感化されて、スマホにダウンロードしておいた速度計アプリを起動する。表示される速度を中国製アクションカメラで写す。この旅行の直前に、高円寺のハードオフにて2970円で購入したものだ。
 速度が刻々と変化するのを、眺めているだけで楽しい。これは、新しい楽しみだ。都内から大宮までの区間は、やはり遅い。大宮より北は、速度を上げていくが、時速300キロ以上には中々ならない。アプリの走行区間表示を、新幹線モードに切り替えるのを忘れているため、並走するニューシャトルの駅名が表示されたママになっているのは間抜けな話である。
 列車は那須塩原を通過し、福島、仙台方面へ順調に進んでいる。にもかかわらず、自分のスマホの現在位置表示は、ずっと那須塩原近辺のままだ。速度計アプリも、速度を表示しなくなってしまった。回線が混雑しているためなのか、このスマホの性能が低いのか……。結局そのまま、仙台付近まで列車は進む。
 スマホのカメラの拡大機能を駆使し、撮影角度を工夫して、無理矢理車窓の撮影を試みる。南東北の空と山塊。空と山塊とに凛々しく挑む無数の送電塔。現在工事中のリニアモーターカーを除けば、この「はやぶさ」は日本で最も速い鉄道であり、その速度は文句無しに爽快であるが、防音柵がしばしば視界を遮ることが惜しまれる。
 トンネルの黒と、青と緑との反復。時にトンネルが長く、また逆に青と緑が長くなる。


 仙台を過ぎた所で、窓際の少女は、窓のブラインドを下ろして眠り始めた。自分のスマホの位置情報は更新されず、何時まで経っても栃木福島県境を示したままだ。
 今夜の宿泊地をネットから予約する。旅行アプリは何の問題も無く繋がる。
 それ以外やることが何も無い。今日は朝が早かった。何時しか自分も寝てしまう。
 

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