バタマリバ人の土地・クタマク
過去に訪れた辺境を回顧する際にクタマクを思い出さないわけにはいかない。そこで今回はクタマクについて書く。
クタマクとは何か
クタマクとは地域名であり、西アフリカの小国トーゴ共和国の北部に位置している。そこにはバタマリバ人が住み、タキヤンタと呼ばれる住居に住んでおり、その住居が独自の形をしており宗教観や社会構造と結びついたことが評価されてユネスコの世界文化遺産に2004年に登録されている。
海沿いの町には人や物が溢れる。陸で車やラクダなどを用いて労力を使って運ぶよりも物を浮かせて運んだほうが手っ取り早いし沢山運べるため、海沿いの町が都市間の結節点になることもあるいは都市になることも必然である。そして、南北に長い国・トーゴの首都も例外でなく、ギニア湾に面したトーゴの南部に首都のロメがあり、隣国のガーナのアクラ、ベナンのコトヌーとの結節点になり、他欧米諸国からギニア湾を通して人や物が流出入する。今回のクタマクはまさにその逆、トーゴ北部の内陸部、人や物が集まらない地域の話である。
クタマクへ向かう
クタマクへの道は長い。首都のロメ1日半あればたどり着けるあたり、辺境感が高まる。
第一に、トーゴのロメから北へ500kmのカラという町まで乗り合いタクシーで向かう。トーゴの乗り合いタクシーは、タクシー乗り場で人が集まったら出発する形式である。話は変わるが、日本の辺境を旅していると、乗客がほとんどいないか、あるいは僕だけという状況なのに定刻でバスが到着して1~2時間かけて終点まで行くようなことがたまにある。その都度、僕は採算は大丈夫なのだろうかという心配をしたりするが、こちらの乗り合いタクシーはそういう点では合理的である。人が集まらない限りは出発しないのだ。したがって、待つときは半日ほど待つときもある。この時もなかなか長い時間をタクシー乗り場で待ち、普段吸わないマルボロを吹かし、煙を眺めながら待つ。同様にボーっとしているトーゴの人にマルボロを渡し、感謝されながらも一緒に煙を眺めて時間をつぶす。この地ではマルボロは大正義であり、普段タバコを吸わない僕も常備をしていた。そして乗り合いタクシーが出発し丸一日かけてカラに到着する。何はともあれカラまで来た。ここにはホテルもなければ白人も中国人すらいない。車からぶつ切りになった牛(まだ皮などはがされていない状態の牛)が運ばれ、無造作に降ろされる光景を何度も目にし、この地の辺境さを感じる。
第二に、カラで乗り合いタクシーを探しても、観光客を探しても誰もいない。クタマクは世界遺産登録をされているにもかかわらず、観光客向けに整備されたやわな場所ではないのだ。したがって一台のバイクとドライバーを2日間チャーターしてクタマクへ向かうこととした。途中、バオバブの木の下でたむろしている人たちに指笛でバイクを止められ、甕に入ったビールのような色の液体を、カラバッシュ(ひょうたん)で作った容器に入れて飲み干す。彼らはミレット(ヒエ)でビールを作っている。なるほど、確かに発酵をしていてカラバッシュの底からずっと気泡が出ている。味は及第点と言ったところか。冷えているビールに慣れきっている身としては冷たければさらに嬉しいが。
クタマクにて
クタマクではタキヤンタと呼ばれる独特の住宅群がある。単体のタキヤンタが顔のパーツと対応しているとの説明を受けるが、写真を見ればその対応は明らかであろう。
一階にあるキッチン。
二階にある、一階に敵が侵入した際に弓矢を射る穴。
二階のテテ(タキヤンタの頭)の寝室から出てくる女性
ブードゥー教で呪術をする際に見られる骨は家のお守り。
タキヤンタがユニークな建造物であることを期待していたがそれ以外にも興味深いことを現地で知ることとなった。クタマクに住んでいる女性は舌の先端に象牙をつけている。そして下唇の2cmほど下に穴をあけ、舌につけた象牙を下唇の下から露出している。
ほかにも、タキヤンタを作る前に彼らが暮らしていたのはバオバブの木の中であり、今でもその伝統的な方法で生活をする兄ちゃんもいて、自然との共生を感じる。
そしてこの辺境の地の特異性を感じながら、またカラの町へと戻った。路上で飲んだビールの味をかれこれ10年と忘れられない。そんな辺境の地であったので、もし訪問される方にはタキヤンタはもちろん、ビールの味をかみしめてほしい。