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こうぞの森から -生物多様性と伝統文化を育む里山-

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里山の資源や環境価値を見直し再構築したい、そんな想いでフィールドを探していたところ、楮(こうぞ)という植物に出会いました。 生産・加工を学び、実践する中で日々感じていることや、…
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#里山資源

適地適木と微気象【前編】

前回の記事では、「評判がよい」と称される那須楮の品質基準の曖昧さについて触れました。今回は、自ら発したこの課題を明確にする上で、ヒントとなりそうな切り口について、ちょっと掘り下げて展開してみようと思います。 適地適木林業には、適地適木(てきちてきぼく)という用語があります。 農業より土地改良が困難な林業の世界では、その土地の気象・地形・土壌など環境に合わせた樹木を植栽するすることが重要です。逆を言うと、その土地の環境にあった周囲の樹種を観察してやれば、自ずと植えるのに適した

私が楮(こうぞ)に出会うまで【後編】

森や里山が生む価値 森林や里山から生み出されるバイオマスは、化石燃料や鉱物などの地下資源に比べると圧倒的に短い期間で生産することができる資源です。一方で廃棄される時も微生物によって分解されて土に還ってゆくので、他の資源のようにエネルギーや化学薬品等に頼らず、比較的短時間で分解されます。つまり地球にかかる負担が少ない資源といえそうです。 さらに、森林は素材以外にも、降雨を長い時間をかけて保水するダムのような水源涵養の役割や、光合成による二酸化炭素の吸収源の役割、そこに集まる生

私が楮(こうぞ)に出会うまで【前編】

遠回りした挙句、私は楮という植物の存在を知り、栽培・加工の担い手として関わりを持つようになりました。そこにはいくつかの偶然や大切な気づきがありました。ちょっと長い前置きですが、私と楮が出会うまでのお話、どうぞおつきあいくださいね。 製造業の開発現場の裏で見えてきたもの 私は以前、自動車メーカーに勤務していました。所属はIT部門で、設計者や解析担当者の業務が円滑に進むよう、開発部門にソフトやハードなどITリソースを提供したり、エンジニアリングに特化したソフトの開発や運用を担当