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氷の川のお姫様

むか〜し、むか〜し、あるところにハナゲとパンダという二人が住んでいました。いい歳ぶっこいても、いつもいつも一緒にいました。

ある日「涅槃Tシャツカッケーです。刺繍なんすね!」。ハナゲが書いた『Nirvanaへの道』を読んだ新しい潟に住む友人ヤマさんから連絡がありました。そのT-SHIRTは『至私福服』で友人ハマさんが買ったモノ。青い葉が生い茂げる美しい丘にある摩訶不思議なお店『至私福服』。時間も業種も超越した小宇宙。「オーダーになるので少々お時間いただくことになりますが、サイズも色も指定できるので楽しいと思いますよ。またお待ちしてますねー!」と至私福服のトモさん。

数日後の週末、無事に『至私福服』へ行きオーダーを。そのまま帰れる程、陳腐なお店ではありません。そこは小宇宙。いつも通りにあれやこれや物色していると「見て見て!このパンツ!」と異国情緒あふれる目にも鮮やかな青いパンツを嬉しそうに持ったパンダが話しかけてきました。「おっ!バ○バ○バイ○ンっ!」とハナゲも嬉しそうでした。

「ん?バ○バ○バイ○ン??」と至私福服のヒデさんとトモさんがキョトンと。「・・・また調子に乗り過ぎた」とハナゲが反省しその説明をしました。

それは、氷の川のお姫様が唄う曲の名前でした。それから、四人で氷の川のお姫様の話で小盛り上がり。

『至私福服』を後にして次の目的地、自由な丘へ電の車で向かいました。ガッタ〜ンゴットン、ガッタ〜ンゴットン。初夏の夕方の景色が好きなハナゲは、ボ〜ッと外を眺めていました。週末ということもあり、人もそれなりに多く、ほとんどの人が下を向いてスマートなフォンをポチポチ、ポチポチ。外の景色を見ることもなく、周囲を見ることもなく、ひたすらポチポチ、ポチポチ。スマートなフォンを持たないハナゲからすれば、相も変わらず異様な光景に見えました。

電の車が駅で止まり、人が降りては乗ってくる。そんないつもの光景を視野見していたハナゲが突然、異質な空気を察知しました。「・・・んっ?誰だ、あの人?」。その人はハナゲの横に立っていました。ハナゲの特技、”瞬間スキャニング”のスイッチがオン。「身長、髪型、服装、靴、手荷物、路線、乗車駅、時間帯 etc. . .」。マスクが必須になってしまった時代において、さらに大きめのサングラスをかけられては「ん〜〜、誰だ(汗)?」、流石のハナゲでも瞬間的に認識できませんでした。

「ねぇねぇパンダ、隣の人、見えるでしょ?あれが本物の氷の川のお姫様、本人だったら凄くない(笑)」、「えっ?そんな訳ないでしょ・・・」。

何故ここでハナゲがそんなことを言ったのか・・・ハナゲの無意識の直感は時にとんでもないことを引き寄せます。

「そうだよね〜〜」と流石のハナゲも内心思いましたが、何か引っ掛かる要素を無意識に感じていたようです。たまたまその人も同じ自由な丘で降りるそぶりをしていました。すると一緒に居た小柄な女性に向かって「〜x〜xx、〜〜、〜〜x〜x」と、その人の声が微かに聞こえ「(あ”っっっ、ほっ、ほっ、本人だっ〜〜〜!)」。

さらなる確信が欲しいハナゲは、電の車を降りると同時にその人の横に回り込み、大きなサングラスの僅かな隙間からその奥を覗き込み「(ひょえ〜〜〜、完全にお姫様本人だっ〜〜〜!)」。その事を小声でパンダに伝えました。パンダはリヴァイ兵長ばりの俊敏な動きでその人の横に回り込み、驚いた表情でこちらを見ました。あの動き、そしてあんな表情のパンダは初めて見ました。

興奮冷めやらぬハナゲとパンダは、あわあわしつつ「でも、こんなご時世だし話しかけたら失礼だし、ましてや握手も出来ないし、どうしよう、どうしよう(汗)」と、いつもは冷静のハナゲもわちゃわちゃ。

取り合えず後をつけました。捕まらない距離を保ちつつ。

自動な改札も、お姫様、パンダ、ハナゲと並んで。この時点では距離もクソも無いのです。ピッ、ピッ、ピッと次々に人が通れる、それが自動な改札のはずでしたが「えっ、あれっ・・」とお嬢様は慣れていない様子で、危なく興奮気味のパンダが激突しそうな距離まで接近してしまいました。

無事に外に出られたお姫様。

ハナゲとパンダは、そんなお姫様の綺麗な後ろ髪を眺め、心の中で「いつも応援しています。帰ったら中華屋さんから借りっぱなしのDVDを観ます!こんなご時世ですが頑張ってください!」と大声で叫んだとか叫ばなかったとか。

この星には、約78億7500万人の人が暮らしています。

この最果ての日出る島国には、約1億2547万人の人が暮らしています。

そして東の都には、約1390万人の人が暮らしています。

そんな世界で、自分が思いを寄せる人と出会う確率、さらにそのお相手が一般的な人ではなく住む世界が異なるお姫様だとしたら・・・。

それは紛れもない・・・”奇跡”。ビッグバン並みの”奇跡”です。

周囲をキニシナイ、スマートなフォンをポチポチ、ポチポチ、淡く白い衝動、目的を意識せず、ただ何らかの行動をしようとする心の動き、南風の心地良さにも気付かず日々を過ごす人たち。

鬼太郎のようなアンテナが必要な時代に加えて、限界を突破して生き残った人々(サバイバー)だけが手にする奇跡。

この奇跡は・・・沢山の友人の人生が折り重なり紡いだモノ。”者”であり”物”。「いつもいつも私たちは恵まれているな〜。もっとみんなに感謝して生きていかないとね!」。

ハナゲとパンダは、自由な丘で黄昏時の空を見上げえてそう思うのでした。


めでたし、めでたし。



※地球の絵は『アトリエ 言の葉』2021年の限定カレンダーからSUZUさんの”地球”を使わせて頂きました。

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