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女と女とタバコの味

なぜか分からないけど、レズビアンは喫煙率が高い。本当に高い。だいたいネット上で出会い探すと「喫煙者か否か」の表明はかなり見る程度には高い。

これがビアンバーになってくるとさらに跳ね上がる。酒の席だからというのを差し引いても、もくもくさせる人の多いこと。

それだからなのだろうか。私のレズビアンとしての思い出の多くはだいたいタバコの香りがする。

未成年の時に付き合った人にもまあ喫煙者はいたのだけど、幸い常識的な成人が多かったので私の目の前で吸う人はいなかった。ほんのりと髪と口の中に残る苦い風味が女性の風味。この時は原体験といえるほどの強烈さはなく、なんとなく雲のようにふわふわとタバコの影を感じていた。

成人してからビアンバーに繰り出し、当時付き合ってた女性が喫煙者だった。彼女は紙巻のタバコも吸っていたのだけれど、家やシガーバーに行くとクソでかい葉巻やらパイプやらを燻らせていた。

深い紫煙の向こうに、日々の仕事で疲れた彼女の顔がゆらゆらと見える。そんな風景が「成人として見た、成人済みの女」の姿。ちっとも自分が同じ場所に立ててる気がしないどころか、実体のない煙が質量のある壁のようにすら思える。気が付くと私もバーでタバコに火をつける人類になっていた。

タバコはレズビアンとして生きる私にとって、コミュニケーションツールとしてめちゃくちゃに優秀だった。なんとなく吸いにくい集まりで「ちょっと吸いに行かない?」と連れ出す口実にもなったし、その場のノリでなんとなく知らない女性とシガーキスしてみたりしたこともある。タバコを交換すると、なんとなく秘密を共有したようなゆるい連帯感が生まれる。

「性的マイノリティ」でなんとなく集まってる者同士だから深い話はしにくい。だからこそ、気兼ねなく自己を開示できるのがタバコだった。

タバコを女性解放や自立の一つとして見る向きもあるらしいけど、多分この界隈ではそういう意味は……ないわけではないのだろうけど、私にとってはゆるいシスターフッドの一種の側面が大きかったと思う。いいことを一緒にした関係より、悪いことを一緒にした関係のほうが魅惑的だし心地いい。

だから、私は普段タバコを吸わない。私にとってタバコは嗜好ではなくレズビアンと結びついた文化的行為なのだ。

社会の隅で女を想いながら、ぬるい共犯者関係に火をつけて吸う。

焦げ臭い香りをかぐたびに、バーに漂っていた化粧の匂いが恋しくなる。

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