中国と表現の自由

中国とアメリカの間には根本的な価値観の違いがいくつかあります。今まではその違いがビジネス界に与える影響は限られてきましたが、その状況が変わりつつあります。その深刻さの一端が見て取れた最近の二つのイベントを分析したいと思います。

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まずはアメリカのバスケットボールリーグ NBA で起こった問題です。NBAは日本でも試合が行われたのでご存知の方も多いと思いますが、発端は Houston Rockets のゼネラルマネージャー Daryl Morey の香港へのサポートのツイートです。これを受けて中国側は NBA を強く批判、NBA をスポンサーしていた中国企業も試合の中継や特に Rockets の試合のストリーミングをキャンセルする等強い措置をとりました。

Daryl Morey と言う一般市民が Twitter と言う中国ではブロックされているプラットフォームでの表現に対してとった中国側の態度には強い意味があると言えます。

アメリカでの表現の自由とはすべての見解を規制されることなく表明することのできる、憲法で守られている権利です。一方中国では社会秩序を乱すものは表現の自由の範囲外と解釈されています。

今回 NBA に対して中国がとった態度にはこの中国版の表現の自由を国外でも適用するという意思の表れといえます。

NBA のコミッショナー Adam Silver は重要な決断を下さなければなりませんでした。中国は NBA にとって大事な成長市場の1つです。この大きな経済的な利益を優先するか、それともアメリカという国が作られる原動力となった価値観の一つである「自由」を優先するか。

Adam Silver は後者を選びました。Daryl Morey のツイートの内容は残念としながらも、彼が表現の自由を行使したことに関しては謝らないという声明を出しました。NBAはアメリカの組織である以上、アメリカの価値観を貫くという決断を下しました。

2つ目のイベントは、ゲーム会社大手 Activision Blizzard の公式戦の優勝インタビューで起こりました。優勝した香港のゲーマー blitzchung が自国のサポートをインタビュー中に表明、それを受けて Activision Blizzard は賞金を差し控えと公式戦の一年間の参加禁止という措置を取りました。

NBA と比べると Activision Blizzard は価値観よりも中国側へ配慮した決定を下したといえます。Activision Blizzard の企業文化の1つは every voice matters (すべての声に耳を傾ける)なのでそれに反する決定となりました。

その背景はいくつかあると思いますが、その中でも中国で最も大きな会社の1つである Tencent がActivision Blizzard の大株主であると言う事は少なからず影響があったであろうと思われます。

中国側は blitzchung の表現の内容に対してコメントをしていません。つまり Activision Blizzard は中国版の表現の自由を自ら進んで中国の国外で適用したといえます。

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中国の経済的な影響力は物の製造や売買だけでなく会社等の資産の所有権にまで及んでいます。その影響力を使えばアメリカでは基本的な人権の1つとされている表現の自由に対しても中国は国外にて影響力を持つことができる可能性を示したといえます。


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