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連載【癌で死ぬか死刑が先か・10】小さい世界のヤクザ

※ お読みになる方へ : 事件の詳細が書かれており、不快な思いをされる場合がございます。ご注意ください。

俺はムショで愛想というのを初めて、身に付けたと思う。
とにかく愛想を心得えることが、この獄中の極悪人共との共同生活に置いて、必要だと思った。
この中ではヤクザが一番に偉そうにしている。
ヤクザ者とだけは揉めたくないし、目を付けられるのも嫌だと思った。
俺の雑居房にもヤクザ者が居るが、俺は出来るだけの愛想で躱す(かわす)つもりだった。

 1人の破門されて別の組の代紋違いに入った奴の話をしたが…
この雑居にももう1人同じ代紋の人が居て、その2人は仲が良く、工場には同じ代紋の人が居て、雑居の1人はその人を兄貴と呼んでいて、その組に入ったようだ…。
まぁ、正式に盃は頂いてない筈なので、出所するまでは、懲役ヤクザだが、ムショではその人が、その組の人間とは変わりない…。
俺はよくこの人から色々と話掛けられたり、運動時に一緒に仲良く喋ったりしていた。
俺の中では、別に断る必要も無いし、害もないなら問題無いと考えていたが、、、それが大きな間違いだった。

 工場の中では関西方面に本部がある大組織が在り、その枝の人間も多く居た。
俺はある日工場での仕事中に、別の班のリーさんって70歳過ぎの受刑者が、リーさんと同じ班で俺と同じ雑居の人に、ミシンで各個人の物だったと思うが、器用に何かを付けてくれた。
それを見ていた俺が「リーさんに凄い上手ですねーっ」て褒めたら、俺の物も作ってくれると言い出したので、
俺は「いいですって」断ったが、リーさんが勝手に俺の物を取りあげて
「いいからいいから」と言って、作ってくれた。

 俺は仕方なく、リーさんに「ありがとうございます。」と言い、自分の席に着いた。
その数秒後、リーさんの班の班長に呼ばれた。
その班長は、聞いた話だと舎弟が他の組のヤクザ者に拉致されそうになり、兄弟分と、そのヤクザ者に向けて銃を打って死なせたらしく、親分ではないが貫禄はある人だ。
因みに今は出所後、関西が本部の大組織の真参(若中)の若頭をしているらしい。

 話に戻ろう。その班長(以後、Fと言う)が俺に…
「松井さん、リーさんと同じ班と違うよね!別の班の松井さんが、何でうちの班の人間に物を頼むの?おかしいだろう!」って揚げ足を取りにきた。
周りには、Fさんのブレンが俺を睨み付けている。
俺は内心イライラした。
俺は一言もリーさんに頼んでない。
勝手に俺の個人の物をリーさんに奪われて、勝手に作られたのだ。
決して、俺からは頼んでないのに、理由も聞かず、この俺がカタギだからとナメ腐った態度に、一言…
「あのさー、リーさんが勝手に俺の物を取って勝手に作っといて、Fさん、班の責任者として、どういう始末とってくれんの?」って言い返したかったが、それを言えば、後々、俺はこの連中にずーっと睨まれる。
要は面倒臭いし、関わりたくないのだ。
関わっても表面上だけでの挨拶程度にしたいのだ。
なので、ここは、嫌々だが相手の顔を立てるために、頭を下げて「すみません」と謝った。

 そこで話は終ったが、何故に、こんなちっぽけな事で、俺が目を付けられているのか、その時点では判らなかった。
しかし段々と、理解が出来た。
要は、Fさんの組織とは別の組織と仲が悪く反目(※仲が悪い)なのだ。
表面上は、その工場の中のトップ同士が朝・夕と工場で挨拶や、話合いもするが、内心はお互い反目なのだ。
そのFさんや反目と仲良く喋っていたり、運動や休み時間に一緒に居たりするので、俺はそっち側の人間と思われていたのだ。

 俺はFさんと昼飯は同じテーブルの真向かい同士やし、、、
そんな風に思われるのも嫌やし、それに、周りからは俺はFさんの反目の組織の俺と同じ雑居の人の舎弟と思われているらしい(汗)
待って待って、、、俺は、仲良く喋っているが、舎弟とかヤクザになった覚えはないし約束もしてない。
何だ!!このデタラメな噂は!?
なので、誤解されるのはイヤなので、少し距離をとった!
運動中は、たまにFさんと筋トレをしたり、昼食中にFさんと色々と雑談したり、休憩時間に色々な人と話したり、将棋したりして、ようやく、Fさんとかとも仲良くなっていった!!
しかしちょくちょく、俺を輪に入れたいのか、Fさんと反目の俺が知らない間に舎弟と周りに思われていた。

 兄貴(以後Mさんと呼ぶ)が呼びに来るので、俺も邪険には出来なく、作業終りの待機時間とかにも呼ばれ、そこに集まる人間は俺以外全て、同じ組織の代紋。
工場の周りの目からしたら、俺が、そっち系の仲間と思われたのも仕方ないのだろうーだが、俺は、ヤクザに入ってはいない。
だから問題無いと思い続けていたのが違いだった、、、

 とある日、俺の班長は、Fさんの反目の組織で工場の中で、この組のマトメ役だった(以後Kさんと言う)Kさんが同じ班の受刑者に、作業のやり方が間違ってたのを、指導に行っていた時のこと…
その受刑者が何を言ったのかは知らないが、Kさんがその相手を大声で怒鳴ってた。
勿論、作業中は勝手に担当さんの許可なく、喋ったり、無断離席もダメである。
が、ヤクザはいかんせん、面子で生きている所がある。
ましてや、怒鳴っているのが、工場の中の同じ組織のまとめ役となれば、同じ組織のヤクザ者が立ち上がり、その席に歩み寄る。
要は組織の団結力と周りの威圧のアピールもあるだろう!
これは、担当が止めに入ってピリオドが打たれた。

 本来ならば、喧嘩両成敗で、無断離席した人も懲罰だろう!
だが、どこの刑務所でもそうだと思うが、担当の匙加減なのだ。
この担当は工場の皆から慕われてもいた。俺もその担当を慕っていた。
その担当には、心があった。
受刑者だからと言って見下すことはしなかったし、何かあれば、親身になって話を聞いてくれた。
だから、担当の顔を潰さない様に、その場は納まった。
これが融通(ゆうずう)のきかない担当なら、即、非常ベルが鳴っただろう!

 問題はその後に俺に降り落ちる。。。
Kさん側のヤクザ者が、Kさんが怒鳴った時に、俺だけ、立ち上がってなかったと、不満を言いだした。
おい×10、Kさんが怒鳴ってた人は、カタギやし、どちらかと言うと年寄りだし、、、1人相手に、何人も行く必要があんの?
いや、そう言う問題じゃなく、俺はそもそも、ヤクザでもなく、Kさんの組織とは関係無いのに何故、、、
俺までが、組織の面子の為に立ち上がらんとアカンの?
仲良くしてはもらってるけど、相手はカタギの年寄り、そんな相手に俺が立ち上がる意味って何ですか??
まさか、、、俺は、もう、そっち側の組の人間にされちゃってますか!?
そりゃーヤクザ者がよくいう所のスジが違いませんか!
このことで、1人は別としてブツブツ言ってはこなかったけど、、、何か気分が悪い。

 もうその頃の雑居には、Kさんの組織の人は全て、別の雑居に転房になっていた。ここで、問題がまた出てくる、、、
俺の雑居に、Kさんの組織では、そこそこの偉いさんが入ってくるらしく、Kさん達に、その人の面倒を見てくれと俺は頼まれた。
この雑居は、ヤクザではないがKさんの反目のFさんの腰巾着が居て、Kさん側のブレーンを反目として見ていた少年院出で、殺人者だ。
年は俺よりは若いが、とにかく、我がままな奴で、てめぇーが気に入らないと因縁を付けてくる。
これが、雑居房に入ってくる。Kさん側の組織の偉いさんにも、立てつくから困った…。

 その当時は冬で、俺の雑居房は結露がすごく、室内の空気の循環をよくする為に、2つの窓を3㎝ぐらい開けていたのだが、その窓際に、先程述べた、親分さん…その方が寒くて、知らん間に、窓を片方だけ閉めてしまう。で、その元少年院がイライラして、窓を開ける。
そんな繰り返しが何度かあった。
俺は悩んだ。。。寒いのは分かる。だが窓を3㎝ぐらい開けるのは、雑居の決まりみたいになってたし、いくら親分さんでも、、、と思ってどうしたらいいのか悩んだ。
年寄りの親分さんには、寒さは身に染みて、中々と眠れないのだろう。
親分さんの片を持って元少年院の奴に、言った所で、聞く耳は持たないだろう。
俺も反目側の人間として認識してるし、それをいい事に揚げ足を取ってくるかも知れない。
なので、俺の3枚中の毛布を一枚、寝る時に貸してあげる事にした。
それなら、俺が使っている毛布だし、誰からも文句を言われる筋合はない。この件はこれで終わった。

だがまた問題が発生。。ムショの雑居に反目同士が居ると、よくあることである。
俺が居る、雑居房の中には3類(※1~5類に分類され、数字が小さいほど優遇)は1か月前になった俺だけだ。
3類になると自分のお金でお菓子とかジュースが買える。
勿論、決まった金額の中でだ。
岐阜刑務所は500円分のお菓子やジュースで、AとBのメインが違い、どちらかを選ぶ。夏はアイスも食べれる。
これらは、ムショの受刑者の楽しみの一つだ!
誰でも食べれる訳じゃなく無事故の人だけである。

 集会室で集まって食べ乍ら、DVDや録画の映画を観ながら食べるのだが、周りの食べ音がうるさく、マトモに映画に集中できない。
お菓子類は全て食べるか、ゴミに捨てるかだ!
だが、ここはムショの中の懲りない面々の集りで、同じ雑居房の食べれない奴らの為に、男気を張って見付かれば懲罰だが…成るべく見付からない所に隠して持って行く。
俺の場合は股の間だ!股の間と言っても、そのままでは歩いてる内に落ちてしまう。
なので、最初から、医務用のテープを集会室に行く前にくつ下とかに仕込むのだ。
で、看守の目を盗んで、股の間に仕込むのだ。
いちよう声高に言っときますが、お菓子の中味は袋に包まれているので、食べ物が直接、股下の物に触れてはいないので、袋を開ければ、衛生上、何も問題はないのだ。
気持ちの問題と言われる方が居るかも知れないが、そんな事を考えていたらムショでは生きていけないのだ。
朝、昼、夕、の一日3回の食事にしても、やれ、髪の毛が入っていたり、腐りかけていたり、虫が入ってたりで、一々とそれらを考えてたら、ムショでは生きていけない。

 話は逸れたが、俺の基本的の考え方は、誰々を差別するとかは嫌いで、できる限り同じ室の雑居房の同囚なので、誰々だけを仲間ハズレにするより、皆でワイワイと仲良くした方がピリピリした空気より、良いに決まっている。
なので、房に戻れた時には、看守にバレる事もなく無事に房に戻れたことにホッとして、お菓子も均等に分けた。
3人居たから3人に分けた。
次の日だったと思う。同室の雑居房のKさん側の組織の親分さんだかが、Kさんに、俺からお菓子を貰った話をしたらしい。
それでKさんから「広志!お前いい所在るじゃねーか」って、ニコニコし乍ら背中を叩かれた。
俺は、「いや、、、別にたいした事はしてませんから、、、」と言った。

 その日の工場も終り、2日後の工場で、Kさんに呼び出された。理由が見付からない、、、話を聞くと、Kさんが、組以外の親分さん以外にもお菓子を分けた事で俺に叱ってきた。
「何故、他の奴らに分けんの?全て、親分さんに食べさせればよくねーか!?」ってことだ。
これらのチンコロは、前述に述べた、工場でKさんがカタギに怒鳴った時に俺が立ってなかったとチンコロした人だ。
そもそも、このチンコロヤクザは、てめぇ~の組の兄貴分を殺しといて、何が、皆で結束しないとだ(怒)お前だけには言われたくねーし。

 俺はあんたらの組織と関係ねーだろ!ムショってところは、いくら、カタギでも、ヤクザ側が同じ組織側の人を探す為に近寄って、いい事を言って、仲間に入れるのだ。
それで派閥を作り、力を少しでも保持する為に、最初は優しく近寄ってくるのだ。このクールと優しさのギャップを態とするヤクザも入る。
一度目のギャップ二度目のギャップ、これを心理用語で初頭効果と言うらしい。

 後の方で話するが、この手のヤクザに俺は、ハメられた。
今回もそうやが、雑居房に帰っても俺をKさん側の人間と見ている反目の奴が居て、俺をナメてんのか、何度か挑発する。
こいつは、ただの筋肉バカだが、少年院を出ている奴には、ヤンチャが多い。
それにこいつは殺人者だ!そもそもKさん側のヤクザも皆が殺人者やし、ここ岐阜刑務所は、殺人者と会わん日は無いに等しい。
この筋力バカも、俺より年下やし身長も低い。
俺は、交通事故をして右足が不自由になってから、自分に自信が持てなくなってた。。。
事故前の俺なら、売られた喧嘩は買うだろう!
それにこいつはカタギや!ヤクザのFさんにペコペコして擦り寄ってはいるが、ただのクソガキ。
だが、俺の足が不自由だから勝てると思い俺をナメているのだ!
今の俺は、こんなバカでも勝てる気がしない。
寝技に持っていけば勝てそうやが、上手く行きそうもない。
何か俺は疲れた。。。

Vol.11に続く

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