君の近くに行く方法

「あ」
短い悲鳴が聞こえて振り返る。彼女の手から離れた絵コンテが地面に落ちていく真っ最中だった。眉を寄せ、彼女は拾い上げる。
足元に舞ってきた一枚を拾う。枠の中に描かれた人物画は演者にそっくりで、横に書かれた説明文も丁寧な字で簡潔に書かれている。
「あんまりじっくり見ないで」
困り顔の彼女に没収される。
「参考にしようと思ったのに」
「粗だらけだからやめて。私より上手い人なんて沢山いるんだからさ」
そんなことないのに。僕が口を開くよりも早く彼女は先輩に呼ばれ、駆けていった。三脚に置かれたカメラの横、彼女は先輩と絵コンテを見ながら何やら話している。会話の内容は残念だが理解できなかった。首を傾げながらも彼女は楽しそうで、先輩が羨ましかった。
水を得た魚となった彼女を近くで見るにはカメラの向こう側に行くしかない。演者ではなく作り手になれば、彼女が近くに来てくれるかもしれなかった。
その為にはまず脚本を書かないといけない。書きあがったら彼女に見せて渋る彼女を説き伏せて絵コンテを借り、ついでに補助をお願いする。彼女の絵コンテがじっくり見られて尚且つ近くにいられて一石二鳥だ。
頭の中でイメージトレーニングをしてほくそ笑む。そんなこととは露知らず、彼女は呑気に手を振って笑っていた。

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