霧の中で

外に出ると辺り一面を霧が覆い尽くしていた。
チラリと背後をうかがえば、仲間達はまだ玄関で準備をしており、来る気配はない。
(少しだけならいいかな)
私は霧の中に歩いていった。
少し歩いただけなのにもう建物が見えなくなってしまった。
このまま歩いていったら異世界に行けるのではないか。
そんなことをボンヤリ考えていると背後から声をかけられた。
振り返れば彼の姿があった。
「何してるの」
「暇だったから散歩」
「急にいなくなるから心配したよ」
「ごめん。でもさ、霧って何だかワクワクしない?」
首を傾げられてしまったが、気にせず続けた。
「気付かないうちに異世界に行けそうじゃんか」
「異世界行きたいの?」
「出来るなら」
「それは困るよ」
「何で?」
「会えなくなっちゃうから」
「え?」
それはどういうこと、と聞き返す前に霧の向こうから私達を呼ぶ声が聞こえた。
「戻ろうか」
私は頷いて彼の後を追うしかなかった。

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