君とさよなら

届きそうで届かない何かがあった。私と君との間には透明な壁があるみたいで、いくら手を伸ばしても君に触れることは叶わない。もどかしくて、でもどうしようもなくてただ時間だけが過ぎていった。
君と出会った春が過ぎ、君に手を伸ばした夏が過ぎ、君に手を伸ばすのを諦めた秋が過ぎ、君を眺めるだけになった冬が過ぎ、また春がやってきた。
もう君を眺めることすら出来なくなる春がきてしまった。
卒業式と書かれた看板を横目に校門をくぐる。普段とは異なる緊張感に包まれた校内を歩いて教室に入った。真っ先に君の姿が目に飛び込んできた。沢山の友人に囲まれて笑っている君の目には涙が光っている。制服の胸につけられた造花が否応なしにでも君との別れが迫っているのを突きつけてきた。
実感したら涙が込み上げてきて、このまま教室にいたら本当に泣いてしまいそうで、私は廊下に出た。
何処か人気のない場所に行こうと足早に歩いていた私を呼び止める声があった。
心臓が大きく脈打った。平静を装って振り返ると君が立っていた。私を追いかけてきたのだろうか。呼吸が乱れていた。
「どうしたの?」
問いかけた私の声は微かに震えていた。君はじっと私を見つめ、長く息を吐き出してから口を開いたのだ。
「気配り上手だよね」
「え?」
「困っている人にさりげなく手を貸せるの、凄いなって何時も思ってたんだ……それだけ。じゃあね」
私が何か言う前に君はスカートを翻して駆けていった。
追いかけることも出来ずに私は立ち尽くした。
もしかしたら勇気を出して話しかけていれば、友達とまではいかなくても、たまに話す同級生くらいにはなれたのかもしれない。
後悔してももう遅い。頬を伝う涙を拭っているうちに君の姿は見えなくなっていた。
諦めないで手を伸ばして、もう少し君を知りたかった。

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