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03-2

「に、しても、さ」

 ようやく網屋も席につく。味噌汁を口にしてから、それはそれは深刻そうな顔で尋ねた。

「本当に出会い、ねぇの? 大学生ってそんなもんなのか?」
「無いです。皆無です。孤独の海に沈むばかりです。そう言う先輩はどうなんすか」
「どうって?」
「彼女とかいないんですか」

 真っ向から斬り込んだ。戦場のど真ん中に全力で足を踏み入れた感触。前から聞こうと思っていた事柄である。今聞かないでいつ聞くか。

「……お、お、お前は、ど、どうなんだよ」
「質問を質問で返しちゃぁいけねぇな先輩」

 真正面から見据えるが、網屋は目を合わせない。

「ど、ドーテーではないぞ」
「素人童貞ってことか」
「う」

 網屋の動きが完全に止まる。

「…………いません」
「ああ? 聞こえんなァー?」
「生まれてこの方、彼女なんていません!」
「よぅしよく言った! 白状しちまえば楽になる! まぁ、大丈夫っすよ先輩」

 相田の言葉に、網屋は頭を上げる。

「俺も、彼女なんて作ったこと、無いですから……」
「嬉しくねえ共感だなぁオイ」

 口に茄子の漬物を放り込んでから、網屋は哀れみの視線を投げた。お互い様なので空しくなるだけだが。

「そもそもさ、彼女ってどういうシステムで出来るもんなの? 全く分からん」
「俺に聞かれても困るー。まず出会いってやつから始めないと駄目なんじゃないですか」
「であ、い……?」
「やめれ。その、感情を知らない宇宙人が初めて友情に触れた時みたいなリアクションやめれ」

 こんな下らない会話を繰り広げながら、相田は既に一杯目の白米を消費していた。網屋がよそってくれた二杯目は、富士山の如き山盛りだった。
 そのまましばらく黙って朝食を取っていた二人だったが、網屋が何気なくテレビを付けた途端、相田が絶叫する。

「うおお、何だ相田、寂しさのあまり発狂したか」
「違いますって! ニュースですよニュース!」

 指差す先は朝の報道番組の画面。いつも通りにニュースキャスターが読み上げる報道はひどく無機的だ。

「こないだのアレ、報道されないんですよ!」

 アレ、とは勿論、先日のカーチェイスである。少なくとも一台の車が側道を越えて畑に突っ込む「事故」である。

「これぽっちも出ないんですよニュースに。全国はともかく、地方局ならやるだろうかと思って見てたんですけどさっぱり」

 相田の疑問も当然だ。だが、網屋は一言でそれを片付けてしまった。

「そういう相手なんだよ」

 相田の眉根が寄る。箸の動きが止まる。

「先生方の功績じゃない。ましてや、俺が情報操作したわけでもない。毎回こうだ、見事に揉み消されてる。そういう相手を、あの先生方は敵に回してんのさ」

 網屋の箸が目玉焼きの黄身を突いて割る。流れ出した半熟の黄身は白身の上を流れ、皿まで侵食する。

「……あの先生方、大丈夫なんですかね」
「何かあった時のための俺だよ。先生達だけで対処できない時はすぐに連絡来る、はず」
「はず、って先輩、そんなんで良いんですか」
「うん。ある程度ならあの人達だけで十分」

 平気な顔で言い放ち、こぼれた黄身を白身でかき集めて、網屋は全て白米の上に乗せてしまった。

「つい最近までは三人で乗り切ってきたんだから、平気平気」


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恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。