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03-3

「おっなっかーがすーいたー、はっらぺーこだー、おっなかーがなーるよーぐーぐーぐー」

 腹の辺りをさすりながら、塩野は人気の無い待合スペースの隙間を歩く。向かう先は食堂だ。

「はらへりー……お、川路ちゃーん」

 内科外来の扉を開けて出てきたのは中川路である。二人とも、午前の外来診療をようやく終えたところだった。

「おつかれーん」
「ほいお疲れ。地獄の午前が終わりましたよ」

 病院側が提示する時間通りに終わらないのが午前の外来診療である。この医師達が昼食にありつけるのは、いつも昼を遥かに過ぎた時間だ。

「あーくたびれた。もうメシ食ったら寝てしまいたい」
「治療計画がぁ~残ってますよぉ~お仕事がぁ~ありますよぉ~勉強会も~あるんだよぉ~」
「うわーヤダ。現実ヤダ」

 エレベーターのボタンを「ダッシュキャンセル」などと訳の分からないことを言いながら連打する塩野。食堂は一階にあるのに、彼らは上へ向かおうとしていた。
 すぐにドアが開き、二人は迷い無く中へ入る。最上階のボタンを押している最中にドアが閉まった。向こう側にちらりと見える、人影。

「目澤は、例の手作り弁当か」
「んだよー。大事そうに抱えて食べてると思うよん」

 中川路は院内PHSを手に取ると、目澤の番号を押す。恐ろしく手短に用件を話して切ってしまうと、四階のボタンを押した。

「あの弁当、誰が作ってるんだ。前の嫁さん?」
「まっさかぁー、それは無いでしょ。無い無い」
「じゃあ誰なんだろう」
「肉眼で確認しました」
「何ッ」
「すっっっごく可愛い女の子」
「何ィ?」
「若くて、めっちゃ可愛い女子が手渡してたよ」
「この俺を差し置いて目澤が? 若い子から? 弁当?」
「病院一のモテ系医師、チャンプ交代ですなぁー。やっぱ独身貴族よりバツイチの方が色気あるってことなんじゃないの?」

 ここで四階到着。階段を注視しながらすぐにトイレの脇を抜け、非常口のドアを開けた。上下を確認すると、非常階段を足早に降り始める。

「じゃあ、目澤もやっと春の時代が来るのか」
「目澤っちだからねぇー。ニブイ、鈍感、朴念仁のフルコンボ四十歳だからねぇー、どうなんだろう。あ、川路ちゃん、その子に手ぇ出しちゃ駄目だからね」
「そこまで下品じゃありません。引っ掛けるのは遊ぶ相手だけですー。質より量なんですー」
「それが下品だって言うんだよぉ」

 二階まで降りると、そこから現在建設途中の病棟へ半ば無理矢理侵入する。こちらは全く人気が無く、内装は整っているが機材が運ばれていないため中は広い。

「えっと、多分五人? かな」
「五人だな。どうしてこうも男ばっかり」
「男にモテるってことなんじゃないの? さっすが川路ちゃんパネェー」
「いや、俺だけが目的じゃないだろうが。お前もだお前も」
「困るゥー僕って妻子持ちなのにィー」


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恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。