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04-4

「……で、翌朝に新しい弁当を持ってきて、前日の弁当箱を回収する、と。そういう訳ね?」
「そうなるな」

 陣野病院食堂。中川路と塩野が、目澤を質問責めにして早一時間。今日の日替わり定食は当の昔に食べ終わって、空の食器は食堂のおばちゃんが下げてしまった。

「今日はどうしたのさ、今日は」
「用事があるらしくてな、今日は無しだ。たまにはこういう事もある」

 中盤から黙って聞いていた中川路は、ひどく険しい顔で腕組みを解くと、重い口を開く。

「二ヶ月前、と言ったな」
「ああ。二月だったから」
「じゃあお前は、この二ヶ月間ずっと、彼女の手作り弁当を受け取り続けていたって事か」
「そうなるなぁ」

 中川路の眉根がますます寄って、険しさは増す。

「二ヶ月だぞ目澤、二ヶ月。女子大生が、二ヶ月もの間、お前に手作り弁当作り続けてたんだぞ」
「うむ。ありがたい話だ。四十男がコンビニ弁当なんて食べていたから、哀れに感じたのだろうな」
「えいっ」

 唐突に塩野が目澤にチョップをお見舞いする。

「何をする塩野」
「今、この瞬間に殺っとけって命令電波を受け取ったニャル。川路ちゃんから」
「よくやった塩野」

 ガッツポーズする塩野。目澤は「解せぬ」といった風体である。

「だがなぁ、さすがに毎日は大変だろうし……もうそろそろ、遠慮しないとな」

 スッと中川路の目が細くなる。

「塩野、もう一撃。今度は全力で」
「そぉい」

 ご結構な速度とパワーで振り降ろされた手刀を、思わず両腕でガードしてしまう。

「だからやめろって! 何なんだオイ!」
「それはこっちの台詞じゃあ! この馬鹿モンがあ!」

 中川路が何故こんなに怒り狂っているのか分からない目澤は、振り降ろしたまま力を込め続ける塩野の手刀を防いだまま、中川路に顔だけ向ける。

「え? え?」
「哀れに思うとか、そういうのじゃないだろうがよー……加納先生んちの娘さんも、そんなんじゃ浮かばれないぞ」
「へ?」
「本当に、ホンットーに、分からないんだな?」
「え、あ、おう」

 塩野の手刀に体重まで掛かり始め、それなりに防御へ専念しないとよろしくない状況になってくる。

「まずお前が、妙齢の女性を一人暮らしの男の部屋に連れ込み、ストッキングかタイツあたりを脱がせて、素足触りまくったってところから自覚してもらおうか」
「…………え」

 防御が解ける。塩野の手刀が脳天を直撃した。さらにそのまま力を込め続けるものだから、頭が少し斜めになる。

「まあ確かに、応急処置しなきゃならんってのはよく分かる。分かるけどなぁ」
「川路ちゃん、いつまでやればいいニャルか」
「まだ続行」
「分かったニャル」

 塩野の手を払うことも忘れ、目澤は呆然自失から顔面蒼白への華麗な転身を遂げる。

「ど、どどどどどうしよう、こ、困った」
「ま、他の女に同じことやらなけりゃ大丈夫だ。加納さんに手出ししたわけじゃないんだろ?」
「まさか、まさかとんでもない。そんな事考えるものか!」
「塩野、捻じ伏せろ」
「了解ニャル」

 今度はもう手刀ではなく、両の掌を重ねて押さえつけてくるのだからたまったものではない。抵抗する気がないから故なのだが、目澤はテーブルに突っ伏す羽目になった。


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恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。