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【日記】27歳ファーストウィーク

土曜、6月8日、宮野真守とカニエ・ウェスト(現イェ)と自分の誕生日。紛れもなくビッグスターの星であり、自分の苗字は「星」野、である。27クラブの土俵に立って、見えてきたものは死よりも30代というセーブポイント。

朝、昨夜久々にワインとビールの交互浴をしていたのでじんわりとした二日酔いで起きる。過食に走るのを抑え込めた分、体重の数値も安定していて良い切り出しだった。思えば、26歳の自分は「自らが摂食障害である」ということを「あえて否定しない」ようにしていて、食べたくなければ食べない、断りたかったら断る、と半ば身勝手な意識でいたのだけれど、それはかえって自分の許容できる範囲を狭めてしまい、身体は衰えていくのに脳内は常に食が占拠していて失敗だった。ただの水にさえ抵抗を示すようになってしまったことの代償は大きい。まだまだ寛解までは届きそうにないが、失敗と成功を繰り返しながら自分の心身が生きやすい状態を見つけたい。

夜分に日記。さんからLINEが届いていて、なんとLINEギフトでリファの美容ブラシを贈ってくださった。まさか自分が所有できる日が来ると思わなかったので驚きつつ、感謝の気持ちで溢れる。年齢も鑑みて、これからは美容や健康への投資にかける額面が多くなりそうだ。

昼前に支度して、新宿三丁目の伊勢丹へ。うちゅうブルーイングの新作フルーツサワーを買わねば、と数日前から意気込んでいたけど、昨夜のアルコールがまだ残っていて買う気になれず。酒コーナーを抜け出て上階へ。相変わらず金持ちツーリストの多い商業施設だ。子供の玩具売り場のフロアで、店員の説明を受けながら慎重にベビーカーを選んでいる新生児の父母さん方がなんだか印象的だった。

散歩がてら新宿駅まで歩いて帰路へ。最寄り駅について、そのままコーヒー屋で迎え酒をした。1タップだけだったのが、ケンさん曰く「夏仕様」ということで3タップに増えていて、ここでも開栓したばかりのうちゅうブルーイングを飲んだ。6.5%あるのにすっきりとした苦味で癖がなく、今日みたいな暑い日にぴったりのゴクゴク系。近所に住むカメラマンのNさんがいて、少しだけ雑談してから家に帰った。

帰宅後、長い間閉じたままにしていた本棚を物色して、安部公房の「砂の女」を取り出す。自分の一番好きな作家が彼、安部公房なので、数冊所持しているけど会社員時代は忙しさにかまけてほとんど本を読まなかった。ので、欲しい本を買う前に、①記憶が薄れている本を読み返す ことと、②積読を消費する ことを自分の中に誓った。「砂の女」が好きなのは、現代にも通ずる創作文学であるのにもかかわらず、ふとした一節に生きる上でのメソッドとなりうる言葉が記されているからだ。ほとんど人生のバイブルと言っていい。

人間は砂漠のようなものだ。目指す方向がなければ、ただ迷い続けるだけだ

安部公房「砂の女」

読み返していたらいつの間にか夜になって、そのままストックしていた冷凍うどんをゆがいて明太ソースと和えたものや、納豆を食した。誕生日当日だが、ご馳走の翌日はほとんど必ず胃に優しい自炊料理が恋しくなる。Xやインスタ、LINE、また店AとBでそれぞれ使っているSNSツールから、誕生日おめでとうのメッセージが飛んでくる。誕生日にあやかって、前前職の制作会社の頃のMGから飲みに行こうと誘いを受けた。自分は元同僚と違ってうまいこと仕事をこなせないし、比較的人望の薄い方だと卑下しているところがあって、年を重ねるごとに自分を思ってくれる人など減ってしまうのではないか、とある種諦観していたけれど、今のところはまだ増えていく一方であることを認知できて嬉しかった。頭がまだじんわり痛いので、23時頃に寝た。

日曜、朝起きて店Bに行く、が、閑古鳥が鳴く。エリア柄なのか、なぜか週末が死ぬほど暇である。意図せず3連休。夕方に店を出て、ルルルンの保湿パックを買ってから家に帰った。マックシェイクのバニラ味を飲みながら、本棚の中から適当に選んだ2〜3冊を読み返す。益田ミリ「マリコ、うまくいくよ」、若林正恭「ナナメの夕暮れ」、穂村弘と春日武彦の対談「ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと」。振り返ってみれば自分が読みたいと思うものは、常に手探りで不安がりながら生きている状態であることを俯瞰して、これならおそらく答えの方へ導いてくれるだろう、そうではなくとも、お守りや処方箋のような役割を果たしてくれるだろう、と思って手に取るものが多い。だからミステリーにはあまり惹かれないのかもしれない。

夕飯の買い出しをしようと夜に外へ出たら、キャッシュカードを家に置いてきて現金がほんの少ししかない。取りに戻ってもよかったが、面倒なのでとりあえず(?)肉麦へ寄って1杯引っ掛けることにした。トートピアのヘイジーIPA、トロピカルな香りで夏らしくおいしい。そのうち、タイフーブルーイングで働いているTさんが奥さんと一緒にやってきて、WCBの周年イベントどうでしたか、なんて色々と話してから会計し、店を出た。キャッシュカードを忘れたのですっかり自炊する気がなくなってしまい、セブンでバケットサンドとカップの韓国風炒め?を買って帰った。本当に今更ながらマッシュルを観て、ハリポタだな…と思いながら食べ、22時半頃に寝てしまった。

月曜、朝起きて原宿へ。販売職の研修三日目。いつもついてくれていたOさんがおらず、原宿店の店長にあれこれ教わりながら働く。夕方に退勤して、すぐ近所でNukemeさんのポップアップストアが開催されていたのを見、Tシャツ欲しいな、と後ろ髪をひかれながら新代田へ。ペリカンファンクラブとVerrentia、シナリオアートの対バン。

Verrentiaは元Halo at 四畳半の渡井のソロ・プロジェクトということで、物販には同じく元Haloの白井さんが立っていた。昔、渋谷WWWでペリカンとHaloのツーマンをやっていたことがあったが、確かそのすぐあとにHaloは活休に入ったのだったと思う。シナリオアートはペリカンの事務所ソニーレーベルの先輩で、シナリオのMCでも言っていたとおり、点と点がまじわるようなイベントだった。

二番手のペリカンを前に最前列の中心が空いたので、二列目から足を伸ばしてぬるりと前方へ移動する。前回のデジャブ。チケットを買うのがどれだけ遅くても、なんだかんだこの位置まで来れてしまう、それは今の体制になってからのことなので、やっぱりバンド時代に比べて格段にペリカンファンクラブの客足は減ってしまった。事実、この日は平日の早い時間というのもあれど、当時仲が良かった人には一人も会わなかった。

それでも「懐かしい曲をやります」と事前にXで投稿していたペリカンファンクラブのセットリストは目を見張るものがあった。今月下旬にリリースが確定した新曲はどれも胸を突くような美メロと初期さながらの音圧をかけ合わせ、どのバンドとも似つかない(しいて挙げるなら韓国のシューゲイザー ・プロジェクト、Parranoulが近いかもしれない)ものになっていたし、「説明」ではインダストリアルなメロディとこの曲を書いた20代前半のエンドウが抱えていた「自意識への憤怒」が叫喚し、呼応する。「懐かしい曲」として演奏された「Dali」では、サビ部分でギターのリフに合わせてクラップをする観客を前にエンドウが少し感極まりながら嬉しそうな表情を浮かべているのを観測して、デビュー当時から間もない頃、春の宇都宮の屋外フェスで彼らと「春はいいね」と喜び合ったことを思い出した。

そして、しばらくのライブアレンジでのイントロの後に始まった「記憶について」が演奏されたときは耐えきれず泣いてしまった。「砂の女」が人生のバイブル文学であるなら、「記憶について」は人生を並走してくれる曲だからだ。この曲が収録された『OK BALLEDE』のリリース日が6月8日、自分の誕生日、ということもあって、本当に本当に大切な曲なのだ。「帰る場所があるから帰りたくなる」ので、自分は彼らを追い続けて10年経ってもまだここにいる。

自分を取り巻く人やものや環境を理解して ほんの少しだけ自分を理解する

PELICAN FANCLUB「記憶について」

毎度のごとく、だけど変わらず新鮮にエンドウが分け与えようとする生への渇望と希望を受け取りながら、周りには誰もいなくとも、呆れられようともここに来ることは自分のためであることを再確認した。22時頃に帰宅して、セブンのラップサンドとほたてバーを食べ、0時すぎに寝た。

火曜、朝起きて店Aヘ。スタッフに誕生日を祝われ、「ここでは永遠の24歳なので」と冗談めかしながら返す。まだごまかしのきく童顔で良かったと思う。夕方に指名客を受け、部屋の扉をあけると線の細い黒髪センターパートの男性で、相手が何歳かは知らないけれど軽率に一目惚れしてしまった。こういう店にはまず来ないような容姿だった、というのもある。向こうも気にいってくれたようで、また絶対来るよと言っていた。毎週来て欲しい。清算して、セブンのバナナアイスをかじりながら店Bへ出向く。

珍しくスタートから予約が入っていて、受けたら店用のXアカウントと相互フォローの人だった。誕生日だったんだよね、と、巷で話題の「本気のレモンサワー」とトリュフバターのサブレをもらう。某コンビニの店長らしいが、髪が平成初期のヴィジュアル系みたいだったのと、相当アル中らしく終始ストロングの500ml缶を手放さず飲んでいて、控えめに言って引いた。金払いのいいところと、よく喋ってくれるところだけが唯一の救いだった。延長するよと言われ、計150分の接客を終えて、気疲れしたまま部屋の掃除をした。22時半に清算し、0時前に帰宅。セブンの揚げ鶏とほたてバー。猛烈に眠く、食べてからほどなくして寝てしまった。