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【日記】取り返したかった

金曜、ベッドの中でねみ〜と零しながら起床。冬らしく曇天でうすら寒い。大量の唐揚げを作って食べる夢を見た。一人暮らしをしてもう5年ほど経つけれど、未だに揚げ物ってしたことがない。いつも少量の油で揚げ焼きぐらいに留めてしまう。そしてうちにはオリーブオイルしかない。淡々と仕事。書籍の発送対応で定時を過ぎてから退勤。彼氏のクリスマスプレゼントを買わなくては…と思いながら、低気圧が轟々と身体を蝕んでいたので、新宿ルミネを横目に最寄り駅へ。コーヒー屋に着くと健さんの元同僚(健さんは元々BEAMSで働いていた経歴がある)らしき先客がいて、会話が一度途切れたタイミングで冷蔵ケースからビールを取り出して会計。うちゅうブルーイングの「宇宙SENSEI」。グラスに注ぐとほぼ真っ黄色に近い濁りとフルーティーな甘い香り。キンキンに冷やされていて、一口飲むとホップの苦味とラクトースの柔らかさが同時に来て、低気圧由来の頭痛と一週間分の疲労が一瞬で吹き飛ぶ。そのことを脳死でXに投稿したら思いの外いいねが付いていて「皆疲れてるなあ」と思った。

先客が店を出て、健さんと二人になり雑談しながら飲む。二杯目にバナナちゃんをタップで飲んでいたら、「泡で出せなかったけど液体になったからあげるよ」とおこぼれをもらう。結果、しっかり三杯飲んで気分が良くなり、肉と麦を梯子。久々の来店で、前回酩酊して床に体を打ちつけたこと、誰にも突っ込まれなくて安堵(掘り起こされるのが恥ずかしくて意図的に足が遠退いていたのもある)。いつも遅い時間に来る常連の方々と缶ビールを分け合った。京都醸造、WCBとうちゅうのコラボビール、open airなど。それらは京都出身の別の常連の方(ものすごくビールに詳しい)からの土産物で、「あの人らしい癖のあるラインナップだわ」と思う。open airがIPAなのに水みたいにさらさら飲めて美味しかった。23時すぎに彼氏が家に来るとのことだったので、22時半頃店を出る。帰宅して、簡単に夕飯を拵えて、食べながら待った。

まあまあ飲んだのでちょっと酔っていた。でもハモニカ横丁界隈の忘年会から抜け出してきた彼氏はもっと酔っていた。いつも包容力があって大人っぽいのに(それでも最近はだいぶわがままを言うようになった)ふにゃふにゃしていてかわいい。一人称が友達の前だと「俺」、自分の前だと「僕」になるので、ちょっと抜けてるよねと言われつつ、少しは年上のお姉さんに見えているんだろうか。そう思って、直接聞いたら「僕にとっては出会った時からずっとお姉さんだよ」と言われた。生粋の末っ子気質で育ってきて、歴代交際した相手も(誠実か否かは置いといて)軒並み歳上だったから、違和感じゃないけど、これでちゃんと「年上の彼女」をできているだろうかという疑問は常にある。そして、そうなりたいと願う反面で、自分の幼さを肯定されたい気持ちもあり、捨て切ってしまうのは嫌だとも思う。板橋ハウスとか脳死で観られる動画を少し観た。夜の営みについて悩んでいたことが、この日やっと解消されて安心した。普段眠りが極端に浅いのだが、いつも彼氏と寝ていると過眠を疑うほど熟睡してしまうので、明日は昼までに起きようねと言ってから歯を磨いて寝た。

土曜、何時?と隣で寝惚け眼を擦る彼氏に聞かれて、何時だと思う?と聞き返したら「9時半くらいかな」と言ったので、「10時すぎだと思う」と応戦してからスマホを見たら、10:01だった。接戦のち勝利。だいぶ熟睡した感覚があったので、12時すぎくらいかなとも思ったけれども。初台のICCで開催されている坂本龍一のインスタレーションを主体にした展示へ行こうと約束していたので、二度寝せず気合いで起きて支度する。

春一番みたいな天気だった。コートいらないよねと言って二人分のコートを自室のハンガーラックにかけっぱなしにしたまま外に出た。手を繋ぎ初台方面に歩いているとすぐに汗ばんでしまう彼氏の代謝の良さに感服。道中あれこれツッコミを入れながら歩き、オペラシティ内の会場に到着。

ただ飾られているのではなく、体験型展示のブースもあって、スクリーンに映し出された周波数の映像をコントローラーのようなもので動かすと連動して鳴る音やBPMが変わるといったICCらしい前衛的な技術で作り出されたブースだったり、坂本が流麗にピアノを奏でる姿を切り取り、バックに世界各国の都市の写真が絶え間なく切り出されて「世界のサカモト」を体現する動画があったりと、大変見応えがあった。初日でかなり人が多かったものの、ゆったりと1時間ほど時間をかけて見回った。出た後、予想以上の壮大さにあてられてお互いすぐに言葉が出てこず、ただ「すごかった…」とだけこぼしながらエスカレーターを下った。


14時半頃になって、かねてから行きたいと思っていたアイス屋の「kasiki」に行くのは今日だと思って、代々木上原方面へ逆戻り。途中の公園にあったシーソーで遊んでいたら持ち手に太腿を強打した。また別の公園で、女の子がだいぶ高い位置までブランコを漕いで大きな弧を描いていたのだが、公園の幅が明らかにブランコの飛距離を想定したものではなくて、一番高い位置まで来ると隣接する歩道にはみ出るもので絶対危なくないか?という話をした。事実、結構ぶつかりそうで車道にいる彼氏側に身を退けた。

kasikiに到着。少し肌寒くなっていたが全然アイス日和。ナチュールとのセットの写真はインスタでよく見かけていたけど、クラフトビールがあるのは知らなかったので、彼氏とシェアすることに。ウェストコーストIPAを選んで、アイスのフレーバーは慎重に吟味して、自分は林檎バニラ、彼氏はほうじ茶メープルを選んだ。穏やかな土曜の午後に乾杯。

林檎バニラ、ひと口食べると林檎のシャキシャキがしっかり感じられて楽しい。ダイスカットではなく千切りみたいにカットされて入っていた。バニラビーンズが入ったバニラアイスと合わさって濃厚で上品な味。ほうじ茶メープルもひと口もらったのだが、「スイーツのほうじ茶」ではなくて本格的なほうじ茶の香りが鼻にガツンと来て、でも後からメープルの甘さが追いかけるように乗っかって、こちらも大変美味しかった。これにウェストコーストIPAが合う。クラフトなのに邪魔しない絶妙な距離感を保っている感じ。相変わらず朝昼兼用にコンビニのアイスとコーヒーを選んでいる気の狂った食生活だが、やっぱり専門店のアイスは格が違うなと思った。

アイスなので寿命は短く、自分たちが食べ終える頃にはレジに列ができていた。店を出て、やることもなかったので家に戻る。昼寝しようと言って2時間寝た。なんて健康的で文化的な休日なんだろう。彼氏が明日単発のバイト入れようかな〜とバイトルの単発版みたいなアプリを開いていた。自分は知らなかったのだけど、昔からあったのだろうか。大体の接客業はこなせるので、学生時代に知ってたら絶対鬼ほど使ってたと思う。

17時すぎに起きて、自分がオウガのワンマンに行くため一緒に家を出て解散する流れに。次に会うのはクリスマス。当日は家でなんか作ろうかと言ったものの、高田馬場ビール食堂で過ごしたい気持ちもあり(フードを頼んだことがないし、彼氏は絶対に気に入る店だと思うので)迷っている。今週あまり準備する時間がとれなさそうなので後者にするか。

彼氏は帰路へ、自分は恵比寿リキッドルームへ。会場に着くと既に大勢の人でごった返していた(TimeOut Cafeのイベントも同時間帯で行われていたらしい)。年末恒例の単独公演らしいが、自分は初。何せ今年の5月に初めてクラフトロックフェスで彼らを観て、衝撃と感動を受けての今日なのだ。彼らがデビューして間もない頃から存在は認知していたのに、今までライブへ足を運んでこなかったことが心底悔やまれる。

この日も整番が良く、上手の馬渕側、最前列まで来られた。「これから」から始まったライブは混沌としていて、あらゆる音像でフロアを掻き乱し、なのにメンバー個人は淡々とした出立で、MCもなければ煽りを入れたりメンバー間で馴れ合うこともなくて、ただ出戸の、オウガユーアスホールが求める愉悦を心ゆくまで味わうためにそこにいるといったステージで素晴らしかった。他のバンドと群れたり無闇なSNSでの発信をしたり、インタビューの発言も媚びを売ったり図に乗ったりしないスタイル然り、ステージの上でも彼らは孤高のサイケデリック・ロックバンドとして自身が求める理想郷を自らの手で作り出していた。前回観た時にはトリだというのに正直悲惨なほど客が少なかったが、今日はソールド公演だし、演奏中野太い声で興奮を伝える人もいたりして、本当に物凄い景色を見せられているんだと感動した。

「見えないルール」も前回は〈ルール〉のワンフレーズだけを繰り返すものだったが、今回はしっかりと歌い上げた上でさらにプラスアルファのライブアレンジで計15分?いやもっとかもしれない、とにかく長い時間をかけて演奏していた。それなのに、聴き飽きるという感覚が全くなくて、冗長にならない緻密なレトリックが彼らの奇妙な音楽感性には宿っているのだと思った。アンコールでは開き直ったようにメジャーコード主体の「また明日」で締めていたのも含め、もう完敗ですとしか言いようがなかった。デトックスの顔立ちや声質は変わらないが、彼ももう40歳だ。きっとオウガを手放すことは彼らにとってはないのだと確信しているけれど、観られる限り足を運びたい、来年以降も追い続けたいバンドの一つだ。帰宅してXを眺めていると多くの人が口々に「キャリアの中でも最高の状態」と称賛していた。本当はコーヒー屋に寄りたかったけれど、日中割と歩いたのもあって疲れてしまい、夕食を自炊してから1時すぎに寝た。

日曜、9時半に起床するなり「月曜!?!!?」と焦る。土曜の充足感と余分に睡眠をとっていたのとで脳が勘違いしていたらしい。Slackを開いてからカレンダーを見て胸を撫で下ろす。支度して外出。21時半に最寄り駅まで戻って、貰い物のビールがあったのでそれに合わせて鶏胸肉でも焼こうかなあとスーパーに寄ったら、1枚売りが完売していて肩を落とした。諦めて結局三日間とも似たようなメニューに(適当な野菜やベーコンを乗せただけのオープンサンド)。さすがに飽きてしまったが仕方ない。

貰い物のピルスナー、正直に言って自分の口には合わなかった。期待していただけに残念だ。よなよなエールとか東京クラフトみたいなパリッとしたホップ香をイメージしていたのに、なんだか薄くぼんやりとした味で序盤で飽きてしまった。スタイル自体は嫌いじゃないから、多分ブルワリーと自分の好みが相容れないということなんだろうな。ヴァイツェンの方はまだ良かったけれど、ヤッホーが出してる水曜日のネコには劣って草みたいな味がした。切り替えてストックしていた一番搾りを飲む。クラフトじゃないけど、こっちの方が断然美味しい。というか、金曜の夜に飲んだうちゅうのヘイジーが本当に美味しかったよな、と改めてしみじみ実感した。あれくらい個性が強いビール、しかも濁りのあるもの、じゃないと満足できない。結局週末の初めに一番美味しいビールを飲んで終わりに一番美味しくない(と個人的には思う)ビールを選んでしまうという、消化不良な感じになってしまった。来週末は取り返したい。この時期になると毎年再生する『チャーリーとチョコレート工場』を観ながら、調子に乗って致死量のキャベツを摂取したら満足感がキャパを超えてしまい、0時半に重くなった身体をベッドに預けて寝た。