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【日記】誰が人生を否定できるだろうか

金曜、朝4時に起きる。遅い時間に夕食をたべてすぐ寝たので若干もたれているが、気合いを入れて支度し、始発に乗って新宿へ。成田空港を使うのはおそらく初めてだったと思う。バスタ新宿から出ているリムジンバスに乗車して空港を目指す。朝焼けの光を浴びるミラコスタを車窓越しに眺めて、ディズニー行きたいなあと思った。最後に行ったのはおそらく専門学生の頃だが、ミラコスタに宿泊したのはそれよりもっと前、もう記憶がほぼないぐらいの幼少の頃に家族で泊まった。幼少の頃は父が仕事人間を極めており、しかし年に一度家族旅行としてディズニーランドを訪れていたらしいのだが、夜中にベッドとベッドの間にずり落ちて泣いたことしかその頃の記憶はない。

6時40分頃に成田空港着。航空券はスプリングジャパンの格安チケットをとっていて、クチコミを見る限り遅延が多いとかレギュレーションが不十分とか悪評が散見され不安だったが特に何事もなくオンタイムで離陸。予定時刻より20分ほど早く新千歳空港へ。初めての北海道、一時間ちょっとで行けてしまうことに気付き感動した。今の家から実家に帰るより相当早い。

空港から札幌まで出て、駅構内のコインロッカーに荷物をブチ込み(といってもトートバッグひとつ分ぐらいしか持ってこなかったのだが)、快晴の札幌を歩く。東京と違って、道が余分なほど広く空気が澄んでいる。前回の日記に書き忘れていたけど最近は音楽よりも専ら芸人ラジオを聴いていて、このときも、令和ロマンのご様子と真空ジェシカのラジオ父ちゃんをランダムでアーカイブをたどりながら流し聴きしていた。移動の最中はくすりと笑ったり内容に共感しながら聴き入ることができるし、音楽が時々ノイズに感じてしまう自分にとって作業用BGMに会話の打ち返しがテンポ良く進む芸人ラジオを選ぶのはほとんど最適解と言って過言ではない。それと、仕事を辞めるという手前であまり新譜のリサーチにのめりこまなくてよくなった、という解放感も無意識のうちに抱いているような気もする。

20分ほど歩いて「nan's bagel」という小さな店構えのベーグル屋へ。ケーキ屋のようなかわいらしい店内で、妙齢の女性が一人で切り盛りしていた。プレーンとチーズと枝豆の計3種類買って、今さっき東京から来たばかりで…と話す。あらあらまあまあと喜んでくださった。ぷっくりとしたまんまるのベーグル。食べるのが楽しみ。

来た道を戻って、さらに駅を突っ切り反対側へ進む。広場みたいな場所でライラックが可憐に咲き誇っているのを見た。これだけ歩いていると北海道といえどもう暑い。こちらも来ようと思っていた「ONIYANMA COFFEE」へ。

ウッド調の店内に日の光が差し込んで暖かい雰囲気。客層はバラバラで、ランチプレートを頼む人からコーヒー1杯の人まで様々。酸味の効いたエルサルバドルと、エスプレッソをふんだんに使った名物のソフトクリームを注文。どちらも天候に相応しく、ほぼ一瞬で空にしてしまった。この時点で総計歩数は今年一年最多の22,000歩。スニーカーではないのもあってもう足が疲れて痛かったが、一泊二日なのでしっかり詰め込んで堪能したい欲が勝ち、席を立って時計台へ向かった。時計台周辺は修学旅行生が多く、カメラマンに写真を撮ってもらったり、最適なルートはどれかを質問したりしていた。

駅ビルを探索しつつ土産を先に買い、15時のチェックインに合わせて予約した円山公園駅近くのホステルへ。先週は一泊¥70,000のホテル(人の金だけど)に宿泊していたが、今回は1000円分のポイントを使って一泊¥1,000のドミトリータイプだ。どんな写真詐欺があっても文句は言えまい…と覚悟していたが、着くとシックでモダンな内装かつ今まで泊まったどのドミトリーやゲストハウスよりも清潔にされていて、これは期待以上!と一人嬉しくなった。無人チェックインも簡単な操作で問題なく、部屋に至っては自分しかいないのでは?(というか多分本当に自分しか泊まってなかった)と疑うほど静寂に包まれていて、ほぼ?貸切状態だった。

一度シャワーを浴びて休憩を挟み、17時頃になって札幌駅へ戻る。事前にチェックしていたビアバー「ヒニニツカ」で一杯。北海道のブルワリーのみを取り扱っていて、壁面にはそのラインナップが解説の用紙と共に図式化されていた。自分は癖がなく度数も軽めの忽布古丹醸造のセッションIPAにした。水みたいでごくごく飲み干せた。キッチン担当の店長っぽい人と、バイトっぽい男の子の2人回しで、バイトくんのぎこちないながらも優しい接客と丁寧なビール注ぎに心が温まった。

長居したかったが一杯で会計し、後ろ髪を引かれながら再びホステル方面へ。足が限界近かったのでタクシーに乗った。札幌での夕食をどうしようかと勘案していた際に見つけたサンドイッチ屋「憂鬱な木曜日」到着。お店のロゴデザインから間違いなく良い店と確信がもてる。絶対に来たかったので、事前にDMで来店状況について伺っていたが、それでも売り切れたら他をあたれないと思って、そのためにヒニニツカの滞在時間をキュッと狭めたのだ。

中に入ると先客はゼロ、しかし自分のすぐあとにおそらく仕事仲間であろう男女が入店。カウンター奥の席に座ると、タップマルシェの横で大きなオーブンがサンドイッチ用のパンを焼成しているのが見え、小麦の良い匂いがした。若い男性オーナーから説明を受け、ソラチエースと前菜盛り合わせでさっそく飲み直す。つめたいキャロットラペと紫キャベツのマリネ、そしてパテカンの3種盛り、これだけで一杯二杯は飲み干せてしまう。しばらくして、仕事帰りと思しき男性が隣席に座って、缶のクラフトビールを飲んでいたので「お近くなんですか?」と話しかけた。聞くと最近まで高円寺に住んでいたらしく、小杉湯よく行ってましたという話でしばし盛り上がった。その人はサンドイッチをたいらげるとほどなくして会計されていたが、席を立つ折に「札幌楽しんでください」と声をかけてくれた。まさか北の大地で高円寺のローカル話ができると思わず、束の間ではあったが嬉しい出会いだった。

観光なので、と自分を正当化する理由をつけて、周囲の客人を気にせず気になったビールやワインを端から注文する。イタリアのワインをちょうど今日多く入荷したと聞いて、オレンジと白を一杯ずつ。アテにチーズオムレツを頼んだけれど、美味しかったもののかなりしょっぱかった。〆はもちろんサンドイッチで。鴨肉ローストとマスタードのサンド。この時点でかなり飲んではいたけど、味はしっかり思い出せるぐらいおいしく、個人店ならではのオーナーの優しさがこめられた味だった。22時までの営業で時間いっぱい居座って、会計。ホステルに戻ってからシャワーを浴びずすぐに寝た。

土曜、二日酔いで8時半頃起きる。さすがに飲みすぎた……と思いつつ、10時にチェックアウトなのでそこそこ急ぎ足で身支度を整える。なんとか間に合った。途中寄り道をしながら、札幌市内に新しくできた「AOAO」へ。水族館という施設が基本的に好きなので、絶対来ようと思っていた。中は意外と広々しており、水族館の裏側を覗いてみよう的なコーナーからアクアリウムの展示、「ヒレ」に特化した特設ブースまで、さまざまな視点から水族館を拡張して作り上げられていてなかなか見応えがあった。随所に関連書物(図鑑的なものだけじゃなく、小説、絵本、エッセイまで)が置いてあるのも良かった。

水族館を出て、13時に次男カップルと札幌大丸近くのレストランで待ち合わせをしていたので向かう。ちょうどランチ帯で混雑していたが、案内された席が屋外の広場を見渡せるソファ席でとても良かった。合流して、自分の兄の彼女はケーキを、兄は有名らしいオムライスを頼み、少しの間雑談した。が、二人とも声が小さかったのと、何を話すべきやらであまり会話らしい会話にはならなかった。とりあえず、兄の彼女が兄には到底もったいないほど素敵な人で安堵した。

札幌駅まで見送られ、16時すぎに空港へ。帰りの機内は窓側の席をとれたので、窓からの景色を眺めていたらあっという間に成田空港に着いてしまった。しかしここからが長い。乗り換えを繰り返して2時間半ほどかけ、ようやく最寄り駅にたどり着いた。疲労で我慢ならずに船橋駅のホームで氷結をあけ、電車が来る前に飲み干した。へとへとだったが、足を伸ばしてコーヒー屋へ行き、イワサキさんにお土産の乾き物を渡し、お客さんに撒いてくださいと伝えた。イワサキさんは内情を知っているので、群馬旅行どうだったのと聞かれ一部始終を話し、21時半頃にようやく帰宅した。胃が大きくなったのか、それとも疲労ゆえか、カロリーを欲していて、からよしのからあげを食べ、23時前には寝てしまった。

日曜、昼前に起きて店Bへ行く。全然行きたくなかったけれど、本指の予約があるので行かないわけにはいかなかった。この一枠で終わりだといいなと思っていたら、その前にも予約が入って完売となり、どうして疲れているときに限って満枠なんだと思った。本指とは天気が良いから散歩しようと事前に連絡をかわしていて、神楽坂のタイフーブルーイングへ行った。始めて来たけれど、シックな店内でスタイリッシュさがあり、昼すぎの時間帯でもほぼ満席だった。1杯目に頼んだフルーツエールがほぼヤクルトというか、ほろよいのピルクルサワーみたいな味でつっかえる感じがなくおいしかった。計2杯飲んで、自分が退勤後吉祥寺に用があるのでそのまま井の頭公園へ移動。電車の中でクアトロ名古屋で開催されるバインとオウガのツーマンを本指との2枚分購入した。さすがにこの間の旅費も今日の枠もお金を出してもらっているので、ここはいいよと押し切って、チケット分については自分が持つことにした。

ケーニッヒでヴァイツェンをプラカップで買い、飲みながら井の頭公園を半周ほどして解散。ライブハウスに行くまでに、まだ何も食べていなかったのでコンビニでパルムを買って食べ、吉祥寺シャッフルへ。自分が着いた頃にはもうそこそこ並んでいたが、二列目まで来られた。チケット捌けなさすぎだろうと思っていたけど、キャパが小さく後方まで埋まっていたみたいで安堵した。でも、春ねむりもペリカンも、本来こんな小規模キャパでやるようなアーティストではない。一昔前ならともかく、もう今は。

しかしライブは両者とも仕上げられたもので、特に春ねむりの「生」を体現するパフォーマンスとセットリストには胸打たれて、気づいたらぽろぽろと泣いてしまっていた。ここ最近がめまぐるしく日々を過ごしていて、あまり自分の感情と向き合う時間をもてていなかったからかもしれない。年々泣かずに堪えられる日が増えていくのは、自分自身を蔑ろにしているようで哀しいと思う。

二番手のペリカンファンクラブの前、転換中に最前にいた春ファンと思しき女性が「ペリカンさんのファンの方いますか?」と呼びかけてくれて、いいですか…?と挙手したら快諾してくださり最前を譲っていただけた。春ねむり、初めて観たんですけどめちゃくちゃ良かったですと伝えると、「ありがとうございます…!私が言うのもおかしいですけど笑」と嬉しそうに反応してくださった。二番手ペリカンは予想に反して2020年以降の曲で固めたセットリストで、久々にGirl Friend In A Comaを聴いてやっぱり春の曲が多いバンドだなあと思った。1000年後何もかもが変わっていても美しさだけずっと。エンドウの歌声は3rd以降から格段に良くなってはいるのだけど、そもそもデビューアルバムの頃から周辺の若手バンドとは贔屓目なしに比較にならないぐらい上手いので、その当時と重ねて変わらないでいてくれることが嬉しいと思う。

もう退職する身なので洗いざらい書いてしまうけれど、ペリカンファンクラブに取材をすることを目標に駆け抜けてきた四年間だった。それが唯一の、自分のモチベーションたりえるもので、外壁から固めていくではないけれど、周辺のバンドやアーティストへのインタビューを重ねてきて、あと一歩というところまで来ていた自負がある。結局当人へ数回オファーをするも夢叶わずに自分はこの立場を手放すことになるが、それでも自分が泥臭くやってきたことを、誰が真っ向から否定できるだろうか?彼の音楽と出会い、一度は彼と仕事がしたいと願って、10年間という月日を共にしながらあらゆる季節を乗り越えてきた。自分一人の実績としては微々たるものかもしれないが、それでもこの惜しみなく費やしてきた努力は今後の人生において糧になるに違いない、と確信をもって言える。

終演後、物販に寄るといつものごとくバーミーの岸波さんが立っていて、注文する際にネイルを見て気づいてくれたのか「同じ地元の子ですよね?」と向こうから話しかけてくれた。嬉しいのだけど、揃いの靴といいスマホ裏のステッカーといいエンドウの着ていたシャツといい、いわゆる「匂わせ」が良い年になってちょっとひどいもんだなと斜に構えてしまう自分がいて、リアコではないけれど(今まで散々当人の色恋話はファンの間で耳にしていたし)少し残念に思ってしまう自分がいる。ペリカンファンクラブとして見る彼が好きで追っているからこそ、というのは厄介ファンの邪念に過ぎないのだけど。

フロアを後にしようとすると、noteやインスタを見てくださっている相互フォロワーのyさんに声をかけられた。昼間にWatringHoleで「神の飲み物」を飲んでいたのをストーリーで見たので、その選択肢は最高ですねという話をした。新潟に住んでいるのに、ペリカンが好きで、クラフトビールが好きで、自分の古巣である肉麦やコーヒー屋にもすでに行ってくれていて、すごく不思議な共通項で繋がった縁だなと思う。吉祥寺駅で「次はちゃんと飲みましょう」と約束をかわして解散し、帰宅して、23時頃に寝た。