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【日記】導かれるままに

先々週の金曜から今週の日曜まで夏季休暇だった。世間のお盆休みとは一足早い9.5連休。初日は在宅勤務だったし、午後休の形を取っていたから、「休みだ!!!!!!」みたいな解放感がなかった。なんか、自由な方を選ぼうとしていつもそうなりがち。

初日を午後休にしたのは、美容院の予約をしていたのと夜にヤードアクトのサイン会があったため。会社の最寄駅が原宿で、美容院が原宿で、サイン会会場のレコ屋が原宿という三拍子にもかかわらず、在宅勤務申請を出してしまう効率の悪さ。通い慣れた表参道の美容院は周辺のアパレル店員が客層の大半を占めていることもあり、平日午後にもかかわらず満席。表参道(原宿)というハイソな立地とは裏腹に、良い意味で気の抜けた、コンパクトな空間と風通しが良く、スタイリストのサブカルチャーな雰囲気が好きで通っている。時期もあって、フロア内からは度々フジロックやサマソニ関連の話が聞こえる。スタイリスト同士の仲が異常に深く、担当美容師から「皆でサマソニ2日目行くんだよね」と聞かされてハッピーな気分になった。いいな。

サイン会まで2時間ほど暇を潰すため、会社からほど近い缶販売専門のビール屋に寄る。店主の多田さんがタンクトップ姿で仕事していて「田舎の夏休みですか?」と一瞬見紛った。うちゅうブルーイングの新作、アマクサソナー、などを飲んで会計。夜は長いので、ここで酔いすぎてはいけない。

開始時刻の18時を少し過ぎて会場のBIG LOVE RECORDSへ着くと、既にギッチリとした空間に多くの人が集まっていて、皆が皆『The Overload』のヴァイナルのデラックス版を手にしていた。店主の仲さんは「マネージャーが気合い入れてデラックス版を持ってきてくれたけど、高いから無理して買わなくてもいい」と前日にTwitterで投稿していたが、全然ほとんど全員購入していた。迷わず自分も買って、サイン用にビニールを剥ぐ。やがて、今回の来日に帯同していたカメラマンのSam Hopkinsから突然「君のこと覚えてるよ!」と声をかけられて驚く。レッドマーキーの最前列でバンドのTシャツ姿で観ていた自分を撮ってくれた当本人。お互いに再会を喜んだ。

開始予定時刻を15分過ぎてもその場に到着していたメンバーはギターのサムのみで、他の3人はマイペースに移動中らしいということだった。18時半になり、ようやくフロントマンのジェームス・スミスが店の扉を開ける。あとの2人も続いて入店し、数日前に行われたフジロックの熱気も冷めやらぬままサイン会がスタートした。

サイン会では色々と伝えたいことがあり、事前に英語で話せるようにと準備していたものの、実際には用意していたメッセージの3割ほどしか伝えられなかった。それほどガチガチに緊張していた。「フジロックのステージを最前列で観てものすごく興奮した」と話した後で、「このネイル見て!」と右手の親指を差し出す。『The Overload』のジャケットを模したネイルに、メンバーもカメラマンも一同が一瞬で釘付けになっていた。「すごい!イカしてるね!」と褒められて嬉しかった。興奮と緊張が半々に入り混じって、メンバーとの写真撮影の際にサインを書いてもらったレコードを逆さに持っていたようでライナーや盤を床に撒いてしまった。

撮影直前にネイルを見せたので爆笑するジェームス・スミス

BIG LOVEの目玉はもちろんレコードと、それからなんといってもイギリス仕様のクラフトビール。前日にDMをくれたフォロワーと落ち合って、キリッと苦味の効いたIPAを飲みながらその場を過ごす。IPAやラガーみたいな、苦いスタイルは本当にその時々(環境・コンディション・ペアリングetc.)によって「美味しい」と感じるか否かが変わる。けど、この時飲んだビールは暑さと緊張の解れも相俟って格別に美味しかった。狭い空間で人と接触してこぼさないよう十分留意しながら飲み干す。思い出すとまた飲みたくなる。

概ね店から人が捌け、「そろそろ行く?」とフォロワーと目配せ。実はこの前の日の夜、会ったことのないフォロワーから突然DMで「彼らのサイン会後にメンバーと飲むことになったんだけど、もし良かったら来ませんか?」と連絡を受けていた。英語は苦手、でも答えはイエス。自分にとってはいつもの通勤ルートである竹下通りも、彼らにとっては物珍しくて仕方ない様子だった。切符を買ってあげて恵比寿へ。

So cute

当初予定していたレコードバーがあいにくの満席ということで、カジュアルな飲み放題制のバーの個室を確保してもらう。金晩、恵比寿、ヤードアクト、彼らのライナーを担当したフォロワー、国内インディーのバンドマンが2人(一人は何度かライブを観たことがあるバンドだったし、もう一人は別の友人の共通の知り合いだった)、自分。はてしなくカオス。店までアテンドしてくれた店員らしき男に「あ〜女性もいるんすね」と言われたのがほんのちょっとだけ気になった。まあいいけど。

個室に入るとカラオケがあって、メンバーは皆大興奮の様子。ハイボールをピッチャーで頼み(ジェームスは禁酒中なのかフジロックに引き続きノンアルビール)、宴会が始まる。ジェームス・スミスが歌うBlur、ビートルズ 、アクモン、フランツ・フェルディナンド、Editors、ジョイ・ディヴィジョン。他のメンバーも合いの手を入れたり、本家を真似てコーラスで応戦したり。バンドマン2人は英語がペラペラなので、一緒に歌ったり音楽談議をしていて楽しそうに見えた。自分はほとんど喋れなかったし、バンドマンだらけの空間で歌うなんて絶対無理!と思い頑なに断っていたけど、いるだけでも心底楽しめた。終電間際の時刻になって、フォロワーと一足先に個室を出る。駅前に着くとタクシーの群れができていたので迷わずタクシーを選ぶ。ほろよいにて帰宅。

残りのメンバーとバンドマン2名は結局深夜3時頃まで遊んでいたらしい。無事見送ったよ、と連絡が来た。夏休み初日にして、圧倒的に情報量が多く、めまぐるしい一日だった。翌日になり、やっとフジロックが終わった、という感覚だけが残った。その二日後になって、アルバムジャケットを模したジェルネイルがぺらりと剥がれた(ネイルは大体一ヶ月ほどが寿命なのだ)。ネイルの施術中、ネイリストさんに「理想は彼らにこの爪を見せることで〜」と話していて、「いいですね!もうフル装備で気づいてもらえるようにしちゃいましょう!」と鼓舞してもらえていたが、まさかこんな体験まで与えてくれるとは思わなかった。音楽は魔法か魔法じゃないかみたいなことも数年前に騒がれていたけど、自分にとってのこの数日間は爪にかけられた魔法が導いてくれたものだと思うほかない。個室の席を立った時、See you in December! と言葉を交わして彼らと別れた。12月の単独公演のチケットも確保したので、それまでにはまたもう少しコミュニケーションを交わせるようになりたいと思う。