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【日記】兄の結婚式

金曜、在宅勤務。明日の兄の挙式で着用するレンタルドレスや小物類が届くため。低気圧でじんわりとした頭痛が続く。レンジ加熱した豆乳にチャイティーラテのスティックイン。低気圧と疲労で心がくさくさしていて、母親に電話口で八つ当たる。27歳になるのに本当最悪だと自分でも思う。結婚式に親族として参列することにあたって、兄と長い時間口を聞かなかった(今もほとんど会話らしい会話はしない)ことを思い出す。親の敷いたレール通り実直に進んだ兄からしたら、自分のことは頭のおかしい変なやつ、という印象しか持たれていないのだろうと思う。口を聞かなくなったのは自分が不登校児になってしまったからだ。ある意味で実の兄から見限られていた気がして悔しかった。でもどうにもできなかったから、こちらも距離をとるしかなかった。あの時は。明日、自分の本音で祝福できるかどうかの自信が正直あまりない。夜、絶賛転職活動中のAちゃんが最終面接を終えてコーヒー屋で飲んでいるというので相席する。健さんに「明日結婚式行くよりここのイベント来たかったです」と伝えたら「それは行きなさいよw」とたしなめられた。それはそう。二杯飲んで先に店を出、帰宅するなり空腹に悶えて大量のキャベツを焼いた。翌日腹部の膨満感にストレスを抱えないよう、控えめにしなくてはと意識が働いてカロリーの低いものばかり選んだのに、結果的にかさが多く満腹になってしまった。0時頃に寝た。

土曜、会社に行く時間とほぼ同時刻に起きる。若干二日酔い。急ぎ足で支度を整えて表参道へ。式場といつも通っているサロンとの距離がたまたま徒歩圏内で助かった。ヘアセットを終え、サロンのトイレで着替えを済ませて一礼し出る。駅構内のミスターストップにいるという兄2を迎えに行った。相変わらず、3兄妹のなかでもとりわけ変な人だと思う。真ん中っ子は変わり者が多いというが、まさにその通りだと思うし、挙動が昔からちょっと変わっている。なのに仕事は地方検事で、しかも来月から札幌に転勤だというのだから、兄2ほど一緒にいて疲れる人はいないと思う。青山のカフェで少し茶をしばいてから式場へ。人口蔦に覆われ、自然がモチーフの目に優しい式場だった。

親族待合室で初めて相手方のお母さまと、妹さんとお会いする。何度か食事会の機会はあったものの、仕事で行けなかったことを詫びる。少し歓談して、新郎新婦入室。ぎこちないながら、しっかりとお相手の腕を組んだ兄の強張ったような、照れ臭いような表情に思わずにやついてしまった。

親族挨拶を終えてからは大撮影会。代わる代わる、色々なメンバーで。お相手は華奢で笑顔のよく似合う可愛らしい方だった。自分の方が細いはずなのに顔が大きく見えて、そこだけ辛かった。浮腫んでる?それともやはり母に顔の形が似てるんだろうか。

挙式は滞りなく行われ、兄の中学〜大学の同級生たちが緊張気味の兄を茶化しながら動画や写真を撮っていた。お相手の方は早々に泣いていたし、妹さんもつられて泣きっぱなしだった。庭園でのフラワーシャワーの折、静かな声でおめでとう、と言ったが、喉が掠れて声にならなかった。

披露宴のロビーには兄の愛聴してきたCDが飾られていて、ザゼン、オアシス、SAKEROCKにカネコアヤノと兄の音楽遍歴を振り返るような(そしてそのラインナップは同時に自分の音楽史の原体験に重なるものでもあり感慨深かった)ものだったが、後から「バンプに関してはお前のCDラックから拝借した」と聞いて、一言言って!?となった。披露宴中の中座の際、兄2と前に出たら、「お兄ちゃんのLINE追加してあげなよ!笑」と茶化す声。昨日の夜追加したんで、と堂々と答えた。別に自分が追加するのを渋っていたのではなくて「互いにしなかった」というだけなのだが。ちょっとばかし語弊。

料理も楽しんでもらえると思う、とその昨夜のLINEで兄が伝えてくれた通り、披露宴中にもてなされたフルコースも大変美味しく、親族卓のプレモルをどんどん一人で枯らしてさらに追加で2〜3本頼んだ。祝い事の時にボルテージを上げようとして飲みすぎる節が大いにある。節分と掛けたロシアン寿司ルーレット、兄含め選出された6人全員分のわさびが塗りたくられていたそうだけど、誰一人リアクションがなく、司会の人が「皆さんわさび耐性が強いということで…」と困惑していた。お相手と二人で鬼の仮面をつけて笑い合う姿が可愛らしくほっこりとした。

オープニングはカネコアヤノ「祝日」、プロフィールムービーはオアシス「Don't Look Back In Anger」、中座後の再入場時は星野源「Week End」、エンディングムービーはバンプ 「花の名」と、飾られてあったCD同様に兄らしい選曲だった。彼の性格的にしんみりしたムードは煙たがるだろうと思って限界まで堪えていたが、「真っ赤な空を見ただろうか」が流れた時に、まだお互い仲の良い兄妹だった頃に兄のCDコンポで聴いていたのを思い出して、ベコベコに泣いてしまった。

予定時刻より終了がのびて18時頃おひらき。ゲスト全員に挨拶をして親族は一番最後に披露宴会場を去る。トイレでパパッと私服に着替え、ドアをあけた瞬間一気に疲労が襲ってきて、式中はなんとも思わなかったのにパンプスを脱いだ足がジクジクと痛くなり、青山通りでタクシーを拾って帰ることに。車窓にうつる週末の都心の風景を眺めながら、兄の挙式に立ち会えて良かった、と胸を撫で下ろした。元来、兄は無愛想で強情で、生粋の女嫌いを主張し続ける男だった。兄2ほどの天性の才能には恵まれなかったが、その分努力でのし上がり、自分と違って親の敷いたレールから逸れずに進学・就職をして人望を築いてきた。社会人以降の兄がどんな人だったかを自分は知らないが、今日の様子を見るに、彼なりの誠意で仕事も私生活もこなしてきたのだろうと思う。そんな兄のことを思うと改めて彼が自分の兄でいてくれたことが誇らしく感じるし、どれだけ仲違いをして離れていた時間が長くても、何かを好きになる感性が同じ部分も含め、自分はこの人の家族なんだなと思った。何よりは、あんな幸せそうな笑みを浮かべる兄を26年一緒に過ごしてきて初めて見たので、本当に良いお相手と巡り会えたのだろうなと安堵した。兄にはこの先も幸せでいてほしいと思うし、自分もいつか兄みたいな挙式がしたいと思った。もちろん今の彼氏と。昔は今の年齢ぐらいで結婚するんじゃないかとなんとなく想像していたけど、彼氏が年下であることも踏まえると、やっぱり兄と同じ30すぎに挙げることになりそうだ。その頃に自分はどこで何をしているんだろうか。

帰宅して荷物を玄関に全部投げる。コーヒー屋のイベント、まだ間に合う、と思い小走りで鍵と財布だけ持ち、寒い中をへとへとになりながら向かう。鳥中華そば、残り30食。間に合った。正直お腹ははちきれそうなぐらい満たされていたけど食べないことには…と思いオーダー。夏の肉そば同様、kakeさんのそばはここで逃したら横浜まで行かないと食べられない。うちゅうのビールと一緒にいただく。

出汁が優しく、麺はふわっと小麦の香りとしっかりとしたコシ。海苔の風味とネギのシャキッとした歯触り、麺によく絡むふやけた天かす。どれもが喧嘩せず中和していて最高のバランス。kakeさんが持ってきてくれた日本酒でスープ割りもいただく。冷えた身体がじんわりと内側から温まっていく。そんなつもりはなかったのに、スープまで飲み干してしまった。満足度150%のお腹を抱えながらごちそうさまですと礼を言って、21時すぎに帰宅。気持ちも食欲も満たされながらそのまま寝た。

日曜、深夜2〜3時間おきに一度目が覚め、を繰り返して起きる。慣れない環境に長時間いたことの爆裂な疲労のせいか、心ばかし熱っぽい気がする。朝、足がとにかく痛くて全く起きれず。昼まで天井を眺めて過ごした。夕方に吉祥寺のブックファーストに寄り、「代わりに読む人」の創刊号を買ってから彼氏のバイト先へ。第0号も発売時に買っていて、数ある文芸誌の中でも奇を衒った特集を組んでおり面白かった。装丁もスタイリッシュだし寄稿陣も有名無名ジャンル問わずで最高。今度自分が寄稿するエッセイの材料にしたい。厳しい寒さでさすがにノーゲスの日曜日、バイト中の彼氏にお裾分けをしながらのんびりと2杯飲んで会計。夜、特に空腹を感じなかったが、マックでポテトとチキチーを頼んで家で食した。正直かなり自分の中で昨日の結婚式の余韻が大きく、当てられてしまったなという気持ちになり、家族がアルバムに入れてくれた写真や動画を見返しながら、純粋に良い日だったなあと反芻して、インスタを更新してから23時頃に寝た。