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【日記】my little tony

水曜、朝起きて店Aへ。新宿駅で、キャリーバッグを持った中国人の女性にすみません、と声をかけられて、Google翻訳を使いながら会話すると、親族の家がある塩尻まではどうやって行けばいいのか教えてほしい、とのこと。まだ出勤時間に余裕があったので、切符を買うところから駅のホームまで見送ってあげた。少し前に朝の通勤時間帯でおじさんのリュックから落ちた財布を拾って手渡したことがあり、善人ぶるつもりは毛頭ないのだけど、なんでもしてあげたくなるお節介なところは母に似たと思う。いや、何かのときのために徳を積んでおきたいだけなのかもしれない。

店、同い年の男の子を接客した。外見こそチャラチャラしていて苦手なタイプだったけど、話すと少しウブで優しかった。タトゥーが入っている人ほど実は優しいとか、そういう定説は本当に結構実例として存在するので、偏見はよくないなと思う。「金物屋でゴールドを売って新しいゴールドを買った」というエピソードはさすがに自分の周りでは半径50km圏内でも聞かなさそうだけど。退勤して最寄り駅へ。改札前でハタショーさんと合流。

リベンジ肉麦。ハタショーさんは初来店で自分は初焼肉。焼肉屋なのにいつもカウンターでビールを飲むばかりなので、焼肉がどんな感じで出てくるのか全く知らなかった。普段から懇意にしてもらっているスタッフの子たちと歓談しつつ、おすすめコースの250g×2を注文。箸休めに頼んだ水キムチの胡瓜が瑞々しく、ぱつんと張っていてこの時期にしては珍しいな、と思った。けどもう夏か。最初のビールはトロピカル系のヘイジーIPA。普段お酒を飲まれないハタショーさんだけど、せっかくなのでトートピアのサワーを頼んでいた。口に召したようで安心。

生活のこと、あるいは生きることについて色々話しながら、だけどほとんど「肉がうまい」ということしか言っていなかった気がする。お互いに焼肉経験が激浅だったが、上質な肉なのだということはしっかりと認識できる味。自分がカウンターでチキンナゲットを食べたときは食後すぐ胃もたれを起こしたのに、焼肉では全く胃がもたれないのが不思議だった。ハタショーさんが追加で頼んだラディッシュおにぎりをおかずにして米をかっ喰らっているのが本当にすごかった。かたや自分は赤星の大瓶を一人手酌で飲んでいて、気付いたら瓶を空にしていたので、多分人のことは言えない。スタッフからしたら妙な光景だったと思うが、店にとっては上客だろう。

3時間ほどで会計、クラフトビールを飲んでいたのもあるが、片っ端から飲み食いしていてまあまあ良い金額になった。けれども確実に人生で一番美味しい肉を食べたと思う。昔、吉祥寺に住んでいた頃親しくさせてもらっていた人に、誕生日祝いで今半へ連れて行ってもらったことがあったけど、そのとき食べた肉と同等かそれ以上かもしれない。ハタショーさんを駅まで見送って、自分はまだ早い時間だったので二軒目へ。山田ワインへ行きたかったがあいにく定休日で、すぐ近くのwill'o'wispに行き、シャンパンとウフマヨを注文する。酔ってるとき、炭水化物よりも無性にゆで卵が恋しくなる謎の癖がついてしまった。たぶん米や麺よりもとにかく冷たいものを欲している。ワインの人ではないのに、群馬旅行以降すっかりシャンパンにハマっている。ドライめのすっきりしたのどごしで、好みど真ん中でごくごく飲んでしまった。3杯ほど飲んで帰宅。思い切り贅沢をした夜になった。そのまま寝た。

木曜、朝起きて、胃が張っているのを感じる。週4でサラダチキンしか口にしない人間が致死量の肉を食べた代償が如実に出ている。ただでさえスレンダー売りなのに、こんなに胃の張った状態ではとても人に見せられないので、休みにして良かった…と息をついて、今日はどこにも出ないことにした。退職してからというものの、休みの日でも毎日どこかしら外に出向くようにはしていたが、せっかくの有給消化期間なので1日2日ぐらいは別に化粧もせず引きこもる日があってもいいだろう。

文字通りの怠惰な一日を過ごした。ほとんどお笑い系の動画を観たり、合間に本を読んだり、夕方頃になって口寂しくなりアイスを食べたりした。夜も作る気が起こらないのとそもそもあまり食欲がないのとで、パチモンのブルダックを買って野菜を乗せただけのものを用意し、簡単に済ませた。退職した会社のSlackの通知が飛んできて、見ると自分が元々務める予定だった案件について連絡が来ており、有給消化中だが稼動してくれないかというものだった。まさか先方の承諾がとれると思わなかったので驚きつつ、ではこの件は巻き取りますねと返答し、ディストリビューターに連絡を入れ、カメラマンを手配した。夜、社会からゆっくりと断絶されていくのを感じながら、23時頃に寝た。

金曜、夜に副業があるので、昼前に起きた。本当はunderscoresの来日に行きたかったけれど、シフト希望を間違えて提出してしまったので泣く泣く諦めることに。昼すぎにコーヒー屋へ行ったら、絶賛仕込み中のケンさんに「昼〜〜〜!」と驚かれた。退職してからやりたいことの15番目くらいに「平日昼間のコーヒー屋へ行く」があったので、最速来店を達成でき満足。ひみつビールのベリーサワーを飲んだ。ハーブの味が強くてあまり好みではなかったけど、出産を記念してビール作っちゃうなんてすごいな。誰もいない店内でのんびりと昼下がりのビールを楽しんで、その足で副業先へ行った。金夜を期待して出勤したがあいにく暇だったので、夜23時頃に帰宅してサラダチキンとほたてバーを食べ、寝た。

土曜、朝起きて、DIIVの新譜を聴きながら副業先へ。新規と本指の予約がそれぞれ入って完売した。夕方に本指がきて、どこ行こうか決めていなかったので、新宿伊勢丹のビール売り場に行きたいと申し出て着いてきてもらう流れに。ビール売り場とタップルームを併設していて、週替わりでイベントも打たれているので一度来てみたかったのだ。

ちょうど京都醸造のイベントの日で、社員の椿野さんという女性の方がサーブしてくれていた。30分制限の時間予約制で、かつ椿野さんの話も聞きながら味わうため、つい本指そっちのけで椿野さんとのビール談義に花を咲かせてしまった。それはそれで楽しかったけれど、相手から「普段どこで飲むんですか?」とかパーソナルなことを聞かれると、自分の個人情報が自動的に本指の耳にも入ってしまうので、適度にフェイクを入れなくてはいけないのが難儀だった。

この日は120分での予約だったので、移動を含めるとあっという間に終了時間になってしまい、新宿駅で本指と別れて店に終了報告をして帰路へ。そのままコーヒー屋へ行って、イワサキさんと話しながら少し飲みなおした。最近イワサキさん立ってないなと思ったら風邪を拗らせていたようで、いつもより声色がダンディーになっていた。続けざまにビールを胃に入れていたら酔いよりも胃が満杯になってしまって、終盤はぐいと押し入れるように飲み干した。20時頃に帰宅して、冷凍してあったベーグルと、納豆オムレツを作って食べ、23時頃に寝た。

日曜、オフ。朝起きて、脱毛へ行った。およそ半年ぶりの施術で、いつも担当してくださる脱毛師の方にお久しぶりです〜!と迎えられ、来れなくてすみません、と思いつつその表情を見て嬉しくなる。アイドルやモデルよりも、身近にいる「意識が高くて綺麗な人」を見るのが好きだ。頑張れば手が届く距離というか、全く別の次元の人ではないからだと思う。

全身脱毛はもう今の状態からして不要なので、パーツ絞りでVIOと背中の脱毛をお願いした。背中は自分で処理できないのもあって気を抜くとすぐ毛量が増えてしまう。が、脱毛師さん曰く「しっかり毛が細くなっていますよ〜」とのことだったので、通い続けた効果は出ているのだと思う。全身脱毛のときは塗布されたジェルで身体中べとべとアンド髪が崩れるのがすごくストレスだったけれど、パーツごとなら大して気にならずストレスフリーに終えられるという知見を得た。帰り際、「もしかしてお痩せになりました…?」とおそるおそる聞かれ、素直に通い始めた頃より3キロほど落ちましたと答えたら、なくなっちゃう〜!と冗談めいた口調で返された。それは、嬉しいか嬉しくないかで言われれば嬉しい類の言葉なのだけど、なくなっちゃう〜!が亡くなっちゃう〜!に変換されて聞こえた。綺麗で居続けたいだけなのに、美貌への執着が足枷になったまま時間ばかり重ねていくのはもうこりごりなので、消えてなくなってしまった方がいっそ楽だと全く思わないわけではない。数字という名の十字架を背負った罪人みたいだ。

そのまま徒歩で代々木公園に向かい、半周ほど歩いた。イベントエリアでは東京ナイトマーケットが開催されていたが、ほとんどグルメ屋台ばかりで素通りした。原宿駅まで出て、JRに乗り帰路へ。夏のような気候で汗ばんでいたので、冷たいシャワーを浴びてからあいすまんじゅうの期間限定八ツ橋味を片手にPC作業。今日はもう閉店、の勢いで化粧も落とした。BRUTUS合併号の建築特集がなかなか面白く、あれこれ行きたいなとマーカーを引く。音楽編集者の立場を離脱してから、今興味がそそられている、または再燃しているのはお笑いと美術建築だ。自分って意外と音楽以外のカルチャーもハマれるタチなんだなと思った。夜、適当にあるもので夕飯をこさえて、0時頃に寝た。

月曜、店Aから店Bに行く日。どちらもほどよく働いた。店Aでは子持ちの客が指名してきて、これから何するんですかと聞いたら「保育園に娘の迎え」と言っていた。うわーと思うがこんなのは結構ざらにある。店Bの指名客はロングコースのくせにほとんど会話のレスがなくて疲れた。0時前に帰宅して、ほたてバーとサラダチキンを食べた。令和ロマンのYouTubeでくるまが始球式直前で肩を壊したと発表があり、かわいそうではあるが「嘘だろ!?」と半分笑いが漏れてしまった。2時前に寝た。

火曜も店Aから店Bへ。店Aでついた指名客が、事前に自分が酒好きだというのを知ってものすごい量のチューハイを差し入れにくれて、一時間ほぼ昼から会話して飲むだけで終わった。次は仕事先で仕入れたまぐろを冷蔵バックに入れて持ってきてくれるらしい。終始気を遣ってくれて優しかったが、紙タバコを吸う人で、自分の缶チューハイのプルタブに客の吸殻の煤が付いていたのが本当にちょっと嫌だった。店Bでは2個上の比較的若い客が予約をしてくれて、昨夜の客とは打って変わってよく喋る人で安堵した。大雨予報だったが運良く自分が外を歩く時間帯にはさほど降っておらず、23時半の電車に乗って帰宅した。サラダチキンとほたてバー、コールスローを食べ、低気圧にうなりながら1時頃になって寝た。

水曜、朝起きて店Bへ。平日昼間の店Bは激烈に暇だというデータがあり、この日も例に漏れず予約がなかったので諦めて退勤する。空腹でちぎれそうになりながら、三茶のサニティーへ行き、アマクサソナーの新作「annin」を飲んだ。まだ陽の明るい平日の夕暮れ時に飲む、というのも相俟って抜群においしく、一口目はピルクルのような乳酸菌風味だが後からほんのりと杏仁豆腐のような香りが広がり最高の出来具合だった。

ポパイボーイのような若い男性スタッフ二人と談笑。普段どこで飲んでるんですかという話になって、幡ヶ谷とかですね、と言うと、あの辺って「ポパイ載ったもん勝ち」みたいな風潮ありますよね、と返され、共感オブ共感した。良い店に恵まれているというのは住んでいる者の特権ではあるのだけど、良い店に恵まれている故に軒並み予約のとれないような人気店ばかりが街中を占拠していて、もう三年住んでいるのに未だ行ったことのない店の方が俄然多い。まあ退職したからこの先は平日土日関係なく行けるチャンスがあるのでしょうが。一方、三茶はリーズナブルな店が多く深夜まで賑わいを見せているものの、インスタで散見される「酒飲まないで写真だけ撮る客」が増えているせいで、もともと柔軟な態度でいてくれていた店もルールを設けながら営業する方針に切り替えているところが多いそう。食文化を中心に街が活況を呈するのはいいことだが、どちらも困りものである。

17時頃に店を出て渋谷はWWWXを目指す。発表時からずっと心待ちにしていたロンドンの新鋭・bar italiaの初来日公演。実は、先週ディストリビューターからメールが来たのは彼らの取材の件だった。チケットをとろうとしていたらコーチェラの影響かソールドになってしまっていたので、卑しいがゲスト取り置きをしてもらえる意味でもラッキーだった。もちろん、このためにそれなりの下地は作ってきたつもりだ。

開演19時、満杯のフロアに響くのは彼らの音楽性とは真裏をいくバカEDM。Crazy Fogの「Axel F」という曲らしい。どよめきを超えて失笑するしかないオーディエンス。しかしニーナ、サム、ジェズミの3人がステージに登場し、バカEDMが鳴り止むと、さっきまでとは打って変わり蠱惑的なオーラを放ちながらフロアの空気や観客もろとも彼らの手の内に内包されてしまったようだった。サイケデリックでインテリジェンスな音源からは意外なほど身体的な音色で、ニーナの爆音タンバリンをサム、ジェズミのギターやベースが時に土台となって、時に絡まり合いながらサポートする。三人それぞれに歌割りがなされているのも彼らの特徴だが、ニーナの艶っぽさ、サムの低体温でクールな歌声、ジェズミのしゃがれたハスキーボイス、それぞれがそれぞれに楽曲の中でアクセントとなって、バーイタリアの織り成す歪な世界観を確立させていく。ストロークスやVelvet Undergroundをも彷彿とさせるような直球のバンド然とした態度で出し惜しみのないセットリストをこなし、アンコール含めて全ての公演が終了した後、明るくなったWWWXの会場にはBlurの「Song 2」が流れ、退場口へと向かうファンが示し合わせたかのように「「「Woo Woo!」」」と合唱していたのが印象的だった。

ほとんどフジロックみたいな空気だったなと思いながらバスで帰路へ。そういえばあと二ヶ月でフジロックだが、まだチケットをとっていないどころか行く日程すら決めていない。RIDEとジザメリが観たいので最終日は確実に行くでしょうが、初日のFrikoや二日目のTLDPも捨て難い。しかし全日行くには体力面でも金銭面でも到底無理そうだし悩ましい。スーパーで買ったトルティーヤや買い置きの納豆を食べて、1時すぎに寝た。

木曜、午後に取材があるので朝ゆっくりと支度する。コメダで質問票の確認をしてから取材先へ。久々の「編集者・ライター」としての稼働だし、久々のインタビューなので、少し緊張していた。ハロー、と挨拶すると、意外にも快く迎えてくれた三人。自分が着ていた大きな襟のついたシャツを指差して「素敵ね!」と褒めてくれたり、TESCOの靴下に気づいてくれて「それどこで買ったの?」と聞かれたり(昨年ロンドンの古着屋で買ったんだよ、と伝えると「最高じゃん!」と返してくれた)。過去のインタビュー記事を見るに、もっとムツカシイ系かと思っていた。いつものディストリビューターの人と、翻訳者の女性の立会のもとインタビュー開始。20分という時間制限の中で曲についてとライブについての両面聞けて、それなりの回答量を得られてまあ概ね良かったと思う。「来年からロンドンに住もうと思っている」と伝えたら、「絶対連絡して!ライブに招待するから!」と言ってくれて、それが本当に嬉しくて絶対来年イギリスに住もうと改めて決意した。日本で出会ったさまざまなものとしばらく距離を置かなくてはいけないのもつらいが、きっとそれ以上に向こうの地で待っているものは多い。何よりは、今しかできない、ということを最優先に行動していたい。

取材を終えて、退職してからすっかり冷めていた音楽愛が再燃した。SZAのフジロック出演キャンセルについては「オーストラリアのフェスが中止になって一回の渡航ではしごできる出演イベントが他にないからでしょう」とディストリビューターの方が言っていて、たしかに円安だし日本なんてただでさえギャラ安いもんなと肯いた。本当はこのあとのサイン会に参加したかったのだが、起き抜けから妙に身体の火照りと異常なほどの足の脱力感があって、すべてのスケジュールを断念して帰路へ。

うわ〜無理、と溜息を漏らしながら倒れるように帰宅して、ほとんど流れ作業でシャワーを浴びた。本当はオフ前日なので外で食べ飲みしたかったけど、どうにも身体が動かず、こうなったら…とインスタントの辛ラーメン焼きそばを取り出す。副菜に納豆とわかめ、玉ねぎ、チョリソー。ここに来てコロナだったらどうしよう、なくはないよな、と不安がりながら滝汗かいて食した。気温が上がってきてから、辛い麺欲が増して体重に影響しない程度の頻度でインスタント麺を食べているのだけど、たぶん自分は結構激辛がいける方だと思う。七味唐辛子の瓶を三回分の食事で空にしてしまったし。今日良い日だったなとか、体調治るといいなとか、色々考えて、23時頃に寝た。