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ヘルパー日記後編7 (幻覚が見えるのよ)

Kさんは、パーキンソン病です。意志に関係なく身体がふるえて、コップの水もこぼれてしまって飲めない。ペットボトルの水や、ポカリスエットや、コーラ(大好きとか)をストローで、飲む。でも、ストローが口に届くまでがたいへんです。

ゆっくりゆっくり、手すりにつかまって歩けるのですが、それも、その日のコンデイションによります。薬指にはめた金の指輪が木の手すりにあたって、カタカタ鳴るので、しっかりつかめるようにその上から私の手を重ねて一緒に手すりをつかむようにしています。

昨日はベッドから起き上がれなくなって点滴を受け、今日はなんとか歩けるようになったと2階に住んでいる娘さんからききました。お粥のスプーンが口まで運べず、介助しなきゃならない、夜中に何度も起こされて困っている、というお話も・・・

伺うと、ベッドの上からにっこり笑顔を向けてくださり、ほっと一息。
気持ちの落ち着いたところで、なんとかシャワー浴ができました。
少し前までは、浴槽に入ることもできたので、少し残念でしたが。
入浴時は浴槽から出るとき身体が不安定なので、三か所に取り付けられた手すりを「ここを持って」「次ここを持って」と指示しながらつかんでもらう。ヘルパーが身体を支ながら、浴槽の中で立ち上がり、浴槽をまたぎ、洗い場でまた立ち上がる、という動作をしていただきます。タイミングが上手く合うと、「すい」とご自分で立ったように体が動き、「やったぁ」と、私まで嬉しくなったものでした。

さて、お風呂上りのさっぱりしたところで、薬の副作用で、いろいろな幻覚が見えるというお話をしてくださいました。

「薬で幻覚が見えるのよ。
ベッドに移るとね、今わたしの座っている椅子に髪のなが~い若い女の人がちゃっかり座って電話かけてる。ベッドの足のところにはね、赤ちゃん抱いたおばあさんが、立っていて、その赤ちゃんをベッドに寝かせようとするの。足で、蹴っ飛ばしそうだから、、そんなところに寝かさないで、と言っても知らんふり・・・でも、最近は幻覚がみえなくなるような薬のんでるから、これくらいですんでるのよ。
前は、こわ~~い幻覚が見えてね。身体が犬、顔が、男の人、それも黒人のおっきいひとが、こう、襲い掛かってくるの。幻覚とわかっていても怖くて、夜中なんかブザー押して、娘を何回も起こしちゃって・・・

おかあさん、幻覚かどうか、ちゃんと確かめてから、ブザー押してよ、なんて言われるけど、もう夢中でブザー押して
娘には悪いと思ってるけどね・・・」

Kさんは、情けなさそうな顔・・・

「身体が動かなくなったらどうしよう、なんて考えると眠れなくなるから、眠り薬もらってるけど、朝になってきいてきたりして、時間がずれちゃうのよ」
とも。慰める言葉もなく困りました。

「あんまり先まで考えても、きりないし、今だって点滴すれば、回復するんだから、取り越し苦労はやめましょうね。いい薬があるから、進行が止められて、悩んだだけ、損しちゃうかもしれませんょ」

と、明るく言って別れてきました。
春の温かい風が、Kさんの身体も、心も軽くしてくれたらいいな、と、思いながら。

       
            ヘルパー日記後編7おわり

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