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ボイストレーニング


 ボイストレーニングを受けていたころのお話です。

 私の声は低く、通らないので、なんとなくやる気のなさそうな印象を与えるようです。こども英語教室講師をやっていたころ、レッスン風景を録音して、時々本社に提出していたのですが、「やる気がなさそうだ」と評価され、社員が見学に来たことさえあります。「結構ちゃんとやっている」と分かり、無罪放免になったのですが。

 少しでも通る声になりたい、それともう一つ、一度でいいからオペラのアリアを歌ってみたい!と、挑戦しました。そのアリアとは
プッチーニの「わたしのおとうさん」です。

 ♪おとうさん、わたしは彼が好き!今日、指輪を買いに行きます。
もし、許してくれなかったら、アルマ河に身を投げるわ!

 という、せつなく、情熱的なアリアで、初めて聞いた時、あんな歌
歌えたらどんなにいいだろう!と心から思ってしまったのです。

 ところが習い始めたら、これが難しい!先生の話をちょっと紹介すると

 「皆さん!ちゃんとした発声で歌うことは、難しいことです。
楽器は、音を出すために作られているから、ひけば音がでるし、響く。
ところが人間の身体は歌うためにできているわけではない。
そうでしょう?その身体を使って歌うのですから、訓練が必要だし
楽器をひくより難しい。ちょっとやそっとでは出来ない。
1年や2年では無理です。

 まず、身体は弾力性のある、チューブでできている、と思ってください。
息はこのチューブを通して、身体の中を通っていく。出るところは、首の
裏のあたりです。といっても、実際、声は口からでるのだから、イメージですよ!声が高くなるほど、重心は下に、同時に背筋を使って身体をのばす。ギュウっと上下に伸びる感じ。でも、身体はリラックスさせて!
首に力をいれないこと!」

 これできますか?こんなのできたら人間じゃない!?でも、やらなきゃ
ダメなのです。一人ずつだって順番にやらされる。

 不思議なことに、こういう教室には、ある程度歌える人が集まってきていて、わたしのように全然できないから、習いに来る、というのはまれのようです。

 弾き語りで、お店でシャンソンを歌っている、という人さえいる。
もう習う必要ないって思うのに。

 毎回、恥かいて、なんでお金払って悲しい思いしなきゃならないんだろう、と思っていたある日、先生が、恐ろしいことを・・・・

「さあ、お一人ずつ歌っていただきましょう。といっても時間がないから
だれにしようかな?そう、Nさん、歌ってみてね!」

 Nさんは、クラス1の美声だから、納得!歌い終わると皆拍手!
次に、先生が、もう一人お願いしましょうか、ウ~ン、Nさん、あなた
指名してくださる?ということになりました。Nさんは迷っているみたい
だったけど、こっちを見てニッコリすると、なんと!わたしを指名した
のです!

 絶望感と戦いながら、必死で歌い終わると、教室からは同情の
マバラの拍手・・・レッスン後、Nさんが、近寄っていいました。

「ごめんね。あなたなら、恨まず、ちゃんと歌ってくれると思ったから。」

「恨むよ~~!今度、あなたの椅子の上に画鋲おいとくからね!」

 と言ったのに、わたしの言い方に迫力がたりなかったのか、それ以来
ますますわたしたちの友情は深まってしまいました。訓練とは恐ろしいもので、下手なりに少しは声がでるようになってきたころ、先生は、近いうちに300人位入るホール借りて、一人ずつ歌うコンサートやりましょう!なんて
コワイことをおっしゃいました。

 いつか、「チズ、プッチーニを歌う」というCDが発売されることに
なったらお知らせしますので、ぜひ1枚お買い求めください。わたしの
銀行口座に現金をお振り込みいただければ、直筆サイン入りのCDを、
直接お送りすることも可能です!!!?

と、書きましたが、仕事が忙しくなって1年で挫折しました。

楽器に変身するのは、楽ではありません。

             

           おわり

こんな曲です。⇩


 

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