秋の空時計
あの頃私は都心の商事会社に勤めていた。仕事といったら、郵便物をそれぞれの課にくばる、来客にお茶を用意する、コピーをとる、簡単な書類を作成する、といった、誰にでもできるものだった。40代の先輩もほぼ同じ仕事をしているのを見て、こんな生活をずっと続けていくのだろうか、とぼんやり考えた。
オフィスはビルの12階で、広い窓からビルの群れとその谷間をゆるく曲線を描く高速道路が見渡せた。車は道路の上を、音もなく、見えない糸に引かれているようにスルスルと走って消えた。その向こうにはガラス張りのビルがあり、空一面を映した窓の一角でデジタル時計が時を刻んでいた。
ある日気分が悪いと上司に届けると、私は外に飛び出した。近くの大きな公園には、知らぬ間に秋が舞い降りてきていた。見上げると、蒼いだけの
本物の空、追い立てるように時を刻んでいた時計もない。思わず涙ぐんだ。たまった涙が雲になり、私はそれに乗り自由に空を飛んでいる気分になった。
おわり(412文字)
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