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全力で押したいダジャレ

博さんは87歳、横浜郊外の海を臨むマンションに住んでいる。
歌が趣味で、奥様と一緒にカラオケに行ったり、奥様のピアノ伴奏で歌ったり。十八番は「オーソレミオ」。イタリア語で朗々と歌う。

ところが、徐々に物忘れが多くなり、認知症と診断されてしまった。
ヘルパーとして訪問していた私は、少しでも脳に刺激を、と思い、
時々「オーソレミオ」をリクエストした。そのつど博さんは、変わらぬバリトンで歌って下さった。忘れたことが増えても、イタリア語の歌詞はしっかり残っていたのだ。

ある時、訪問ナースさんが、30分早く来てしまった。ヘルパーのサービスが終わったら入るはずだったのに。外は大雨、部屋に入ってもらい、壁の予定表を見ながら、「ほら、3時半からですね~」と確認。
ナースさんも、「あら、覚えていたはずなのに、勘違いしちゃって」
と、ばつが悪そう・・・
その時、博さんが絶妙のタイミングで言った。
「オーソレミオ」
          
           おわり(418文字)     
 
                
         

たらはかにさんの企画に応募します。
今週のお題は「全力で押したいダジャレ」です。

半分実話、半分フィクションです。もちろん博さんは仮名です。



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