見出し画像

伝説の安心感

父のお気に入りにスーッとする塗薬があり、手のひび割れ、逆むけ、
虫さされに愛用していました。
私が自転車で転んでひざを擦りむいたり、あかぎれが出来た時も
「ほら、これ塗っときなさい」
と、ちいさな箱に入った缶を指し出してくれました。箱の裏には
父の律儀な文字で開封したときの日付が書いてあり、中の缶の
蓋には可愛い看護師さんの顔がありました。

あるとき、足の親指が赤く腫れあがり、父はせっせと
その薬をすりこんでいましたが、おさまるどころか
足首まで赤いソックスを履いたようになってしまいました。
仕方なく医者に行ったら「痛風」とのこと。
病院の薬を飲んだら三日ほどでおさまったのですが
なんだか父は悲しそうでした。痛みがひどかったことより、
今までこれなら!と安心して使っていた薬が効かなかったことに。

父が亡くなった今もわたしはその薬を大切に使っています。
箱に書かれた父の文字と、昔からの我が家の愛用薬に、ほっと
心なごませながら。

           おわり(415文字)  


たらはかにさんの企画に参加させていただきます。
今週のお題は「伝説の安心感」です。
たらはかにさん、お世話をおかけしますがよろしくお願いいたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?