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【曲からストーリー】泳げたいやきくん

大学生の娘がアルバイトを始めた。駅前スーパーのたい焼き店が勤務場所だ。
前にもハンバーガー店で働いたことがあり、接客の適性をもっているのかもしれない。アルバイト先のたい焼きは、餡がおいしいようで、一つ150円の値段も手軽なのか、よく売れている。
私も勤め帰りに立ち寄ることがある。夕食の総菜が目当てだが、さり気なくたい焼きやの前を通りかかる。
「いらっしゃいませ、ありがとうございます」
えくぼの笑顔で応じる娘の様子を横目で見る。

ある時、私も売り上げに協力しようと店の前に並んだ。
「小豆のたい焼きを5枚」
娘は父親の私を他のお客と同じように相手した。顔をまともに見合わせない売り手と買い手の気まずい空気。お互いの心の中で
「買ってやったぞ」
「なんで来たのよ」
と言葉を交わす。

娘が小学生のとき、私は妻を亡くした。それから十数年。親離れしようとしている娘と子離れできない私。一抹の寂しさを覚える。
今も時々遠くから店をのぞく。どこか母親の面立ちがのぞいて来たか。少し大人の雰囲気も漂わせながら、娘はたい焼きを売っている。

         
             おわり


PJさんの企画、曲からストーリーに参加させてください。
昔わたしがアルバイトしていた頃を思い出して書いたフィクションです。
父は買いには来てはくれませんでしたが、もし来てくれていたらよかったな。と。
毎日毎日僕らは鉄板の~と歌ったことも懐かしんで。

#曲からストーリー

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