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【時に刻まれる愛:3-2】二人の間に刻まれた時

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一発勝負

父の書斎の机にある、謎めいた4つのボタン。

1〜4の番号がそれぞれ刻印されている。
ボタンの近くには、小窓のような小さな扉が机に埋め込まれている。

おそらくは、この4つのボタンを正しい順番で押すことによって、その小窓が開くのだと想像ができる。

中には何が入っているのだろうか。

あくまで想像の域を出ないが、ボクは直感していた。

「正しい順番で押さなければ、ロックが掛かってしまうかもしれない。」

つまり、まずは正しい順番を推理し、確証を持ってからボタンを押さなければいけない。ここはミスできない。ボタンを押す時は、一発勝負だ。

ボクは、そう覚悟した。

それから、これまでに見つけたヒントを、机の上に広げた。

まずは手紙だ。

No.0は、ボクと爺やが住む隠れ家で見つけた手紙。

No.0

拓実へ。

20歳の誕生日、おめでとう。

直接、お祝いの言葉を言えず、
また、寂しい思いをさせてしまって申し訳ない。

もう大人の君に、大切な贈り物がある。

さまざまな事情で、私の家は捜索される可能性があったから、
すぐには分からないように隠してある。

お前なら、辿り着けるだろう。
私の、本当のメッセージへ。

父より。

追伸:

夢を追う二人の親子は、
まるで円盤を駆け巡るように
永遠に時の中を周り続けるのだろう。

時間とは、数字であり、
それは時に、残酷なものだ。

手がかりは、いつも裏側にある。

親子の間に刻まれた時間を、
正しく見つめ直すのだ。

No.1の手紙は、城のホールで見つけた手紙だ。

No.1

拓実。

よく、ここに辿り着いた。

そして、この手紙を手にしているということは、私からの最初の贈り物については理解しているということだな。

父から子へ、受け継ぐものがある。
人生に終わりはない。
私のすべては、お前に受け継ぐことで永遠の時を刻む。

だが、お前にはまだ、伝えたいことがある。

先に進むのだ。

カードと時計を同封する。

人生には、行き詰まる瞬間がある。
そんな時、新たなヒントを得ようとする必要はない。
今あるものに目を向けろ。

拓実、
世の中には変えられないものがあると思うか?

真実を知りたければ、裏側までよく見ることだ。

物事には、見えている部分と見えていない部分がある。
立派な樹木を支えるのは、表に姿を見せぬ根の存在だ。

根を張り、強くなり、今あるものを見つめよ。
答えはそこにある。

父より。

No.2の手紙は、城の地下室で見つけた手紙。

No.2

拓実。

立派に成長したじゃないか。

ここに手が届いたなんて、大きくなったんだな。
その成長を誇りに思うぞ。
ありがとう。

今のお前には無限の可能性がある。
自分の輝きを見誤るな。

薔薇は、一本でも心を打つほど美しい。
だが、無数に咲く薔薇たちは、どこまでも広がる無限の魅力そのものだ。

今のお前が持つ、無限の可能性。
しかしそれは、無数に関わる周りの人たちの恩恵を受けていることを忘れてはいけない。

分かるな?

数え切れない無数の薔薇たちを見つめ、愛に刻まれた薔薇の中から己の道を知るのだ。

答えは、すでに出ている。

お前がたどり着くことを期待し、待っている。

父より。

No.3の手紙は、アトリエで見つけた手紙だ。

No.3

拓実。

ここに帰ってきて、たくさんのことを思い出した頃だろう。

そうだ。
このアトリエで、よく3人で食事をしたな。

お母さんは元気か?
本当は私も、ずっとあのまま3人で幸せな生活を送り続けたかった。

過去を振り返るのも悪くない。
だが、忘れるな。
お前の未来は、この先の時間にある。

時を前に進めろ。

決して、時間に対して油断をするな。
心に刻んであるな?

お前の中で、まだ止まったままの時があるのではないか?
それは、この城の中にも。

過去、現在、未来は同時に存在する。
私もずっとお前といる。
さぁ、一緒に前に進もう。

あの頃のように、私の存在を見つけてくれ。

父より。

No.4の手紙は、城のボクの部屋で見つけた手紙だ。

No.4

拓実。

この手紙に辿り着く頃、お前はもう、随分と城の中を探し回った後なのだろう。

順番通りに手紙を見つけてくれているのなら、小さい頃には知らなかった場所にも足を踏み入れたかもしれない。

人には皆、誰にも知らせていない秘密がある。
私たちは、秘密を抱えながら生きている。

その秘密は、良いことも悪いこともある。

だが、秘密を隠し続けることはできない。

どれだけ完璧に隠しているつもりでも、「秘密など無い」という決定的な嘘が、最後は事実と矛盾しているのだから、正しく紐解くことによって、その秘密に辿り着くことができるのだ。

お前の秘密にも、私はすでに辿り着いている。

秘密には、良い秘密と、悪い秘密がある。

悪い秘密なら、そんなものは作るな。必ず暴かれる。
しかし、誰かを守るための秘密なら、それが必要な時もある。

この城に隠したお前の秘密。
幼い頃、隠れん坊をしたがるお前を、何度も私が見つけたように、私からすればお前の秘密などまだまだ容易い。

しかし、お前は向き合え。
それが良い秘密なのか、悪い秘密なのか。
自分の過去と向き合うのだ。

続きはそれからだ。
しかし、お前はまもなく答えに辿り着くだろう。

負けるなよ、拓実。
父より。

No.5の手紙は、森の小屋で見つけた手紙。

No.5

拓実。

過去と向き合ったのは、辛かっただろう。
お前のことだから、色々と考えたことだろう。

だがな、もう良いんだ。
もう過ぎたことだ。先に進みなさい。

私にも過ちを犯した時期があるよ、拓実。
お前のお祖父様に対して、私も嘘をついたことがある。
決して誇れない。

私も、後悔したさ。お前と同じだ。
打ち明ける前に、お祖父様が亡くなってしまったから。

きっとお前も後悔をしているんだろう。
だが、もう良いんだ。前に進もうじゃないか。

人は完璧じゃない。
でも、失敗と向き合って前に進めば良い。
私たちは、成長できる。

世の中には、変えられるものもある。
私は、そう思っている。
きっと、この手紙を読んでいる頃、お前もそう思っているのではないだろうか。

もう自分の過去と向き合うのは十分だろう。
私からの最後のテストは合格だ。

この城は、お前のものだ。

さて、この手紙と一緒にカードと時計を同封した。
ヒントはこれで揃ったはずだ。

最後に、この城の主となったお前へ、私の書斎を贈ろう。
これからは、あの部屋が、お前の場所だ。

お前が・・・、立派な大人になって、真実に辿り着いてくれることを祈っている。

拓実、
守り抜けなかった私を、どうか許してくれ。

この城で最後の夜に、この手紙を書いている。
あとは、この手紙をお前が見つけた場所に残して、私はこの城を去る。

もう、やるべきことはそれだけなのに、私は動揺している。
先ほど、真夜中だというのに、グラスを手から滑らせてしまった。
やはり、落ち着かない。

お前のこと、お母さんのこと、みんなのことが心配だ。
心残りだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

あと少し、書斎から月夜を眺めて、心を落ち着けたら、私は去る。

守り抜けなかった私を、どうか許してくれ。
しかし私は、いつまでもお前を見守ることにする。理想の形では無いかもしれないが。

元気でな、拓実。

追伸:

夢を追う二人の親子は、
まるで円盤を駆け巡るように
永遠に時の中を周り続けるのだろう。

時間とは、数字であり、
それは時に、残酷なものだ。

手がかりは、いつも裏側にある。

親子の間に刻まれた時間を、
正しく見つめ直すのだ。

この中で、No.1からNo.3までの手紙と、No.5の手紙には、カードと懐中時計が同封されており、その内容をそれぞれの手紙の裏にメモしてある。

No.1の手紙に同封されたカードと時計の内容がこれだ。

宝は
1st

12時10分

No.2の手紙に同封されたカードと時計の内容はこれ。

お前がかち
4th

1時15分

No.3の手紙に同封されたカードと時計はこれだ。

お前の
2nd

2時20分

そして、No.5の手紙に同封されていたのがこれだ。

中にある
3rd

3時25分

これでヒントは揃ったはず。No.5の手紙に書いてあるとおり。

ボクは、最後の推理を始めた。

まず気になるのは、No.0とNo.5の手紙に、全く同じ追伸が書かれていることだろう。

ボクは、それぞれの追伸を見比べて、やはり全く同じものであることを確認した。

追伸:

夢を追う二人の親子は、
まるで円盤を駆け巡るように
永遠に時の中を周り続けるのだろう。

時間とは、数字であり、
それは時に、残酷なものだ。

手がかりは、いつも裏側にある。

親子の間に刻まれた時間を、
正しく見つめ直すのだ。

こんな謎めいた文言が、偶然に揃うことなどあり得ない。
父は、わざとこれを書いている。

間違いなく、何かのヒントだ。

「まるで円盤を駆け巡るように
 永遠に時の中を・・・って、
 これは時計のことだよな。

 親子・・・。時計・・・。

 そ、そうか!!」

ボクの頭を何かが貫いた。

気づいてしまえば明らかだ。
なぜ、こんなことに今まで気づかなかったのか。

時計の親子とは、長針と短針。

すなわち、

親子の間に刻まれた時間を、
正しく見つめ直すのだ。

この一節は、長針と短針の間が示す数字を意味しているのではないだろうか?

時間とは、数字であり、

この一節も、そういう意味でヒントになっている。

ボクはもう一度、手紙の裏のメモを見た。

宝は
1st

12時10分

お前がかち
4th

1時15分

お前の
2nd

2時20分

中にある
3rd

3時25分

「12時10分で、
 長針と短針の間の数は1だ。

 1時15分では、2。

 2時20分では、3。

 3時25分では、4だ。」

やはり、父の机のボタンに該当する1〜4の数字が浮かび上がる。

問題はその順番だが、なるほど、これもピンと来た。

1st、2nd、3rd、4thの並びが、見つけた順番通りじゃなかったのは、カードに書かれた言葉を正しく並べるため・・・だけじゃない。

それぞれの長針と短針の間に刻まれた数字を、正しく並べるための順番でもある。ボクはそう推察した。

つまり、その四つの番号の並びは・・・。

1、3、4、2。

確信を持ったボクは、一発勝負の覚悟を決めた。

そのボタンをゆっくりと押した。

1、3、4、2。

・・・カチカチカチ・・・。
机の中で、何かの仕掛けが動く音がした。

それから、机の小窓のような扉が開いた。

中には、これまでのものよりも少し立派な封筒が入っていた。

ボクはゆっくりと、それに手を伸ばした・・・。

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