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【時に刻まれる愛:3-8】伊月野拓実の真実


アナグラム

おそらくは、これが最後の謎解きになるだろう。
ボクは、そう感じていた。

父の名刺。
そこには違和感がある。

唐子孝俊
TAKAtosi KaRako

なぜ、大文字と小文字が、入り乱れているのか。

そして、父からの最後の手紙。その追伸。

だがな、常に真実は隠れている。
私たちが、離ればなれになって、形を変えてこうして再会できたように。

真実の名を、刻んでくれ。

「真実は隠れている。
 離ればなれになって、
 形を変えて・・・再会する。

 この部分は、
 一度バラバラにした後、
 また組み立て直す

 という意味ではないだろうか。

 つまり、
 この大文字と小文字が
 入り乱れた名刺・・・。

 アナグラムだ。」

ボクは、書斎にあったメモ用紙を使い、必死に文字の配列を変えてみた。

何度か組み立て直してみて、そして遂に辿り着いた。

「できたぞ、これだ!」

Kati koso TAKARA

父の名、唐子孝俊のローマ字の配列を変えると、この文字列が出来上がった。

「価値こそ、宝・・・。」

でも、どういう訳だろう。
父の名は・・・もちろん、父自身が決めたわけではない。

父の名前は、ボクの祖父母が付けた名前のはずだ。

そうか、ということは、この考え方は、ずっと受け継がれてきた考え方だったんだ。

人は皆、価値を抱えて生きている。
しかし、その価値に気づくのは容易ではない。
だからこそ、自分の価値に目覚めるために人生はある。
ボクらは、強く生きることができる。

「価値こそ、宝・・・。

 お父さんも、
 おじいちゃんも、
 ずっとこの考え方を
 大切にしてきたのか。

 ・・・わかった。
 ちゃんと受け取ったから、
 このバトンを。」

受け継がれる血筋。
継承された城。
そこに流れる責任。

この城に来るまでの自分には、支えきれないほどの重荷だった。
しかし、今のボクは違う。
その、時を超えたバトンを、しっかりと受け取った。

真実の名

「・・・いや、待てよ。
 続きがあるな。

 この追伸・・・。」

ボクは再び、手紙の追伸に目を通した。

追伸:

拓実。おそらくお前は、別の名前を名乗っているだろう。
その名前も私が命じて付けた名前だ。
安全のためだ。

だがな、常に真実は隠れている。
私たちが、離ればなれになって、形を変えてこうして再会できたように。

真実の名を、刻んでくれ。

時を超えて、心から愛している。父より。

ボクの名前は伊月野拓実
それは、父が危険からボクを遠ざけるために用意した偽名だ。

「真実は隠れている・・・。
 真実の名を、刻んでくれ・・・。

 ・・・まさか・・・。」

ボクはメモ用紙に、自分の現在の名前をローマ字に直して書いた。

itukino takumi

自分の文字を、凝視する。

「・・・まさか、
 これもアナグラムなのでは。

 ボクの、この名前は、
 父が後から用意した偽名だ。

 まさか、
 何か、メッセージがあるのでは?」

メモ用紙に、何度も文字の並びを変えて試してみる。

何か、言葉になるはずだ。
ボクは、そう直感していた。

真実の名を、刻んでくれ。

父からのこの言葉は、父の名前の謎を解き明かすことで、ボクの名前にも隠れた父からの本当のメッセージに辿り着いて欲しい、という意味なのではないか?

ボクにはそう思えていた。

何度も何度も、自分の名前のローマ字の並びを変えてみる。
メモ用紙が、たくさんの文字で溢れていく。

そして、遂に・・・。

「こ、これだ・・・やはり!そうだったのか!」

遂に、それは完成した。
ボクの名前に、最初から隠されていた真実

父からのこれまでの手紙にもあったように、人生には行き詰まる瞬間がある。
そんな時、新たなヒントを得ようとする必要はない。
今あるものに目を向ける。答えは、そこにある。

最初から、あったんだ。この答えが。

導き出された、答え。
ボクの名前に、最初から刻まれていた真実。

伊月野拓実。
itukino takumi

itumotikakuni
いつも、近くに。

「やっぱりそうだったんだ!
 お父さんは、生きていた。
 本当は、いつも
 近くで見守ってくれていたんだ。」

たぶん父は、この真実を伝えたかったのだ。
ボクらの人生において、この真実の意味はあまりにも大きい。

だから、回り道をさせながら、ボクだけに、この真実を伝えたのだろう。

『いつも、近くにいたぞ。』
『いつも、近くにいるぞ。』

父は、そう伝えたかったのだろう。

ボクは、父からの本当のメッセージに辿り着けたことを確信した。

書斎の椅子に腰をかけたまま、ボクは目を閉じた。
少し、これまでのことを整理したいと思ったのだ。

ボクらの数奇な時の輪を、自分の中でゆっくりとまとめようとしていたのだ。


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