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"『病気』にかかわる本"でZOOM読書会

徳島から読書を盛り上げる「金曜の会」、6月の会が行われました。

今回のテーマは『病気』です。前回の読書会で「やはり今年度、このテーマは外せない」との意見が多かったため、2020年度最初のテーマとなりました。なおその他のテーマとしては
・『絵本・児童文学』
・『詩集・歌集』
・『図書館』
・『ビジュアル本・図鑑・図録』
・『防災・災害』
など、34項目が候補として挙がっています。

今回のZOOM読書会では計七名のメンバーが参加しました。やはり十名以上の参加があった対面での読書会とは勝手が違い、時間や通信環境の制約から参加できないメンバーも多くいることが悩ましいです。紹介本については、珍しくメンバー間のかぶりが少なく、充実した推薦となりました。


↓↓↓紹介された本一覧↓↓↓

紹介された本と、紹介者による短いコメントを記載しています
またタイトルにはAmazonなどへのリンクを貼ってあります

・Ob氏

プーシキン『ペスト流行時の酒もり』

絶望感満載の芝居。死体を載せた馬車が通るシーンなどあるかなり不気味な戯曲。ひどいことが起こるとやけっぱちになった人を変えてしまうという、弱い面を見せられるという点で考えさせられます。

ダニエル・デフォー『ペスト』

カミュのペストの最初に引用されているが、カミュのペストと違って、人間はしたたかに描かれる。悪い奴はいるけど、こちらのほうが救いがある。悲惨な人間ドラマとしてのカミュと、たくましく生きるデフォーという対比ができる。

三島由紀夫『瘰王のテラス』

カンボジアの王様の話。三島らしい肉体礼賛の戯曲。肉体こそが永遠ですべてと言って終わる。美意識というものもいいな。病気を汚く描かない。ハンセン病をすごく書いているのでなかなか上映されないけれど……

・Id氏

速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争』

第一次大戦の頃に流行し、世界中で2000万人以上、国内でも40万人、世界では直接の戦死者より多くの死者を出したスペイン・インフルエンザについて。軍隊は多くの人が集まり、クラスタとかして移動するので戦争との関係は深い。テレビで出ている磯田さんの先生だった人の著作。本書は捕虜についての研究の関係でたどり着いた。ドイツ人捕虜にも亡くなった人がいたのでその関連で。

トーマス・マン『魔の山』

岩波文庫の四巻本。ちょっと軟弱な若者がいとこの青年に付き添って、いとこは結核で、試しに検査してもらったら病気のけがあるといわれ、彼はいそいそと入院してしまう。いとこは軍隊の将校で勤勉な典型的ドイツ人、早く降りたいと山を下りてすぐに死んでしまう。主人公はだらだらとサナトリウムに。サナトリウムはヨーロッパはじめ様々なところから人が集まり世界の縮図のよう。

スーザン・ソンタグ『隠喩としての病い エイズとその隠喩』

主に扱うのは結核と癌とエイズ。結核は主として肺を病み、昔は文学者などがよく罹ったことから、なんだかロマンチックなイメージが付きまとう。一方で癌は消化器官などあらゆる場所を病むのであまりいいイメージがない。モームの『サナトリウム』など「やなイメージ」の結核本もあるけれど……近代になるにしたがってイメージが明確になっていったのかな。

・Mi氏

川喜多愛郎『病気とは何か』

病気とはどういう風に定義されているか、というお医者さんの著作。ちょっと難しい。お医者さんの本の世界だなという印象。しかし当たり前と思っていることを掘り下げる、前提に挑戦する力作。

『実例でよくわかる!目の病気 ~緑内障・白内障・加齢黄斑変性・網膜剥離~』

「NHKチョイス」の番組のテキスト。これがあると番組のことも覚えてられるし分かりやすい。

高柳泰世『つくられた障害「色盲」』

石原方式の検査など、昔は行われたが評判が悪かった。色盲に関しては、本当に調べる必要があるのか。職種によっても、色の区別が必須のものや、そうでないものや、根拠がない部分が多く、差別の原因にも。病気の枠組みが変わると人間生活や社会に影響も。

金春喜『「発達障害」とされる外国人の子どもたち――フィリピンから来日したきょうだいをめぐる、10人の大人たちの語り』

日本語に適応できない外国の子供たちが、発達障害のカテゴリに入れられて、望まない教育を受けさせられる。そこまでというくらい厳しいことも書かれているが、自分の経験でも実際に同じようなことを目にしてきた。発達障害か、日本語ができないだけなのか、分からないから検査を受けたいという子がいても、検査者も外国人を見たことが少ないので参考意見しか言えない。その判断を慎重にしなければその子の人生にもかかわってくる。
一方で日本語教育支援が充実していない部分を、特別支援学校が担っているのではないかという問題がある。この辺りはうまく立ち回っているような気がするが、それでいいのかという問題もある。

・Mt氏

吉井由吉『杳子』

主人公・杳子の見ている特異な世界観が、リアリティをもって徹底的に描写される。後半に行くにつれ、健康な人がむしろ病んでいて、杳子の方が正常で、健康である方がグロテスクな状態ではないかというような逆転が展開される。虚実の逆転は小説ならではの面白さ。後半になり、病状が回復すると、杳子もだんだん「正常」になっていく転換点があるが、本当は健康だった杳子が日常に染まって病んでいくのではないかという印象をもって描かれている。これを頭の中で観念的に組み立てるのではなく描写をして読者に迫っているところがすごい。

・Td氏

ジャレット・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』

いろいろな観点から人類について思いを巡らせて書いているが、その中で家畜から広がった病原菌がヨーロッパ人に免疫をもたせ、のちに土地を移動すると免疫のない先住民を殺した側面があるなど、書かれている。時代は違っても、今回のコロナが世の中を変えてしまうところに通じる部分がある。長くて積読していたが読んでみると面白くて読みやすかった。

ナターリア・ホルト『完治―HIVに勝利した二人のベルリン患者の物語』

製薬会社関わりがあるので治療に関する本には興味があった。患者と医者・研究者が手を携えて努力して、突破口を見つけ新たな道が開けるというのがすごい。現在もHIVと共存する薬が開発されている。そうでなかったときにどう試行錯誤をされていたかについてのドキュメンタリーが本書である。

志賀直哉『流行感冒』

志賀直哉をあまり読んだことはなかったが、知人が紹介していて読んだところ、スペイン風邪が流行した時に混乱していて、主人公が、息子がいるのだが、前にも病気で子供をなくしており、どうにかしようとしたり、女中が自宅待機できずに遊びに行ったりという描写を見つつ、人間って変わっていないなということを感じ面白かった。

・Hn氏

吉村昭『破船』

貧しいがゆえに手段を選べない村の切迫感と人間の業の深さをまざまざと見せつけられる。本書における病気は「立ち向かわなければならない強敵」ではなく、勧善懲悪的な「神罰」とも限らない。ただ手段を選べなかった村人たちと、偶然やってきた病気の不幸な出会いの話なのに、読む側では「悪いことをしたから罰を受けたんだ」とふと考えてしまうこともまた興味深い。

パコ・ロカ『皺』

グラフィックノベルではあるが、アルツハイマー型認知症を扱った作品で、アニメ映画化され、スペインのアカデミー賞ともいわれるゴヤ賞で最優秀脚本賞を獲るなど高い評価を受けた。この映画がすごくいい。病との「闘い」というより「受容」「向き合い方」について丁寧に描かれているのがまた素晴らしい。

松本清張『砂の器』

こちらも映画が素晴らしい一作。戦前戦中と地続きの、戦後日本のありようがつぶさに描かれる。たどり着いた真実の、小さくも、その背後に見え隠れする拭いきれない病人への差別偏見の歴史や、それを乗り越え、ゼロから再スタートをすることの絶望的なまでの困難さには空虚さをも覚え、そこには「背後に潜む巨悪」とはまたっ違った悲劇のカタルシスがある。

・Yo氏

寺田寅彦『団栗』

寺田寅彦の出世作。学生時代に結婚した最初の奥さんが結核でなくなっている事実を背景とした小説(随筆集に入っているが小説である)。小石川植物園で団栗を拾う展開。主人公は寺田寅彦の妻だろうと想定しながら読む。忘れ形見の子供が最後出てくるが、その子供は実の娘のことだろうが、本人は「父と団栗を拾いに行ったことはない」というからフィクションなのだろう。ちょっと切ない話。

トーマス・マン『魔の山』(二度目)

最初は一週間のつもりで山のサナトリウムに入った主人公は長期療養になってしまうが、その間にいろんな人と出会って、思想小説的な感じでヨーロッパのそれぞれの思想を代表する人が出てきて感化される。やがて一次大戦がはじまり、登場人物は山を下りて、熱病のような現実に身を投じる。

カミュ『ペスト』

今やリバイバル・ベストセラーといっていいのではないか。アルジェリアの町が舞台。登場人物たちは絶望的な医療活動を続けるが、もうとても手に余る。意欲的な行為が描かれる一方で絶望を伴って現実に向き合うさまが記憶に残る。結構長い小説ではあるが、読み応えのある作品だし、新型コロナの広がっている中でよみがえった名作と言える。

まとめ

今回の読書会では7名から、計19冊が紹介されました。

充実のラインナップですが、終わった後で「そういえばあれもあったな」「あの作品は誰か出すと思っていたのに誰も言わなかったな」など話題が尽きませんでした(正岡子規、堀辰雄、北条民雄など)。

一方で紹介された本は紹介者ごとに視点が独特でまた面白いです。

病気に対する人間の関心の強さ、病気と文学・本の親和性の高さを感じざるを得ませんでした。楽しい読書会になりました。

次回のテーマは『絵本・児童文学』。7/17日の予定です!!

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