差別されることに慣れてしまうということ

デンベレ選手の侮蔑発言に関連して,それに纏わる報道の伝わり方,異言語間での情報の伝わり方,そして,在外邦人の外国語の受け取り方についても考えた.

そもそも発端となった daily mail というイギリスの報道では英語の記事が掲載され,日本語の最初のニュースはそれを翻訳したものだった.そこに誤訳(意訳という人もいる)があり,実際よりもひどいイメージが最初に伝わった,のかもしれない.(実際,の実態なんてないんだから決定的なことは言えないんだが.)比較的早い時期に,辻仁成氏とひろゆき氏が,誤訳であって差別ではないのではという発言をする.有名人なのでそれが拡散し,最初の日本語ニュースだけみて差別だと怒る人と,辻仁成氏の記事を見て,差別ではないと安心する人がいた.一方で在日フランス人の方が動画をあげて,フランス語として見てこれは差別であると言っていた.しかし日本に住んでいるくらいだから親日だろうし,これが一般的なフランス人の感覚と受け取れるかはわからない.フランス語が堪能な日本人もいて,発信もしてくれているのだが,なかなか見つけづらい.まとめサイトのお陰でやっと幾つか知ることができた.
https://togetter.com/li/1740744

フランス語がそれなりにできそうに見える人の意見を採用するとすると,結局これは,人種差別である,という意見が多いようである.

ここで経験するのは,外国語で何かを言われた時に,正しく受け取ることの難しさ.というか多分,正しい受け取り方,なんてないのかもしれない.差別というもの自体が定義できないものである上,時代によってもコンテクストによっても変わってしまう.

そして,外国に住む日本人の少なからずが,差別発言を,「大したことないこと」として受け流してしまうということ.日本に住む日本人もそうかもしれない.何か現地の言葉で言われても,「もしかしたら自分が正しく理解できていないだけかもしれない」と思ってしまう.なるべく善意で解釈しようとしてしまう.それは,自分たちが差別されている人種であると認めるのが辛いからだろう.外国に住んでいれば特に,そういう一つ一つに毎回怒っていれば生活が面倒になってしまう.自分が選んだ外国生活を正当化しないと,自分の決断が揺らいでしまうということもある.でもそれは,卑屈な奴隷根性である.自分の中にもあるその卑屈さに,腹が立つ.

ひろゆき氏の言葉の大意は理解できる気がする.(日本語ですら正しく受け取れたとは言い切れない訳であるが.)デンベレ選手の言動は侮蔑的ではあるが,差別的ではないのではないか,ということだろう.他人への侮蔑を全く許容できない社会は確かに嫌だ.ブラックジョークやユーモアだって存在してほしい.してもいない行為で糾弾されるのもよくない.ポリコレ厨は鬱陶しい.それはよくわかる.
しかし,やはり自分達の為に余計な仕事をしてくれている一見の他人に侮蔑の言葉を,しかも相手のわからない言葉で投げながら動画撮影してもいい,という考えには,無自覚かもしれないが差別意識があると思う.差別意識の有無は本人だけが決めるものではなく,相手,或いは相手が属する集団が傷ついた時点で差別問題は始まっている.
そして,被差別側が声を上げない限り,差別はそもそも差別にすらならないのである.アジア人はおとなしいから差別してもいい,という意識に対抗できるのは,アジア人からの抗議だけだ.

それにしても.ひろゆき氏の発言は面白いし,日頃結構好んで聞いている.時々社会の為になることを目的として発言しているように見受けられることもある.だから擁護する気持ちになってしまうけど,今回も発端は,間違った情報をもとに人を不当に非難するのはよくないよ,くらいの気分だったんじゃないか.彼は別に,デンベレ選手の言動が差別じゃない,と言いたい訳ではないんだろう.しかし,彼の発言をもとに,差別じゃなかったんだと安心する人も多く,影響力が大きいというのは大変なことだと思う.ただ,「外国語のわからない人は議論しても仕方ない」(つまりひろゆき氏が差別かどうか議論しても仕方がない.彼は大してフランス語はできなそう.)という発言はどうかと思う.言語がわからなくても差別を受けている(かもしれない)のは私たちなのだ.あと,フランスの法律に則った処分を求めるのも意味不明.治外法権か?起こったのは日本だし,相手は日本人だし,知らないけど,デンベレ選手が住んでるのはスペインなんじゃないの?フランス人だからってフランスの法律に縛られる理由もなかろう.
そして,ひろゆき氏は性格上?キャラ付け上?理由はわからないが,間違いを訂正したり引くということができなくて,そこがちょっと残念だなと思う.なんでなんだろう?そして反論してきた人に突然論旨のずれた反論をしたりする.「自分が言っていたのは差別ではないということではなく,間違った情報に基づいた判断は危険だということと,差別と悪口は区別すべきだという点だけです.今回の件が差別かどうかについては自分はフランス語がわからないので議論する意味がないと思います.」と言えば,変にメディアに利用されることもないだろうに.どうしてそうなったのか,観察するのは面白いし,そういう部分こみで彼の話を聞くのも面白いけど.
えっと,勿論これ全部私の感想です.

今回見た反応の中で,無関係な大坂なおみ選手が何も言わないことを非難するのもいくつも見た.まったく関係ないのでは?単なるテニスプレイヤーがあらゆる件にコメントしなくちゃいけないなんてこと全然ないだろう.かわいそうに.


ところで,現実生活で人種差別的扱いはゼロではないが頻繁に受けるものでもない.自分が見えない所で差別されているかもしれないが,それはわからない.(動画の中のホテル従業員のように.)アジア人に友好的な人だってたっくさんいる.当り前のことだけど.





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