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『あつ森』化石展示室だけがもつ、世界中の博物館で唯一の特徴

『あつまれ どうぶつの森』化石展示室についてまとめた記事第2弾です。

前回の記事では、化石展示室の展示内容の中で、国立科学博物館の展示から着想を得ている可能性がある点を紹介しました。

今回は、あつ森の化石展示室をじっくり調べてみて判明した、化石展示室の独自の特徴について紹介します。

その特徴というのは、

『あつまれ どうぶつの森』の博物館は2017年に発表されたばかりの学説を反映した展示を行っているという点です。

この記事では、博物館の化石展示室について調べた内容を紹介し、最新の学説が反映されていることを確認していきます。その上で、「なぜ最新の学説を使ったのか?」ということを、『あつまれどうぶつの森』(以下あつ森)がどういったゲームなのか、といったことにも触れながら考えてみます。


化石展示室の紹介

化石展示室は、博物館の地下1階にある展示室です。
3つのエリアに区切られていて、足元にはなにやら説明が書かれたラインが引いてあります。

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入口すぐにあるこのラインは、さまざまに分岐しながら恐竜の化石展示エリアを抜け、最終的に現在の動物たちの姿へとつながっています。

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さて、この化石展示室ですが、これまでの『どうぶつの森』シリーズの展示室と大きく異なる点として、ストーリー性のある展示が行われている点が挙げられます。
これまでの化石展示室は単に化石が並べられているだけだったのですが、今作の化石展示室では「生物の進化の歴史」が展示される形式となりました。

展示室をしっかり見ていくと、生命の誕生から恐竜への進化、そして隕石の落下が語られ、いかにして現代の生物へとつながっているか、といったことが解説されていることがうかがえます。

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調べた結果の紹介

この化石展示室について、今回は
足元のラインはどういう意図で枝分かれしているのか?
ということを確認していきました。

演出のために描かれているだけなのか、それとも何らかの意図に基づいて枝分かれしているものなのか。

結論から言うと、
足元のラインは生物の種類によって枝分かれしていることがわかりました。そして、その分類に、最新の学説が使われていることもわかりました。


ここからは、足もとのラインを確認していきます。

まずはラインを抜き出してみましょう。
こんな感じになっています。

案内_改善版_全体

エリア1が入り口すぐの展示室です。まっすぐ進むとエリア2につながっていて、エリア2はさらにエリア3とつながっています。

エリアが進むごとに化石の年代が新しくなっており、エリア1:古生代の化石
エリア2:中生代の化石
エリア3:新生代の化石

がそれぞれ展示されています。

さて、確認したいのは足元のラインの意図ですが、いきなり恐竜を調べるのは難しいので、現在の動物の姿につながるエリア3をちょっと確認してからエリア2の確認に移ることにします。

エリア3の図に、動物の分類を書き込んだものが以下です。

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これを確認すると、きちんと動物の種類ごとに枝分かれしているらしいことがわかります。
となるとエリア2も、恐竜の種類ごとに枝分かれしているはずです。

エリア2を確認します。

Area2_分類名あり

エリア2に恐竜の分類を書き込んだものです。確かに、種類ごとに枝分かれしていることが確認できますね。

ただ一点気になるのが、オレンジのラインの部分。なぜ鳥盤類と竜盤類がつながっているのでしょう?

わかりやすくするために色をのせます。

Area2_旧分類

こんな感じになりました。竜盤類であるTレックス、スピノサウルス、ディノニクスが、同じ竜盤類であるブラキオサウルス・ディプロドクスから離れた場所に展示されていることが確認できますね。その上で、鳥盤類の恐竜たちと同じオレンジのラインから枝分かれしていることも確認できます。

これについて調べると、恐竜の分類を見直す動きがあることがわかりました。

論文が発表されたのは、Nature 2017年3月23日号
ネイチャーダイジェストで日本語でまとめられた記事があるので、今回はそちらを参照します。

記事の書き出しを引用します。

『恐竜は、骨盤が鳥類に似た「鳥盤類」と骨盤が爬虫類に似た「竜盤類」の2群に分類される』。この、130年間にわたって広く認められてきた分類法が、もはや意味をなさなくなる可能性が出てきた。見慣れた恐竜の進化系統樹を根本から書き換えるような新説が、Nature 2017年3月23日号501ページで発表されたのである1。この論文では、現在の系統樹に対する数々の修正が提案されているが、中でも特に大きな変更は、これまでの枠組みでは同じ「竜盤類」に分類されていた、「竜脚類(ブラキオサウルスなどの巨大種に代表される長い首と尾を持つ植物食恐竜)」と「獣脚類(ティラノサウルス・レックスなどの二足歩行をする肉食恐竜)」が、類縁関係が遠く離れた別々の分類群へと割り振られたことだろう。

そしてこの記事では、研究に関する詳細と、それに対する学者の反応などが紹介されています。

記事の内容をまとめます。

・恐竜の分類方法を見直す研究が発表された。
・研究では、骨盤の形状で分類していた従来の分類方法に対し、全身の特徴を見て分類することが提案された。
・新たな分類では、これまで「竜盤類/獣脚亜目」だったものを「鳥盤類」と合体させて、新たなグループを作ることが提案された。
・そのグループを、「Ornithoscelida」と呼ぶことにしている。

さて、この研究で提案された新たな分類「Ornithoscelida」を、化石展示室の図に当てはめます。

Area2_新分類

すると、足元のラインが違和感なく枝分かれすることが確認できました。

つまり、この化石展示室における展示は、2017年に発表された新説を反映したものであるということが言えそうです。


ここまでに確認した内容をまとめます。

・化石展示室は、生物種で意図的に分類されている。
・その分類は最新の学説(※2017年発表)をもとにしたものである。

さて、ここでさらに、「なぜ新しい学説を使ったのか?」ということが気になります。
「新しいものがあるならそれを使えば良いだろう」と思われるかもしれませんが、先程の記事を確認すると、新しい学説というのはそんなに簡単には使えないことがわかります。

以下、記事中の学者のコメントを引用します。

スミソニアン国立自然史博物館(米国ワシントンD.C.)の古脊椎動物学者Hans-Dieter Suesは、今回の研究が議論を巻き起こすことになるだろうと予想する。「だからといって、恐竜の系統樹を直ちに書き換えるべきではないでしょう」と彼は続ける。古生物学者が行う系統分類学の解析の結果は、どの種を検討の対象にするか、そしてどの解剖学的特徴をどのように分析に盛り込むかに大きく左右されるからだ。

化石展示室のモデルとなった可能性が高い施設として挙げられている国立科学博物館でも、恐竜の分類は従来の分類を用いており、Ornithoscelidaの分類は使用されていないことが確認できました。


このように、新しい学説を使うことは、現実では慎重に検討されているようです。
専門家ではないため断言はできないのですが、おそらくOrnithoscelidaの分類を使っている博物館は、世界的にもかなり珍しいのではないでしょうか。

あつ森の博物館も、博物館として問題がない施設にしようと考えたら、従来の学説を使えば充分だったはず。

それなのになぜあつ森の博物館では、最新の学説を使ったのでしょうか?
これを、「最新の学説を使ったことで何が起こったか」といった点から考えてみます。


なぜ最新の学説を使ったのか?

ここからは、「なぜ最新の学説を使ったのか?」ということについて、私の考えをまとめていきます。

最新の学説を使ったことで、あつ森の博物館がどのような博物館になったかと考えると、現実世界にまだない博物館になったことが言えそうです。

先程確認したように、現実においては、新説は展示などに取り入れることができない段階です。
それに対してあつ森の博物館は新説を取り入れました。

これは、あつ森の博物館が既存の博物館の模倣としてではなく、「現実世界にはまだないもの」であることを強調するためだと考えています。


今作における博物館が、これまでのシリーズ作とどんな点が異なっていたか確認してみましょう。

あつ森の博物館には、これまでのシリーズとは明らかに異なる点があります。
それは、プレイヤーが新しく作った博物館であるということ。
これまでの『どうぶつの森』シリーズの博物館は、プレイヤーが村に移住した時点で、すでに存在していた施設でした。
ところが今作では、プレイヤーが島を発展させる中でやっと設立される施設です。

ここからさらに言えるのが、あつ森の博物館は、世界的にも新しい博物館であるということ。
これまでは移住時点であったので、いつオープンした施設か不明でした。
それに対し、あつ森の博物館は、プレイヤー自身が設立した日がオープン日になります。

こうした変化によって、今作の「博物館」は、プレイヤーにとってどんな体験を提供してくれる存在になったのでしょうか。

これを考えると、あつ森の博物館は、プレイヤーに「世界で最も新しい博物館」をオープンする体験を提供してくれるものになっていることが言えます。
「既存の博物館に展示品を増やす」という体験を提供してきた過去のシリーズ作からは、大きな変化ですね。

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今作での、こうした「まだ私たちの世界にもないものを、プレイヤーが作りあげた」という体験を強調するために、現実の博物館ではまだ取り入れることができていない最新の研究結果が反映されたのではないでしょうか。


まとめ

これまで、あつ森の博物館について確認してきました。

そして、あつ森の博物館がこれまでのシリーズ作と異なり「世界的にも新しい博物館を設立する体験」を提供していること、その体験を強調するために現実ではまだ使われていない学説を反映したのだと考えました。

さて、今回確認したのは博物館ですが、こうした変化は『あつまれ どうぶつの森』という作品全体が重視している体験にもつながっているように思えます。

あつ森というゲーム自体、DIYや島クリエイターなどの新機能を取り入れ、「新しいものを作り上げる」という体験を重視している印象を受けます。
これまでのシリーズ作が提供していた、「現実での生活をスローライフの中で再現する」という体験からは大きな変化です。

このように、あつ森が提供してくれる体験をしっかり見ていくと、過去作からの変化として単に舞台を島に移したというだけではなく、「集落に移り住む」体験から「新しい土地での生活をはじめる」体験に変化していることがわかります。
今回は博物館しか取り上げませんでしたが、他にも体験が変わったポイントがあるので、また記事にしてみます。

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最後までお読みいただきありがとうございました!

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