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伊那谷日記⑩おコメは多分、不足しているわけではない?

おコメがスーパーの店頭から消えていると、テレビから流れてくる。
都会は人口が多いから大変だなと他人事のように聞いていた。
我が家もそろそろおコメが無くなるので台風前に買っておくかといつものスーパーに出かけてみると…おコメの棚が空っぽだった。

申し訳無さそうにレトルトのご飯パック、2キロのもち米が並んでいるだけだった。
先週見た時はまだ普通に並んでたのにな、と不思議に思ったが、この台風対策のせいもあって在庫がなくなったのだろう。
南海トラフ地震の警戒期間にもペットボトルの水がなくなっていたのを思い出した。

とりあえず手持ちのコメを長持ちさせるべく、押麦を購入する。
朝ご飯もパンに切り替えようと思うが、それでも後3日で、うちのコメは無くなるだろう。

仕方ない、おコメを探す旅に出よう。
買い物には車を使いたくないが、何軒かスーパーを回ることを考えれば車は必須だ。
翌朝、私は小雨の中車の鍵を握った。

先ずは一番近いJA直営農産物販売所へ。ここはコメを精米して売っていたはずだ。決して安くはないが地元のコメを扱っている。

到着したのが開店10分前だった。以外に人がいてびっくりした。開店直後が品揃えがいいのかな?
開店前に直売所に来たことなんてなかったのでこんなに人気の場所とは知らなかった。
開店時間が迫るに連れて待ってる人が増えてきて、20人くらいになった。

開店すると皆について中に入る。なるほど、野菜も果物も棚いっぱいに並んでいる。今はトウモロコシがメインだ。アスパラガス、夏野菜、桃やぶどう、りんごも並んでいる。
ついつい野菜に目移りしてしまったが、私の本来の目的はコメだ。
おコメ売り場に目をやると、あらら、並んでる〜!
開店前から来ていた人達の目当ては大半がおコメだったようだ。
私も列に並んでみる。
列の先頭にはPOPが出ていて、
1日販売量 150キロ
お一人様 10キロまで
と書かれている。
もしも全員10キロ買ったら、15人までかと思うとけっこう狭き門だ。私は9人目だった。
値段を他店と比較検討する余裕はなかった。流れに身を任せ、前の人にするように私も5キロお願いした。注文してから精米してくれるようだ。

こういう時に、10キロ注文できない自分は小心者だと思う。POPにあった「少しでも多くのお客様に販売出来るようご協力下さい。」の文章に従ってしまう。
本当に戦争や災害、パニックが起きたらきっと食いっぱぐれてしまうだろうと思う。
しかし性格はすぐには変わらない。諦めよう。

精米したてのコメは温かい。こんなにたくさんの食べ物があるのに、やっぱりおコメが無いと辛い。5キロのコメはおそらく2周間ちょっとで食べ切ってしまうだろう。
私は束の間の安心感を小脇に抱いて、小雨の中、車へと走った。

こうして私のおコメを探す旅はあっけなく終了した。
帰路、稲穂が頭をたれ始めた水田の真ん中を走って行く。まだ青々とした水田は収穫まであと二ヶ月くらいかかるだろう。
こんなにたくさんの水田があり、コメを生産していて、人口もさほど多くないこの街でおコメが店頭から消えるなんて想像もしていなかった。
この田んぼのコメはいったいどこに行って、誰の口に入るのか?
すぐ隣の畔の向こうに私の知らない世界が不気味に横たわっているような気がした。

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