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周波律 ~ピタゴラスコンマを越えるための調律法~(2)

今回は新しい調律法、周波律について、これまでに確立された調律法と比べながら、その特徴、メリットとデメリットについて解説したいと思います。
周波律とは、二つの十二等分した周波数を組み合わせて作る音階です。詳しくは前回の記事をご参照ください。

はじめに、これまでの調律の成り立ちと性格について見ていきましょう。

まず、ピタゴラス音律です。
ピタゴラス音律は、現在、西洋で主流となっている十二音階の最初のモデルになった音律です。この音律は、完全五度を積み重ねることで得られます。完全五度がオクターブに次いで、最も単純な比率(3:2)というのが、その理由です。比率がシンプルなほど、音は澄んで聞こえます。この比率を重ねて十二音階を作ろうというのが、ピタゴラス音律です。実際に音階を組立てましょう。完全五度の比率は3:2なので、もとの音に1.5ずつ掛けていくと、求める音が得られます。求めた音がオクターブを超えた場合は、それを2で割ります。こうすることで、オクターブ内に音階が収まります。
さて、1オクターブ上のドに辿りつきました。オクターブは、もとの音を2倍したものでなければいけません。しかし、算出された音程を見ると、わずかにそれを上回っています。これをピタゴラスコンマといいます。

この外れた値をどうするかが、調律を行う上で大きな問題になりました。また、基音から離れていくほど、その音の比が複雑になることも問題でした。

これに対処するために考案されたのが、純正律です。純正律の調律法は様々ですが、ピタゴラスコンマによって生じた音のずれを、どの音に割り振るか調整することで、聴いた時の違和感を出来るかぎり緩和することが、この調律の特徴です。ピタゴラスコンマがあることを前提に調律を行うので、この音程のずれが無くなる訳ではありません。

今日、私たちがよく知っている平均律についても同じことが言えます。平均律は、ピタゴラスコンマで生じた音のずれを、12音すべてに均等に割り振った調律法です。言い換えれば、ピタゴラスコンマを隠すために、全ての音をずらしてしまった調律法と言えます。

周波律は、このピタゴラスコンマを無くして調律してしまおうという考え方です。
ピタゴラスコンマがなぜ発生したかをもう一度、考えてください。完全五度の積み重ねだったはずです。これまでの調律は完全五度の積み重ねを12回、繰り返す必要がありましたが、周波律の調律においては、五度の積み重ねを一度、用いるだけです。音程の誤差は従来の調律の1/12で済みます。

周波律と平均律の振動数比の違いを比べてみます。値がシンプルなほど、音程が調和していると言えます。以下は、A=440hzでとった平均律の半音階における各音の振動数比です。[図1]

[図1] 平均律半音階の各音の振動数比

一方、周波律でとった半音階の振動数比を示します。計算のしやすさから、基音はA=432hzとしています。[図2]

[図2]周波律半音階の各音の振動数比

気をつけるべきは、平均律と違って、すべての調の振動数比が一定になるわけではありません。その点、純正律と共通する特徴を持った音律といえるでしょう。以下は、周波律において各調を基音とした全音階の振動数比を表した図です。[図3]

[図3]周波律における各調の全音階の振動数比

あらゆる調で平均化された振動数比を持つわけでありませんが、全ての調の音程の振動数比がニ桁の整数比内で収まることは、これまでの調律において考えられなかったことです。

改善の余地はありますが、純正律の周波数比を保ちながら、平均律のように各調への転調を可能にする調律法でないかとみられます。
実際の音を聴いてみたい方は、以下の動画をご参照ください。

具体的な調律方法とデータをご覧になられたい方は、以下のレポートをご参照ください。
周波律(PDF)

それでは周波律に現れる数学的な特徴を、次の記事でご紹介したいと思います。

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