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本当の「個人が活躍できる社会」とは?(家入一真×榎本温子×キュンチョメ ホンマエリ×平田麻莉)

いよいよフリーランス新法が施行されます。法の整備も進み、フリーランスを取り巻く社会もかわりつつあります。しかし一方で、そんな何が変わったの? どう対応すれば良いの?と思っているフリーランスの方も多いのではないでしょうか。

今回は株式会社CAMPFIRE代表取締役の家入一真さん、声優・ナレーターの榎本温子さん、アートユニット・キュンチョメのホンマエリさんの3人に、本当の「個人が活躍できる社会」とは?というテーマでお話を伺いました。モデレーターはフリーランス協会代表理事で、フリーランス新法の政府検討会の委員も務める平田麻莉が務めました。

フリーランスがキャリア自律するためには、どんな矜持を持ち、活動するべきなのか。そのヒントとなる言葉が、あちらこちらから飛び出した鼎談です。これを読むと、これからフリーランスはどう働くのが理想なのか?がきっとみえてきます。

※この記事は、フリーランス協会「Independent Power Fes 2023」内のスペシャルセッション本当の「個人が活躍できる社会」とは?の内容をもとに作成しました。

個の時代に、インターネットがもたらした恩恵は?


平田麻莉(以下、平田):フリーランスが活躍できる社会について、3人のゲストとともに考えていきます。では榎本さんから、ご自身のキャリアもあわせて自己紹介をお願いします。

榎本温子さん(以下、榎本):声優、ナレーターを25年やっている榎本温子です。エヴァンゲリオン庵野秀明監督の「彼氏彼女の事情」で、宮沢雪乃役でデビューしました。7、8年前からABEM Primeでニュース番組のナレーターを担当しています。どうぞよろしくお願いします。

平田:ありがとうございます。心が洗われるような声、「さすがプロだな」と聞き入ってしまいました。続いて、家入さんお願いいたします。

家入一真さん(以下、家入): BASE、CAMPFIREなど、個人が発信するためのプラットフォームを運営する会社を多数起業しています。インターネットの本質は、個人をエンパワーメントするための革命です。今日はそういう観点でお話しできればと思います。

平田:家入さんに感謝している人は、たくさんいると思います。ネットの良い面、課題、それをヒントに上手に活用する方法などもお伺いしていきたいと思います。最後にホンマさん、お願いします。

ホンマエリさん(以下、ホンマ):キュンチョメというアートユニットで芸術活動をしているほか、ハラスメントやジェンダーバランスに関する調査を行う『表現の現場調査団』の一員でもあります。よろしくお願いします。

平田:ホンマさんは富山からいらしてくれました。よろしくお願いします。
そして私は、モデレーターを務めさせて頂きますフリーランス協会の平田です。私はフリーランスのPRプランナーとして10年以上活動しています。その傍ら、7年前にフリーランスのインフラ・コミュニティが必要だと感じ、非営利団体としてフリーランス協会を設立しました。よろしくお願いします。

では本題に入ります。今はスマホ、パソコンがあれば誰でも、簡単に発信ができる個の時代。このことはクリエイターエコノミーとも言われています。声優やアーティストの皆さんは、そういう環境下でどのような恩恵を受けているのでしょうか?

榎本:誰でも、どこからでも配信が可能になり、コンテンツも増えて、声優は活躍の場が広がりました。今は番組の配信量がフィーチャーされていますが、それが落ち着くと質の高い番組が求められる時代になるはずです。そして最終的には質と量、両方を頑張った人が残ると感じています。だから私も、そこを目指して配信し続けています。

平田:榎本さん自身もたくさん配信していますよね。ありがとうございます。
ホンマさんはいかがでしょうか。

ホンマ:インターネットは便利ですが、知識を得ただけで「ええー、そうなんだ」と身体全体で刺激を受けることはあまりないですよね。一方で、インターネットが発達したからこそ、感じられる驚き方もあります。例えば、パソコンを持って、言葉も全然通じない国でノマドワークする。するとすべてが「えー!」と驚きの連続です。やってみてください。そしてこの刺激は、ネットが発達した世界でなければ感じることができないものです。

平田:確かに、オンラインで仕事を続けながら、言葉も通じないような場所にフィジカルにビックリする刺激をインプットしに行けるのは、インターネットの時代ならではですね。
家入さんはどうでしょう?インターネットの恩恵を多くの人に広げようと尽力されてきた側として、今のインターネット社会をどう感じているのかをお伺いできればと思います。

家入:インターネットの発展の恩恵は、一個人が声を上げやすくなって、あらゆることが民主化されていくことです。しかし一方では、インフルエンサーが炎上して心を病んだり、発信し続けなければいけないプレッシャーを感じたりする人もいます。自己責任論が根強い日本で、全ての責任が発信している側に集約している側面もあります。

クラウドファンディングのプラットフォームを運営している立場として言えることは、インターネットは炎上リスクもあるということを理解した上で利用していただくのが良いかなと。インターネットを使えば、すべてがうまくいくということではありません。

今、業界で活躍中のフリーランスが抱える課題


平田:ありがとうございます。誰でも発信できるインターネットに潜む、光と影。両方理解した上で使いこなしていくことが大事ですよね。

さて個人が活躍できる幅も広がる一方で、それぞれの業界には課題もあります。榎本さんはアニメ業界の低報酬や、ランク制の構造を改革しようとSNSで発信されていますよね。具体的に、どういった問題があるのでしょうか。

榎本:私は低報酬で働く声優の待遇改善を求めてメディアやSNSで発信し続けています。声優の報酬は、日本俳優連合が定めたランク制で決まる仕組みになっています。デビュー当時は作品1本につき15,000円の買取から始まります。キャリアを重ねると2次使用料がついて、1本あたりランク料金のおよそ2.5倍になります。そこから事務所に手数料、源泉を引かれた金額が、声優の手取りです。劇場版でヒットした作品は、イベントなどの可動で少しだけ色がつきますが、現場の声優への還元はほとんどありません。

平田:ありがとうございます。アニメを支える声優の皆さんの手取り収入がそれほど低いとは驚きですよね。自分で価格交渉できず業界全体で報酬が決められているというのも、アニメ業界の特殊事情だと思います。
ホンマさんは、ハラスメントやジェンダーについて発信されてますが、どうでしょうか?

ホンマ:こちらのスライドをみてください。「表現の現場調査団」で調べたハラスメント調査の結果です。1,449名中、1,195名がハラスメントを受けた経験があるという回答でした。

ホンマエリさん提出資料

このハラスメントの原因はジェンダーバランスの偏りにあると思っています。美大の教授や、芸術賞を選定する審査員は、多くが男性。そのため “良い”といわれている今の価値基準は、男性主体で作られたものがほとんどです。

今までも優れた作品はあったはずですが、今の基準を満たしていないという理由で埋もれているものもいっぱいあります。私はそれを非常にもったいないと思っています。

ハラスメント、ジェンダーバランスの詳しい調査結果は「表現の現場調査団 」のWebサイトでみられます。ただハラスメントの具体事例には過激な内容も含まれているので、ぜひご自身の体調と相談してみてください。

平田:私もこの調査結果に驚きましたし、可視化が大切だなと思いました。フリーランス協会でも過去にハラスメント調査を実施したり、いろいろな実態調査で可視化するということを大事にしているんですけれども、大変勉強になりました。
家入さんは二人のお話を受けて、どう思われますか?

家入:CAMPFIRE にも200人の社員がいて、基本フルリモートで働いています。ジェンダーバランスでいえば、例えば経営者のカンファレンスで登壇する際、登壇社全員が男性ということは多々あります。最近は、僕を含めて、ジェンダーバランスが崩れている際は辞退というアクションを起こしている人も見受けられます。

法律関連ではクリエイターエコノミー協会が、特商法の表記で実名や住所を公表されるのはおかしいと声をあげています。やはり個人が活躍できる社会を作るということは、こういうことも促進していかなくてはいけないと思います。

個人が活躍できる社会を作るため、フリーランスに求められていること


平田:そうですね。フリーランス新法も、7年かけて成立した法律です。声をあげるというのは、大切なことだと思います。
業界毎にさまざまな課題があるとは思うのですが、本当に個人が活躍できる社会を作るためには、どう変われば良いと思いますか?また行政に期待していることがあれば教えてください。

ホンマ:ハラスメントの視点で見ると、法改正とともに、ハラスメントの相談室も設置されるようになってきてはいます。しかしそれを監視する機関がありません。相談員自身がハラスメントを行う、相談をもみ消すなどの事例が起きています。行政は相談窓口を作るよう呼び掛けるだけでなく、注意深く監視して欲しいです。

平田:ありがとうございます。すごく大事な視点だなと思います。では、榎本さんいかがでしょうか。

榎本:せっかく法律ができて、フリーランス側が法律を理解しても、発注者側の意識が低いとそこにギャップが生まれます。多くの会社はフリーランス新法の勉強にさける時間も費用もないのが現状です。特に小さな声優事務所には、その余裕はないでしょう。だから政府がそこをサポートしてほしい。勉強したい人は誰でも勉強できる仕組みが必要だと思います。また「うちはこの研修を受けています」とアピールできれば、社会的信用にもつながると思います。

平田:そうですね。フリーランス新法を活用して、会社の信用を高める取り組み。企業、フリーランスともにメリットがある提案だと思います。

家入:個人が活躍できる社会を作るという流れは強くなっていて、国もそれを認識しているはずです。だからフリーランス側も、この機会にアクションしていくことが大切でしょう。最近、僕は「行動することによって政治は動く」と思っています。だから引き続き、「政府に対して、自分は何ができるんだろう」ということを考えていきたいです。

平田:ありがとうございます。アクションを起こすというのは大切です。
それと同時に、フリーランスは、自分のキャリアは自分で切り拓くという責任と自覚も持って働くことも大切です。よく「キャリア自律って何?」と聞かれるのですが、私が説明する時に使うのがアニメ「鬼滅の刃」に出てくる「生殺与奪の権を他人に握らせるな」という言葉です。業界や政府に働きかけをしていくと同時に、フリーランス側も自身のキャリアを取引先に委ねず、リテラシーを高めて自己防衛していくことが必要ですよね。

フリーランスが、これから仕事をする上で意識したら良いことや、目指す方向性のヒントをいただけたらと思いますが、どうでしょう?

フリーランスが生き残るための戦略


榎本:フリーランスは自分の働く環境にもっと興味を持った方が良いと思います。そのためには、同職種や、異業種の業界と比べて、自分の環境は、過度のストレスがない安全な場所かどうかを確認しましょう。もし危険な場所だと判断したら、取引先を変える。これを繰り返すことで、企業側は「あれ、僕たち選ぶ側ではなく、選ばれる方だったんだ」と認識が変わるはずです。またフリーランス同士の情報交換も積極的に行いましょう。とにかく良い取引先と出会えるよう、頑張っていきましょう。

平田:ありがとうございます。本当におっしゃる通りで、フリーランスは誰と仕事するか選べるのも醍醐味です。ノーと言うことがその業界を変えていくことにつながるかもしれませんねからね。ホンマさんは、いかがでしょうか。

ホンマ:みなさん、相談室に駆け込むほどではなくても、ハラスメントを受けたりトラブルに遭った際は、周囲の人に愚痴ってください。それが裁判の証拠や、精神的な支えになります。愚痴というとネガティブに聞こえますが、我々は生存戦略として愚痴っていきましょう。エンパワーメントとは逆に思うかも知れませんが、これが大事なエンパワーメントになります。そうやって私達は、強くしたたかに生き残り、この世界を楽しくしていきましょう。

平田:ありがとうございます。フリーランス・トラブル110番のように、無料で専門家に相談できるサービスもあるのでアンテナを張っておくと良さそうですね。フリーランス協会でも、メルマガやSNSで情報提供してますので、ぜひチェックしてみてください。最後に家入さんからも、お願いします。

家入:今の日本は、未来の展望を描くことがまだまだ不足していると感じます。資本主義の仕組みをガラリと変えることは無理ですが、その上にどんなレイヤーを作るべきかという観点で、僕らは提供するサービスを考えています。僕が理想とするのは、個人を中心とした小さい経済圏が重なり合う世界。他の経済圏にいくつも属しながら支えあう仕組みです。それを実現するために僕たちも頑張っていきます。フリーランスは個人ですが、複数のコミュニティに属しているだけで、強くなれるはずです。

平田:フリーランスは孤独だと思う人も少なくありません。だからこそ、拠り所をたくさん持っておくことはすごく必要ですね。
では最後に視聴してくださっているフリーランスのみなさんに向けて、モチベーションの上がるメッセージをお願いできればと思います。

ホンマ:とにかく声を上げていきましょう。ジェンダーバランスが悪いイベントに参加したら、SNSやアンケートに「ジェンダーバランスが悪い」と書くだけでも、少しずつ社会は変わっていきます。また文化庁が新しい政策を作る際、パブリックコメントを募集します。これはダイレクトに声が届く、強いツールです。ぜひ皆さん覚えて帰ってください。

平田:ありがとうございます。榎本さんはいかがでしょうか?

榎本:私は何かを発信する際、刺し違える覚悟で発信しています。アニメ業界の闇を変えようと、メディアの取材も受けてきました。これからも機会があれば積極的に取材に応じます。だから皆さん、アニメ業界をぜひ応援してください。今日はありがとうございました。

平田:ありがとうございます。では家入さん、お願いします。

家入:フリーランスで働くということは「生き方の選択」だと思うんですよね。理想の働き方をしている人は、「こういう生き方をしたい」と逆算して働き方をみつけています。生き方には様々な選択肢があり、どれを選択するかは人それぞれ違います。しかし自分で選択するという覚悟が大切です。
また、僕は企業を経営する立場、プラットフォームを運営する立場でもあるので、今日伺ったお話も踏まえて、もっとフリーランスが活躍できる社会を考え、構築していけたらと思いました。

平田:短い時間ではありましたが、お三方から多角的な視野で論点やヒントを頂けて、充実した時間でした。
「自ら生き方を選択し、誇りと自信を持って進んでいく」。これがフリーランスにとって大切なのかなと感じました。フリーランス協会も引き続き、個人が輝ける社会を作るために、声を上げたり、働きかけのお手伝いをしたりしていきたいと思っています。
本日はどうもありがとうございました!

家入・榎本・ホンマ:こちらこそ、ありがとうございました。

家入 一真(いえいり かずま)さん
株式会社CAMPFIRE 代表取締役
2003年株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業、2008年JASDAQ市場最年少(当時)で上場を経て、2011年株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役に就任。2012年BASE株式会社を共同創業、東証マザーズ(現グロース)上場。2018年ベンチャーキャピタル「NOW」創業。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング 2021」にて第3位に選出。その他、京都芸術大学の客員教授やN高起業部の顧問等を務める。

榎本 温子(えのもと あつこ)さん
声優、ナレーター
1979年11月1日生まれ 1998年2月高校3年生でデビュー。 同10月、エヴァンゲリオンの庵野秀明監督作品「彼氏彼女の事情」主役 宮沢雪野役でアニメデビュー。以降活動の場を広げる。 近年はナレーションをメインに活動中。
ナレーション:『Abema Prime』 『有吉反省会』など
アニメ:『キボウノチカラ〜オトナプリキュア'23〜』(美翔舞役)、『カードファイト!!ヴァンガード』(先導エミ役)ほか出演多数

ホンマエリ(ほんま えり)さん
アーティスト
ホンマエリとナブチのアートユニット キュンチョメで活動。 さまざまな土地に滞在しながら、この世界を見つめ直し出会い直すための、詩的でユーモラスな作品を制作している。近年の主な展覧会に「六本木クロッシング2022:往来オーライ!」(森美術館 東京)、「現在地:未来の地図を描くために[1]」(金沢21世紀美術館 2019)、「あいちトリエンナーレ2019」(愛知)などがある。表現の現場調査団メンバー。 https://www.kyunchome.com/

平田 麻莉
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事、フリーランスPRプランナー
慶應SFC在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、2011年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。自身もフリーランスで活動する傍ら、新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。
日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。政府検討会の委員・有識者経験多数。

取材・文/谷口素子
機関誌『東京消防』、WEBマガジン『食べログマガジン』などで執筆。“伝えたい思いを、わかりやすい言葉で多くの人に届ける”をモットーに活動中。モットーは「転ぶ門には福来る」。

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