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街中で鳴っている

街なかを歩いていると、急に頭のてっぺんに電気ショックを与えられたような衝撃が走ることがある。その正体は、ビルの入り口のネズミ除けの音らしい。2万5000Hzという、人には聞き取れるはずのない音が、聞こえてしまう。

水銀のような液状の重金属のしずくを脳天にピン、ピンと1摘ずつ落とされるような音で、どうにも気持ちの良いものとはいえない。入り口を通り過ぎてしまえば収まるのだけれど、プールに入る前の冷水シャワーのように、大抵はそこを通る以外、中に入るすべがなく、仕方なく音を浴びることになる。

あまりに爆音で、思わず身を仰け反ることもあるが、周りを見渡すと自分以外の人は平然と通り過ぎていくので、多分他の誰かには聞こえていないんだろうなと気付く。無反応でやり過ごす人もいるかもしれないけれど。

耳から聞こえているともいいがたく、体内の骨に共鳴するような聞こえ方をする。一方で20000Hzあたりの音は私には聞こえない。それよりも高い周波数のネズミ除けだけが聞こえるなんてことあるのか分からないが、メカニズム的には頭蓋骨に共鳴していると勝手に解釈している。

聞こえる人はときどきいるようで、ミュージシャンの知人に2人、同じ音を聞いていることがあった。そのうちの1人は同僚だった。移転前の職場の地下に入っていたスーパーの入り口が爆音で「ここ爆音だね」が通じる人が身近にいてちょっと嬉しかった。私の気のせいではないことが証明された瞬間だった。

そのスーパーがテナントから抜けてしまったため、今も入り口で鳴っているかは分からないし、わざわざ確かめに行きたいとも思わないけれど、自分が遭遇した「重金属の雫が落ちてくる場所」は、他の聞こえてしまう人のために「爆音注意」と遠目でも分かるように示してあげたい気持ちになる。歩く速度以上の速さでゾーンに入ると急に爆音で鳴り始めるように聞こえて、不意打ちを食らうことになる。

そこに限らず、街中の至るところに「重金属の雫が落ちてくる場所」がある。最近新たに発見したのは、宮下パークの道路を挟んだ向かいにある商業施設の1階の裏手通りにあるカフェの南隣にある駐車場入り口、そして大手町の地下の一角のどう説明したらいいか分からないけれど自動ドアで囲まれた空間。ここは二度と通りたくないほどの爆音だったが、地図で同じ場所を探せなかった。

あともう一つ、似た音が近づいて遠ざかることもある。大型のトラックがピヨピヨ言いながら近づいて、ゾーンに入ったかと勘違いしたことが何度かあった。これは全く別のものなんだろうか。車両センサーや超音波レーダーの類かもしれないし、トラックにもネズミ除けが積まれていた可能性もありそうだけど。

ところで、2万5000Hzの音が人間の鼓膜を振動させているわけではないとしたら、この音はどうやって知覚されるのか。鼓膜で聞いているのか否かを確認するために、もう一度爆音ゾーンへ、今度は耳栓をして近づいてみたいような気もする。ノイズキャンセリングのイヤフォンはどうだろうか。これらが無効と分かれば、音が取り込まれるのは鼓膜からではない可能性が高まるように思う。

そして、自分を含めて3人、音楽をやっていたことのある人が聞こえたというのはただの偶然かもしれないが、割合的にそういう人に多いということはあるんだろうか。人と知り合う機会の少ない私の狭い観測範囲の3人では何ともいえないし、どちらかというと知り合う人が音楽をやっている人という可能性が高いだけの話かもしれない。








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