教科書にも載ったFF4の名曲「愛のテーマ」が真っ向勝負すぎる
FF4(ファイナルファンタジー4)はSFC初期の作品にしてスーファミ最高峰の1つといっていいほどBGMの評価が高いゲームですが、その中でも有名な曲の1つ「愛のテーマ」について解説したいと思います。
といっても自分は多少DTMの経験がある程度で、それほど専門的な分析ができるわけではないのですが、その分音楽の知識が特にない方にも伝わりやすいように書いていくつもりです。
この曲は2005年に小学6年生の音楽の教科書に掲載されたことでも話題になりました。(さすがに今はもう載ってないのでしょうか?)
この話を最初に聴いたときには「たしかにいい曲だったけど、なんで?」と思わないでもなかったのですが、今回曲を改めて聴いたり楽譜を起こしたりしていると、たしかにその決定にも納得するものがありました。
なお、本文中に以下の形式で登場するセクションは基本的に読み飛ばしていただいて問題ありません。
ある程度音楽知識がある方が読まれたときに「そうなん?」と突っ込みたくなるであろう点についての補足になります。
「王道進行」+「Cメジャー(ハ長調)」
現代音楽の大半はメロディとハーモニーとリズムの3要素で成り立つと言われます。
このうちハーモニー(和声)はメロディやリズムと比べてやや抽象的な概念ですが、すごーく雑に言うならコード進行によって醸成される楽曲の性格や雰囲気といった感じ。
コードとは「ド・ミ・ソ(Cメジャー)」のような音の組み合わせのことで、これが「C→G→C」などとつながっていくことで「コード進行」になります。
音楽や楽器の経験が少しでもある人ならご存知ですが、コード進行には定番というものがあります。
そのうちの1つが「王道進行」と呼ばれるもので、J-POPのサビなどでめちゃくちゃよく使われます。(意味不明でしたらYotubeなどで「王道進行」を検索してもらえばわかりやすい解説動画が多数見つかります。)
ここで「愛のテーマ」の楽譜を見てみましょう。メロディとコードだけを書いた簡易的なバージョンです。
まずこの曲は頭に#や♭がついていないのでハ長調(C Major)、ピアノでいうと基本的に黒鍵を使わなくて弾ける、一番シンプルでわかりやすい調性です。
そして、冒頭の「F→G→Em→Am(Ⅳ→Ⅴ→Ⅲ→Ⅵ)」が前述の「王道進行」になります。
コード進行に関しては、その後もずっと王道進行やその他のメジャー進行(カノン進行など)だけで構成されているわけではありませんが、ノンダイアトニックコードやテンションが多用されているわけでもなく、全体として「王道的」と言えます。
つまり、この曲は「最もわかりやすい調性と最もありきたりなコード進行」で作られています。
これは人の名前で例えるなら「佐藤一郎」みたいな感じでしょうか。あ、王道進行が佐藤で、Cメジャーが一郎のほうね。いまどき一郎なんて名前は王道じゃないことくらいおじさんでも知ってるからね。ってどうでもいいですね。
「フルート単音のメロディ」と「ハープ単音のアルペジオ」だけ
そんな佐藤一郎さんな件よりも圧倒されるのは、この曲の冒頭が「フルート単音のメロディとハープ単音アルペジオの伴奏の2音のみ」で構成されていることです。
とっさに思い出せない人はちょっと聴いてみてください。
(私の動画ではなく、Youtubeからピックアップしたものです。)
少し技術的な情報を説明しておきますと、スーパーファミコンの最大同時発音数は8音です。
効果音も枠を1音使いますので、BGMを欠損させないようにするためには7音に収める必要があります。
前身のファミコンは効果音含めて4音が限界で、かつチャンネルごとに出せる波形(≒音色)が固定されていたため、非常に厳しい制約が課されていました。
ファイナルファンタジー3まではこの制約下で数々の素晴らしい楽曲を生み出していますが、それはまた別の話。
スーパーファミコンになって最大発音数が8に増え、さらにその8音の音色にも自由なサンプリング音を使えるようになったので(とはいえスーパーファミコンの音色データの容量もかなり厳しかったのですが)、普通に考えれば、作曲者としてはファミコン時代より格段に向上スーファミのサウンド性能をできるだけフルで活かしたかったはずです。
また自分も少しDTMをやっていたのでわかるのですが、少ないトラック数で曲を作るのは勇気が要ります。
音が少ないと貧相に聴こえてしまうのではないかという不安や、せっかく増やせるのなら増やしたほうがプラスになるのではないかという誘惑に苛まれるためです。
もちろん、後半ストリングスが入って盛り上げるシーンのためにメリハリをつけているというのはあります。
ただ、ストリングスも4トラック(バイオリンx2・ビオラ・チェロの弦楽4重奏のようなイメージ)なので、もう1トラックは増やしても問題ないはずでした。
作曲センスに相当の自信がないと、これはできないことだと思います。
トリッキーでなく、歌いやすいメロディ
もう一度先ほどの楽譜を見ていただくとわかるのですが、最高音は五線譜の最上段に収まる「ミ」の音、最低音はその1オクターブ+全音1つ分下がった「レ」の音です。つまり音域は狭めに作られています。
また、音がトリッキーに跳躍したり転調する箇所もありませんし、テンポも遅い楽曲なのでリズムが早すぎて歌えないような箇所も全くありません。
つまり「愛のテーマ」のメロディはかなり歌いやすいものになっています。
歌いやすいメロディ=良いメロディ、というわけでは必ずしもないかもしれませんが、口ずさむことで感情移入しやすくなるので、「歌いやすい=印象に残りやすい」のは確かだと思います。
なお、小学生の音楽の教科書に掲載されている用途の1つとして、「愛のテーマ」はリコーダーの練習曲になっているそうです。
リコーダーの出しやすい音域は人が歌いやすい音域とおおむね一致しているいるため、歌いやすい≒リコーダーでも比較的吹きやすいということ、また前述のようにハ長調の曲なので#や♭に苦しめられずに済むこと、も教科書への採用を後押しした要因だろうと考えます。
(こちらはXで検索して見つけたポストですが、実際の教科書の写真のようです。)
簡単なまとめ
まとめるとこういうことになります。
コード進行に凝らなくても良い曲は作れる(もちろん調性も重要ではない)
メロディと伴奏アルペジオの2音でも良い曲は作れる
音源の質すら必ずしも重要ではない(スーファミ音源は現代のDTM環境の音源と比べれば極めて低品質)
一方で「わかりやすく歌いやすいメロディ」は非常に重要
もちろん、逆方向の主張(「良い曲のコード進行は必ずシンプル」など)は成り立ちません。
あくまで「愛のテーマ」は飾りのない真っ向勝負でも名曲が作れることを証明した、という話です。
まるで、作中でカインがいかに真横で苦悶する姿を見せようが脇目も振らずにセシルに愛をぶつけるローザの姿をそのまま作曲のスタンスに反映したかのように。
でももうちょっとカインのこと考えてあげてもいいんじゃない、ローザさん・・(と多くの人が思ったはず)
おまけ
本記事の主題としてはここまでで、以下おまけ(宣伝)です。
FF4はスーファミですが自分は8ビット音楽オタクなので、たまにFF4の曲を8ビットアレンジするという遊びをやっています。
なので「愛のテーマ」も打ち込んでみました。Pyxelというレトロゲームエンジンで音を鳴らしており、最大発音数は4音です。(ファミコンに似ているがチャンネルごとに鳴らす音色の制約がない分、自由度は高い。)
オリジナルの音色の印象が強く、なかなか8ビット音色がしっくり来なくて苦戦したのですが、擬似コーラスやディレイなど自分にできるかぎりの技法を使って表現しました。
8ビット音楽が好きな人は時間があったらついでに聴いてやってくださいまし。
あと、最近XでいくつかFF4の楽曲関連のポストをしたらいずれも反応が良かったです。
特に赤い翼のトリックの話は3,000近くもいいねがついてびっくりしています・・
やっぱりFF4の音楽大好き!という方が多いのだなあと実感しました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?