【映画批評】ブルーベルベット(にみる、人間の表と裏•光と影•公と秘密)
ワタクシの唐突なコロナ休暇もそろそろオシマイです。いやーのんびりした。自営業者ゆえ損失はン万円にもなりましたが、のんびりを金で買ったと思えばそれでええかな、と。(そう思わないと頭狂いそう)
とはいえ、あまりに暇なので家のDVD棚引っかき回して10本ぐらい映画を観ました。そのうちの3本はディヴィッド•リンチでしたが。
「ロストハイウェイ」みて「マルホランドドライブ」みて「ブルーベルベット」を観ましたけど、リンチ映画は新しいものほどキャッチーで芸術性が高いですけど、比較的古い映画も負けず劣らずでよくできてますね。
とはいえ、初期作品はまだまだリンチもしょっぱい駆け出しニューフェイスで、プロデューサーやスポンサーの意向から自由になれておらず、中途半端な作品も多い。(売れてくるとだんだんやりたい放題できるようになるわけですな。みんな同じです。仕事は全てそうかも)
例外はリンチ映画第一作目の「イレイザーベッド」で、これはリンチ本人がまだ超無名の野良の芸術家の頃に作られた自主制作映画ですので、何から何まで一人で作ってるのでリンチワールド全開です。
上で述べたように商業映画デビュー後はしがらみだらけだったわけですけど、「イレイザーヘッド」と同じぐらいやりたい放題やれてしまったのは今回紹介する「ブルーベルベット」。何故そうなったかなどは端折りますけど、とにかくやりたい放題、好きに作れてしまったらしいです笑 観ればそれが納得できると思いますが笑
現に、イレイザーヘッドの暗くて病んでるが、何が何だかなんとも言えないchill vibeな空気。スローであの世に行く手前で観る夢みたいな、あの変ちくりんな静けさ、独特の行間。癖になる人と寝る人で完全に二分されるあの空気。「ブルーベルベット」でも嫌というほど味わえます。俺も若い頃は最後まで観れなかった。
とは言え、これは一応商業映画なので2時間の尺でストーリーもかなりわかりやすい、そんな普通の映画でもある。なのに、本当不思議な、三途の川渡る前の絶望的な静けさとでも言いましょうか。冥府の手前の雰囲気と言いましょうか。変な映画です。とにかく。
「ツインピークス」の後半の雰囲気がずっと漂ってる映画と評すれば、当たらずとも遠からずでしょう。ストーリーはわかりやすいんですよ。青年が、50年代的アメリカ郊外の田舎町で近所の犯罪を自分で調べ出すというストーリー。そこで出会う謎の美女と不倫セックスに溺れる。きっかけは庭に落ちてた「耳」。これを偶然見つけること。少年は退屈な日常から一挙に幽界めいた非日常へトリップすることになる。
リンチ映画の小道具は全て登場するこの映画、ストーリーは普通なんだが割とリンチ映画の基本に忠実といっても良い感じがする。
無闇に不倫、浮気しまくる登場人物たち。金髪とブルネットの髪を持つ二人のヒロイン、リンチがやたら好んで多用するお馴染みのキャスト(今回は「ツインピークス」クーパー捜査官役で知られるカイル•マクラクランや「インランドエンパイア」の主人公ローラ•ダーン)
リンチは何事にも存在する、物事の裏と表を俯瞰し…いや、つうか「裏」にこそ彼の関心は集中しがちのようである。
その関心の対象は人間だけとは限らず街や社会、我々の住まう世界そのものに及ぶことも。
一見すると穏やかで平和な街…その影で確かに存在し、蠢く幽界の住人たち。這い回る蟲のような、得体の知れない存在。そこに向けられた病的かつ変質的な好奇心。
思うにリンチの映画ではほぼ必ず不倫が描かれているが、不倫ほど人の影の姿を描く営みもあるまい。真っ当なフリしてるけど、みんな不倫してる。してるかできないかの二択のみだ。日本ではほぼ毎週一日数回も不倫を斡旋する合コンが都内各所で開催されているし、既婚者専用マッチングアプリも増え続け大盛況している。不倫はもはや体を鍛える、投資を学ぶのとほぼ同じ、現代人のワークアウトだ。恋愛は人を細胞レベルで若返らせるからね。麻薬みたいなもので一度踏み入れると足を洗えない。
そう考えると不思議である。表向きの真っ当な公の顔と、不倫相手にだけ見せる危険な裏の顔。どちらが人間の本当の姿なのか、どちらも真実だろう。とはいえ、リンチは裏の顔をこそどうやら好んでいるらしい。特殊なセックスの性癖も、「裏」の顔を物語る一要素だ。ドラッグを常用する姿も、総じて言えば犯罪に耽る人間の姿は全て人の「裏」の顔だ。
「裏」ともいうが「秘密」とも言える訳で。「秘密」を暴くことにフェティッシュな執着を持っているのかもしれない。
そんなわけでリンチ映画はだいたい不穏な空気が流れる結果となるが、「ブルーベルベット」は特にデニス•ホッパー演じるフランクという異常者がわかりやすく登場する。
フランクは猛々しい狂人で、行動原理はケダモノそのもの。ある意味わかりやすいんだけど、まあとにかく見てるだけで「この人怖いよー」と涙目になれるタイプの怖い人だ。次何を言い出すのか、何をし出すのか、いついかなる方法でどこを殴られるのか。もうとにかく怖い、この人。ヤバいです。
サイコパスという型にはめた表現も空々しい。主人公少年は年上の女との不倫という怪しい光に魅せられつつ、このフランクに狙われる恐怖とも戦わなければならない。この先どんなに長生きしてもこんな刺激的な毎日は味わえないだろうね。クセになるのはよくわかります。ブロンドのフツーのガールフレンドじゃ満足できないわな。
表の顔で真っ当を演じつつ、刺激を求める人間の欲望が裏の顔を形成する訳だが。理屈はわかるんだけどね。リンチの手にかかると、理屈抜きのアートになってしまうの、本当不思議ですね。
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