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【映画批評】ゴーストランドの惨劇 (Incident in a Ghost Land)

※過去記事の復旧です

パスカル・ロジェの新作。6年ぶりだ。アタマのおかしさでは並ぶものなしのフレンチホラー意欲作である。

あれこれ説明するより好事家のあいだでは、「マーターズ」の監督のシトと言ったほうがわかりやすいだろう。そう、あの変態だ。

「トールマン」は駄作だったがDVDは一度観賞されることをお勧めする。監督本人がインタビューに答える映像が特典として収録されているからだ。目のイったボディランゲージのせわしない、なんか頭おかしい感じのオジサンを見ることができる。本作や「マーターズ」がより不気味に思えるので必見だ。

今回は、何故わざわざこれを横浜は心のふるさと「シネマ ジャックアンドベティ」まで観に行ったのか記憶にないが、最近は映画自体全然観てなくて、多分夏から半年ぶり?たぶんそれぐらい久しぶりだったと思う。

ふっと時間ができて、たまたま近くを通りがかったから観たんだが、個人的にパスカル・ロジェが好きなわけでも何でもない。つうか好きだったらやべえだろう。何度か入院して服薬治療してそうだ。

しかし、「マーターズ」はな〜んか記憶に引っかかる映画で、あの時の嫌な気持ちとゾクゾクしたいや〜なスリルはどこか忘れられないものがあった。久しぶりに観る映画がパスカル・ロジェの新作なら、せめてブログの肥やしにはなるだろう。スターウォーズの同人映画を観るよりは大分マシだろうと、そんな程度の理由である。※

※当時、確かスターウォーズの新作が劇場でやってたんでしょうね。覚えてないけど

「マーターズ」はどこからこの映画の着想を得たのか、なんだか不思議なへんちくりん映画で、「トールマン」も同じく個性的な映画だったが、今回の「ゴーストランドの惨劇」は比較的にわかりやすい「田舎に行ったら襲われた系映画」といえる。ど真ん中「悪魔のいけにえ」の系譜に連なる映画である。

ストーリーは母と姉妹の3人家族が田舎に来たら変態にいきなり襲撃されるという、ただそれだけのお話。

ただ、ネタバレしないように伏せて書こうとすると表現に気を使うのだが、現実と、極限状態の妄想と、「ゴーストランドの惨劇」という名の小説、の三重構造のお話となっており、観客はどれが真実でどれがひっかけの嘘話なのか、だんだんわからなくなっていく。

ただ、この手のメタ構造を持つ映画は、最後まで真と虚がわからないように伏せられたまま映画が終わってしまうことが多いのだが、この映画は中盤付近でビシッと真実はこれなんだよバーカ!そんなうまい話あるわけねーよバーカ!と突きつけてくる。それがあまりに直球なので、観客は「本当か?もう一回ぐらいどんでん返しがあるのでは?」と疑ってかかってしまうのだが、特に何もなし笑。個人的に「サスペリア」みたいな意味わからないことをアイデンティティーにしたお洒落気取り映画は嫌いなんで、正々堂々とオチをつける姿勢はM・ナイト・シャマラン的で好きである。

まーそんなわけで謎解きを楽しむ、というよりは割とフツーな正統派のホラー映画と言える。いろんな映画の影響が随所に感じられ、あ、この監督もやっぱり人の子なのね、と安心できる。この監督の作品の中では一番わかりやすくキャッチーで、ひょっとしたら商業ラインを意識したのかもしれない娯楽映画となっている。(ドーン!と音とか急なカットでビックリなシーンがやたら多いんで、そういう意味でもフツーのホラー映画だ。別にけなしているのではない。これまでの作品に比べるとかなり娯楽性が強いということだ)

とはいえ、「マーターズ」が好きだった人、フレンチホラーのファンはマストだろう。陰惨でねちっこい暴行シーンを楽しむことができる。この監督は大男に少女を監禁させて執拗にど突かせるのがとにかく好きらしい。そういう性癖なのだろう。(しかもこの大男がチューバッカみたいな声で泣くので爆笑)

とはいえ、「マーターズ」ほど暴力描写がくっきりしておらず、ねちっこさも控えめで不快指数はかなり低め。それでいてスピード感があり、アクション性の高い暴力描写となっている。アレクサンドル・アジャみたいだ。フレンチホラーでは割とお馴染みの「悪魔のいけにえ」オマージュも多く収録されており、アートなホラー映画が好きな人には勧められる作品。

物語パートの演出もアートチックで、音楽もマッチしており、オシャンティなフレンチホラーと言えるだろう。ゴス好きなサブカル女子(死語?)などに神格化されそうな映画である。

個人的には今回の二人組の変態はなかなかキャラが立っており、バックグラウンドに興味が湧いた。何をどうしたらあんなに病むの? とても面白かった。

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