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GⅠオークス


序文:マイ・フェア・レディ


映画『マイ・フェア・レディ』をご存じだろうか。1964年に公開された同名ミュージカルの映画化で、米アカデミー賞を8部門受賞。日本でも公開され大ヒットを飛ばした。
物語のあらすじはざっとこうだ。

言語学が専門のヒギンズ教授はひょんなことから、下町生まれの粗野で下品な言葉遣い(コックニー訛り)の花売り娘イライザと出会い、彼女をレディに仕立て上げられるかどうかを巡り友人のピカリング大佐と賭けをすることになる。
教授は初めから義務感でつきあっていたものの、徐々に彼女のことが忘れられなくなっている自分に気づく。一方でイライザは言葉や教養と一緒に、自分の中に女性としての自立心が芽生えていくことを実感していく…。

まだまだ階級社会の文化が色濃く残る、イギリス社交界を舞台に繰り広げられるロマンティック・コメディだ。

今週末はクラシック牝馬2冠目を決めるオークス。
競馬を知らない幼駒だったあの仔がクラシックの大舞台に挑む。それは下町出身の花売り娘が、ついには紳士淑女の社交場へと臨む姿と重なり、私たちは教授のように知らず知らずのうちに彼女へ恋心を抱くようになっている。オークスとは私たち競馬ファンの保護欲をそそり、承認欲求を満たさんとする、なんとも心憎いレースである。

さて今回で85回を迎える伝統のオークス。その過去出走した馬の中からある一頭に目が留まった。

ハギノトップレディ
生涯成績11戦7勝、牝馬にあって抜群の逃げ足。
美しく駆ける姿は、さながら銀幕の大女優のようだった。

ハギノトップレディは1977年北海道浦河町で生まれた。生産牧場は荻伏牧場。当時名馬シンザンを育成した牧場として知られており、90年代には生産牧場の中では十指に数えられた。彼女には2歳下の弟がいて名前はハギノカムイオー。この2頭は荻伏牧場が有していたイットーの仔であり、この馬を中興の祖とする血統は、当時ベストセラーになっていた山崎豊子の小説になぞられ「華麗なる一族」と呼ばれていた。トップレディは79年、衝撃のデビューを果たす。函館競馬場の新馬戦1000m、スタートから先頭に立つとそのまま後続を2秒以上引き離し、57秒2の日本レコードを記録。函館競馬場の現2歳馬の記録としては、40年以上経過した現在でもいまだ破られていない。イットーはとんでもない馬を産んだと話題になったが、ハギノトップレディはこの後脚を痛めて休養入り、半年ほど休むことになった。

1980年3月下旬、まだ1勝馬にすぎないトップレディは桜花賞指定オープンに出走した。本番の桜花賞までは2週間しかなかった。不良馬場で行われたこの競走でハギノトップレディは3着に逃げ粘り、桜花賞への出走権を確保した。2週間後の桜花賞は、わずか2戦1勝のキャリアしかないものの2番人気になった。1番人気はハギノトップレディ不在の間に勝ちを重ね、最優秀2歳牝馬に選ばれていたラフオンテース。小柄な馬体に勝負根性を兼ね備え”根性娘”と呼ばれた彼女は、トップレディとは対照的なライバルだった。トップレディはスタートから先頭を奪うと、このレースでも逃げを敢行。直線で一瞬捕まりそうになったが、後続を再度突き放し、一度も先頭を譲らずゴールまで駆け抜けた。キャリア3戦目での桜花賞優勝は1948年のハマカゼ以来32年ぶりの2頭目であり、2020年3冠牝馬デアリングタクトまで40年間現れることはなかった。そしてこの勝利は「華麗なる一族」にとって初の桜花賞制覇となり、ハギノトップレディはその名の通りトップ女優のような不動の人気を確立したのだった。漆黒の馬体に白い流星の入った外見も、多くのファンを引き付けていた。

ところが迎えたオークスでは不良馬場に見舞われ自慢の逃げ足が沈黙。17着の大敗となってしまった。距離の壁があるとも、急速なローテーションが響いたとも、様々に囁かれていた。それでも夏の休養を経て秋の戦列に復帰すると、緒戦のオープンマイル戦のレコード勝ちを皮切りに4連勝。全て逃げ切りだった。中でも11月のエリザベス女王杯は八大競走にこそ含まれないものの、事実上は牝馬による三冠最後の一戦として定着しており、オークス馬ケイキロクほか20頭が集まった大レースだった。2400mの距離を不安視されていたトップレディは3番人気。このレースではいつものように先頭に立ったが、それまでとは異なるゆっくりとしたペースで逃げ、桜花賞を再現するかの様に二の足を使い、タケノハッピーを抑えて逃げ切った。ハギノトップレディはこの年の最優秀4歳牝馬に選ばれた。春には「イットーの子」と呼ばれていた彼女だったが、この頃にはイットーが「ハギノトップレディの母」と呼ばれるようになっていた。

翌年になると海外への挑戦の話が持ち上がったが、始動戦となった宝塚記念の惨敗により立ち消えてしまった。しかし次走の高松宮杯で逃げ切ると、函館の舞台で行われたOPの巴賞に勝利。このレースは史上ただ1頭のみトップレディのハナを奪った馬、ブロケードとの激戦となった。このマッチレースはあのテンポイントとトウショウボーイが競り合った伝説の有馬記念に並ぶ名勝負として称賛された。競馬ライターの江面弘也氏は、2008年のウォッカとダイワスカーレットの死闘以上、「牝馬による史上最高のマッチレース」として激賞している。

81年10月、ハギノトップレディ11戦目の毎日王冠。史上稀にみるハイペースとなったこのレースに8着に敗れると、これを最後にあっさりと引退。引き際もまた大女優のような潔さだった。11月の引退式の後、繁殖入りしすぐさま英国へと渡る。英国競馬エプソムを制した名馬グランディと交配するためだった。帰国後、出産した仔は「華麗なる一族」の跡継ぎとしてその良血を期待されていたが、育成中の事故により命を落としてしまった。一族の家系に陰りが見えはじめた83年、トップレディは新たに一頭の牝馬を生んだ。
その馬の名はダイイチルビー。
「天馬」と称されたトウショウボーイとの間に授かった仔だった。ダイイチルビーは生まれつき奇形の蹄を持ち、とても競走馬にはなれないと言われていたが、「牝馬作りの名人」といわれた伊藤雄二調教師に手掛けられ、武豊・河内洋の師弟の騎乗により、牡馬たちをなぎ倒し「輝けるお嬢様」と呼ばれることになるが…。その話はまたの機会にしたい。

あれから長い時が流れた。かつての牧場もその血統も今は廃れ、昔話となってしまった。それでも舞台装置としての牝馬クラシックは今もなお多くの名牝を後世へと送り出し、ドラマを生み続けている。今年のオークスにも個性的な顔ぶれが揃った。まだあどけなさの残る若き乙女たち。その中に思わず放っておけなくなるような、自然と見守りたくなるような、そんなあなただけの『マイ・フェア・レディ』は見つかっただろうか。勝ち負けではない、自らの射幸心を失ってまで声援を送りたくなるような馬に出会えたなら、あなたは幸せ者だ。

なぜなら、競走馬を本当の一流に育て上げるのは調教師でも騎手でも馬主でもないからだ。私たちファンの声援、それこそがサラブレットをサラブレットたらしめるのだ。私はそう思う。
昨年のオークス、勝利騎手となった男は自身の勝利を祝うよりも先に、彼女に優しく声をかけた「これが東京ですよ。お嬢さん」と。
あの時彼女を迎えた万雷の拍手と歓声。あれこそが花売りの娘を淑女へと変えた瞬間だったのではないだろうか。

そんなことを考えていると、ふとあの名画の劇中のセリフを思い出した…。

レディと花売りの違い、

それは ”どう振る舞うかではなく、どう扱われるか” です。

「優秀牝馬・オークス、まもなく出走です」

ハギノトップレディは2003年
ダイイチルビーは2007年に没、R.I.P
荻伏牧場は96年成績低迷により解散。
現在は「YGGホースクラブ」と呼称を
改め続いている…。

はじめに

お疲れ様です。今週も早いもので、もうnote掲載の日になってしまいました。一週間短すぎます、マジで。
日々のタスクをこなしながら作成しているため、かなりの急ピッチですが、それでも読んでくださる方々がいるので頑張ることができます。ご一読いただき改めてありがとうございます。
今回はかなり昔のお話「華麗なる一族」の牝馬を取り上げてみました。自分の生年より前の出来事ですが、調べてみると奥深く、素晴らしいドラマを私自身知ることが出来ました。最後の方に書いたダイイチルビーの物語もまた、涙なしには語れないものであり、改めて書いてみたいなとも思いました。
さてここからは週末に控えたオークスの攻略です。先日のVMは大荒れとなりましたが、今週はどうでしょう。いつも通りの展望と、過去10年データ、そして推奨馬の紹介となります。最後までどうかお付き合いください。


オークスは「乗りやすさ」を重視?
今年の「お嬢さん」候補を探せ!

そんなわけで今週は優駿牝馬・オークスが開催されます。今回の予想の要訣を語るに際して、まずは昔ネットで読んだインタビュー記事を一部抜粋という形で転載させていただきたいと思います。今から13年前、2011年「UMAJIN」における福永祐一騎手(現調教師)のオークス開催直前インタビューです。この頃の福永騎手はシーザリオはじめ、直近でオークス3勝を挙げており、「オークスなら福永」として取り上げられていました。
少し長くなりますが、大変興味深い記事になっています。


過去、祐一騎手がオークスを勝ったローブデコルテやダイワエルシエーロは、レース前には距離不安が伝えられていました。さらに距離が長くなるオークスで、血統面での不安はなかった?
「そこがオークスというレースの特徴だと思うんですけど、距離はスタミナ面で補うのではなくて、乗りやすさでカバーできるんです。オークスというか、この時期の牝馬と言ったほうが表現としては適切かもしれませんね。まだ身体もできていないので、乗りやすい馬であれば、2400m以下のレースはごまかすことができるんじゃないかと思っています」

距離を伸ばしていくよりも、やはり新馬から長い距離を使ってきたほうが有利?
「そんなことはないと思いますよ。どの陣営も最初は桜花賞を目指しますので、一概に有利とはいえないですね。最初からオークスを目指しても、そこを勝てる保証はないですし。これまでを見ても、フローラSを使ってきた馬よりも桜花賞組が好走していますしね」

祐一騎手が感じるこれまでのオークス馬の共通項は?
「やはり『乗りやすさ』でしょうね。3頭とも競馬では乗りやすかったですからね。要は折り合いなんです。古馬になって身体が完成されてくると、距離適性というのが出てくるんです。ただ、オークスの時点ではまだ身体ができていないので、だから(多少の距離延長でも)ごまかせる。引っかかる馬だとごまかせないけど、乗りやすい馬、折り合いのつく馬なら(距離延長を)カバーできるんです。『ごまかせる』と言ったのは、そういう意味なんですよ」

参照元
https://uma-jin.net/sp/column/columnDetail.do?charaId=52&pcId=100138


この点こそが、オークス攻略を紐解くカギになるのではないかと以前より考えておりました。流石、福永さんです。そして森タイツです笑
NHKマイルカップ予想の際には、3歳春時点で「よりマイラーとして完成された馬」が理想であるとして『早熟性』というテーマを掲げましたが、今回のオークスでは福永現調教師が言った通り、馬体が完成される以前に行われる牝馬の中長距離戦です。特異な東京2400mに対する距離やコース適正をこの時期に論じてもあまり意味がありません。「乗りやすさ」という観点から予想を立てるのであれば、操縦性に支障をきたす気性難の馬、精神的に幼く折り合いを欠く馬は割り引きたいです。また操縦性が高く騎手と手があっている馬という点から、できればテン乗りよりも継続騎乗で臨戦過程を踏んでいる馬を評価することも大切だと思います。血統的な優位性や現時点での持久力(スタミナ)等、予想のポイントを絞らず、シンプルに「素質の高い馬」という漠然とした選別でOKでしょう。穴決着が少なく、人気のある馬の連対率が高いことがその裏付けになっています。

昨年勝利した川田将雅騎手はリバティアイランド号のことを「お嬢さん」と呼びましたが、言い得て妙だと思いました。我々は今年も気難しい「じゃじゃ馬」ではなく、聞き分けが良く品のある「お嬢さん」を探せばいいわけですから。笑

以上の前置きを踏まえたまま以下、勝利条件と推奨馬を掲載させていただきました。過去10年からなる好走データもいつも通りです。


樫の冠奪取のための必須条件5箇条

キャリア6戦以内の馬

過去10年で全頭に該当しています。少ないキャリアで結果を残しここまで辿りついたことが肝要です。NHKマイルの時とは逆で2歳の早期のデビューから使われてきた馬の上がり目は少ないでしょう。今回出走予定の馬はほぼこの条件を満たしてくると思いますが、一頭スウィープフィートだけが7戦のキャリアをこなしています。人気どころになると思いますが、危険性は高いと思われます。

上がり3ハロン最速での勝利経験

東京芝2400mは3歳牝馬にとっては長丁場の一戦。直線の長いコースで毎年差し馬が台頭します。末脚の切れ味が勝負の分かれ目になりやすく、近年優勝した馬は皆、当日の上がりタイムが3位以内に入っていました。33秒~34秒前半の上がりを繰り出せる馬を見つける必要があります。出走馬の過去3F上りタイムに注目してみましょう。

前走で4角7番手以下の競馬

繰り返しになりますがここ数年は差し決着が多いです。従って前目につける競馬を経験してきた馬では勝ち目は薄いでしょう。近年の有力馬の中では21年ソダシが1人気から敗戦、22年アートハウス、20年クラヴァシュドールら人気の先行勢は皆下位に沈んでいます。前走までで後方から差せる競馬を習熟して来た馬を選定したいです。

前走桜花賞3着以内もしくは忘れな草賞1着

過去10年で9頭がこれに該当します。非該当馬は21年フローラS3着のユーバーレーベンのみです。この時の桜花賞1着馬で当日1人気だった馬はソダシで、先行脚質がゆえに敗退しました。また忘れな草賞1着からオークスを制した馬は2頭いて、19年ラヴズオンリーユーと15年のミッキークイーンです。ラヴズオンリーユーは1人気からの差し切り勝ち。ミッキークイーンは3人気からの勝利で1人気はルージュバックでした。ルージュは桜花賞では10着に敗退していました。オークス当日1人気であっても、桜花賞を先行脚質で勝った馬だとオークスでは惨敗。また当日1人気であっても、桜花賞で期待を大きく裏切った場合はやはり惨敗ということになります。
今年の1人気はステレンボッシュ。桜花賞2人気から1着、脚質は差し追い込み、当日人気を分け合ったアスコリは不在。データ上の不安は少なそうです。

主戦が継続騎乗

22年のスターズオンアースのみ非該当ですが、基本継続騎乗が有利と見た方がよさそうです。展望でも述べましたが、「乗りやすい馬」が有利という考え方は「乗り慣れてる馬」と言い換えることも出来ると思います。またスターズオンアースの場合は川田騎手からルメール騎手への乗り替りでした。互換性能の高い上位騎手同士でのチェンジでしたら大きな問題はないかもしれませんね。と考えると、モレイラ騎手から戸崎騎手への乗り替りとなったステレンボッシュはどうなるのでしょう。いつもの戸崎騎手なら「やらかし」が先に連想されますが、今年は絶好調です。1人気になるであろうステレンボッシュをこれで割り引くかどうか、馬券購入側の分水嶺になりそうな気がします。

ここまでが勝利への必須条件ですが、この5箇条プラス馬体重の制限を加えておきたいと思います。480㌔を超す馬体は基本割引で考えておきたいです。過去10年で勝ち馬は全て480㌔以下で、馬格がありそうに見えるリバティアイランドも当日は460㌔台でしたね。過去のオークスでは16年シンハライト、15年ミッキークイーンと420~430㌔台の小柄な馬が制した過去もあり、府中の2400m戦では馬格が必須ではないことが分かります。この点から行くと今回有力馬の中で最も小柄なタガノエルピーダは面白そう。また府中への適正自信ありを自負しているクイーンズウォークは、500㌔超で割引対象となります。


過去10年好走データ集

1番人気の成績

1番人気は【6-2-0-2】で8連対で馬券外へ飛んだのは2回のみ。当日は必ず3番人気以内の馬が連対しています。連対した全20頭の内16頭が4番人気以内で、残る4頭は6,7,10,12人気でした。過去7年で4回6番人気以下の馬が2着にきています。1着は人気馬に固定しても、2着以下には人気薄を組み込んでもいいかもしれません。

穴馬は前走勝ち馬に注目

6番人気以下から連対した4頭は全て前哨戦である、フローラS、フラワーC、スイートピーSを勝利した馬でした。前哨戦での勝利をフロック視されている馬を発見したら是非狙ってみたいですね。また2着に入ってきた馬には好位につけた先行馬が多く、勝ち馬は差し・追い込み勢から狙いたいですが、2着馬は好位先行から粘ってくるケースも多いので覚えておきましょう。

やっぱり差し追い込み。逃げ馬はNG

過去10年で逃げ馬による3着内粘り込みはゼロ回でした。やはり差し・追込み脚質が14連対と多く、当日最速上がりを繰り出した馬が7頭優勝しています。もう一度言いますが、各馬の直近における上がりタイムをおさらいして、切れ味の鋭い馬をアタマ候補に据えましょう。

桜花賞組が過去7勝

連対馬のうち12頭が前走桜花賞でした。距離が全く異なるため、疑いたくなる気持ちも芽生えそうになりますが、展望に記した距離適性ではなく乗りやすさ(≒操縦性)でカバー、という主旨の発言をした福永さんを思い出してください。桜花賞で上位に来た馬はやはりここでも有力で、かつ桜花賞で早い上がりを使って馬はさらに有力視したいです。


3歳女王決定戦!その玉座に座るのは?
森タイツ式推奨馬の紹介

樫の女王の座へ、視界良好

前走で桜花賞を制覇。デビューから5戦3勝、連対を外したことのない良血牝馬が王座奪取へ向け視界良好です。
ステレンボッシュは昨年7月の札幌競馬場の新馬戦でデビューしましたが、この時は2番人気。次走中山のサフラン賞に挑んだ際は1人気でしたが2着に敗れました。この時点では翌年春にクラシックGⅠの筆頭候補に上がるとは、夢にも思っていませんでした。同時期に重賞を賑わせていたボンドガール、チェルヴィニアといった牝馬の方が、クラシックへの期待を感じることが出来ていたのが正直な感想です。転機となったのは5番人気で迎えた阪神JFで、ここで絞り込まれた馬体を披露すると上がり最速で2着、一気にクラシック候補へと躍り出てきました。

ステレンボッシュはエピファネイア産駒。当noteでも何度も取り上げてきました。芝の中~長距離、左回りコースでの好走が多く、下級条件からGⅠクラスまで幅広く産駒が活躍しています。オークスに臨むにあたってはデアリングタクトが同舞台を制しており、適性の面では全く問題ないと思います。翻って牝系の血統もまた東京向きで、母父ルーラーシップの血統はスタミナ量豊富、芝2000m以上のコースでは非常に優秀な成績を収めています。その直系であるキセキはジャパンカップの際に2着に逃げ残るなど、東京2400mは抜群に相性が良いと言えるでしょう。今回の出走馬の中では、最も距離延長がプラスに働く一頭だと思います。

桜花賞終了後、人気を分け合ったアスコリピチェーノは、その距離適性の高さから早々にNHKマイルCに出走を表明。牡馬たち相手に堂々の2着に入線しました。アスコリに比べ後肢が長く胴も長い、いかにもな中長距離馬へと育ってきたステレンボッシュは、満を持してクラシック2冠目を狙います。
管理の国枝厩舎は牝馬の育成には以前から定評があり、アーモンドアイら一流の牝馬を手掛けてきました。3歳馬のGⅠ連対数は過去5年で「21」を記録しており、23回を記録する中内田厩舎に次ぎ2位の実績です。
また本馬は過去5戦の内3戦で上がり最速をマークしており、末脚勝負になった際も無類の強さを発揮するでしょう。精神的にも良い意味で成熟しており、折合い面での不安も全くといっていいほど感じません。鞍上はモレイラ騎手から戸崎騎手へと乗り替りになるため、継続騎乗が望ましいという点でデータから外れますが、皐月を制しダービーも期待される今季好調の戸崎騎手であれば、大きな問題はないでしょう。これほどまでにない盤石の布陣で迎えるオークス。ここも通過点に過ぎない、と思わせるような女王の誕生に期待です。

スポットライトを再び

前走桜花賞で7人気からの激走で3着、無名のニューヒロインがスターの階段を駆け上がってきました。
ライトバックは昨年8月に新潟の新馬戦でデビュー。出遅れながらも直線で上がり最速を披露すると、後方から一気に差し切って見せました。この時の上がり3Fタイムは32.8秒、フラットな新潟とはいえ1800m戦でのタイムですから、驚異的としか言い表せません(一般的な新潟1800mでの上りタイム平均は34~35秒前半)。以降の桜花賞まで含む3戦は全てマイルを使っており、中団・後方からの末脚を武器にここまで昇ってきました。なかでもエルフィンS(L戦)ではチューリップ賞勝ち馬でオークスにも出走するスウィープフィートに先着勝利しており、改めてポテンシャルの高さを感じました。

ライトバックはキズナ産駒です。キズナの血統評価についてもまた、幾度となくnoteで取り上げてきたと思いますが、今年は特にその活躍が目立っています。今年の重賞勝利数はすでに「7」を数え、皐月賞ではジャスティンミラノが勝ち上がっており、ダービーも1人気が予想されます。また今回オークスに出走する上位陣の中にも、クイーンズウォーク、タガノエルピーダといった有力馬がいます。東京でのGⅠ制覇はマイルで3勝をあげたソングラインのみですが、広くみれば芝中長距離への適正も窺え、血統的な不安要素は少なく感じます。母インザスポットライトの牝祖にはシンコウエルメスの名前があり、この血統はディーマジェスティやタワーオブロンドンなどを輩出しており、幅広い活躍を見せています。

ライトバックの武器はなんといってもその末脚で、今回勝利への条件で上げた上がり最速勝利を新馬戦で記録しただけでなく、桜花賞の際も4角18番手の最後方から、上がり最速で3着に飛び込んできました。14年桜花賞のハープスターを想起させる走りにも見えましたね。今回距離延長に対する不安の声も多く聞こえますが、広く長い府中の直線におけるこの馬の末脚は、間違いなく強力な決め手になり得ると思います。
大きな不安要素としてはその気難しさでしょう。テンションの上がりやすい性格で、これまで陣営はホライゾネットを着用するなど工夫を凝らしてきました。今回アルテミスS以来の東京コースで、初めてのスタンド前出走になるため、当日の精神状態には十分注視が必要だと思います。また開業5年目を迎える茶木厩舎は未だ重賞での勝利がなく、この大舞台での経験不足が懸念されます。しかしながらここで3戦目を迎える鞍上の坂井瑠星騎手は、今期の若手の中で目覚ましい活躍を見せている一人であり、高松宮記念での勝利や先日のチャーチルダウンズでの大健闘など、日増しに急成長を遂げています。いまだ幼さの残るレディと若きエースのコンビで、女王の座へ一気に上り詰める姿をこの目に焼き付けたいと思います。

タガノ家のご令嬢

前走忘れな草を快勝、牡馬顔負けのプリンセス、タガノエルピーダが虎視眈々と樫の冠を狙っています。
昨年10月京都新馬戦でデビュー、難なくここを勝利すると次走2歳GⅠの朝日杯FSで見せてくれました。16頭の牡馬たちに囲まれるなか、3番手好位につけると、王者・ジャンタルマンタルと最後方一気のエコロヴァルツには差されましたが見事3着に入線。そのポテンシャルの高さをいかんなく発揮しました。一躍脚光を浴び続くチューリップ賞では1人気に支持されましたが、直線で伸びを欠き4着に。しかし前走の忘れな草賞で川田騎手に乗り替わると、きっちりと結果を残し樫の舞台へ出走を決めました。

タガノエルピーダはキズナ産駒。先述のライトバックらと一緒で先に解説させていただきましたが、今年はキズナイヤーといってもいいほど産駒の活躍が目立っています。トップサイアーだったディープインパクトが亡くなりましたが、史上最強とも謳われたその血筋はしっかりとその子孫に受け継がれています。過去5年でのJRA芝2000~2400mにおけるキズナ産駒の出走総数はゆうに1000回を超え、その連対率は20%を超えます。同じ集計方法で数えると連対率20%超えはドゥラメンテ産駒とエピファネイア産駒のみです。
また母のタガノレヴェントンはキングカメハメハ産駒、ディープに劣らない大種牡馬であり、現役時代に東京芝2400m・日本ダービーの舞台を制したことは有名です。この馬も他のキズナ産駒に負けない、非常に高いオークスへの適性を持ち合わせているといえます。

現時点でこの馬を語る上での最も大きなトピックは、やはり朝日杯における激走でしょう。当日はシュトラウスがペースを乱し、差し追込み有利な展開になったにもかかわらず、先行3番手の好位から最後まで粘り抜きました。このファイティングスピリットは牝馬にあってなかなかのものだと思います。それゆえにチューリップ賞の4着は残念でしたが、あの時はハナを切ったセキトバイーストが緩みのないペースを刻み、それについていった結果すこし中途半端な競馬をしてしまった印象でした。オークスは差し追込み馬の活躍が目立つレースということは先に述べた通りで、タガノエルピーダは先行脚質の馬なので展開の面では大きな不安があります。しかし、朝日杯でみせたあの粘り腰を再現出来れば、上位への食い込みも十分に見込めます
鞍上はMデムーロ騎手、団野騎手でのオークスも見たかったですが、この乗り替りは面白いと思います。デムーロ騎手は一時期の不調を脱し、今年はコスモキュランダで弥生賞を制するなど復調をアピールしています。予定通りの先行策か、あるいは予想外の脚質転換でレースを盛り上げてくれる可能性もあります
「エルピーダ」とは希望を意味する言葉。いまだGⅠは未勝利、冠名「タガノ」の新たなる希望になれるかどうか、要注目です。

勝利の鐘を鳴らせ

過去10年フローラS勝利馬のオークス制覇はいません(ユーバーレーベンは同3着から)。この難関ジンクスの突破にアドマイヤベルが挑みます。アドマイヤベルは昨年8月の新潟でデビュー、1800m戦を上がり最速を使って勝利すると、以降3戦は全て東京2000mを戦ってきました。1勝クラスでは3着、2着と足踏みを続けてきましたが、前走フローラSで直線6番手から一気に駆け上がるとライバルたちを抑え待望の重賞制覇を遂げました。

アドマイヤベルはスワーヴリチャード産駒、この産駒についても何度か解説してきましたが、昨年デビューした新種牡馬リーディング1位の実績を誇ります。昨年からの約1年間で産駒の出走数は「297」、そのうち勝利回数「35」で勝率11.8%とかなりの数値を叩き出します。特筆したいのが重賞での実績で、GⅢ以上のレースに27出走しすでに4勝を挙げています。2歳重賞で2勝、3歳重賞で2勝ですが、このアドマイヤベルを含む4頭は全て牝馬です。全体的に優秀ですが、牝馬に限定するとさらに抜きんでている訳ですね。この傾向は今後も覚えてほいた方がよさそう。
また産駒のもう一つの特徴として、関西よりも関東圏において強さを発揮するという点が挙げられます。22勝を関東及び新潟・福島で挙げており、さらに+5勝が夏の北海道なので、中京より西の競馬場では8勝しか挙げていません。大筋から逸れますが、この傾向も今後のために覚えておいた方が良いと思います。

この馬の2~3戦目の1勝クラスは、フローラSと同条件の東京2000mのレースに出走していました。2戦目の百日草特別ではアーバンシック、マーゴットソラーレの有力馬2頭に切れ負け。3戦目のフリージア賞では直線で鋭く脚を伸ばすも、マーシャルポイントに逃げ切れられました。勝った3頭は全て牡馬でした。アーバンシックに関してはダービーへ特別登録されるほどの有力馬です。この力関係を考えると下級条件で足止めを食らっていたのも納得ですし、この2回の敗戦がアドマイヤベルに更なる成長を促したと言えるかもしれません。
さらにもう1点注視したいことがあります。敗けた2戦の上がりタイムを見ると、上り3F33秒台の脚を使って敗けています。純然たる切れ味では有力牡馬たちに敵いませんでした。ところが同条件のフローラSではあがり3F34.1秒で差し切り勝ちを決めています。このことから、瞬発力勝負になった際は他馬に劣るものの、多少時計のかかる持久力と瞬発力が合わさった直線勝負では力を発揮できる、という仮説が立てられます。オークスはいわずもがな東京芝2400mの舞台で、若駒たちにスピードだけでなくその持久力の資質も問う難コースです。直線での消耗戦になった際にはこの馬の長く使える末脚が活きてくる、そんな展開になるかもしれません。
鞍上は横山武史騎手の継続騎乗です。若くして東京コースは良く熟知してますし、前走の勝利でこの馬の特徴は掴んでいるはずです。おそらくは3人気までには入らないと思いますので、馬券妙味を求めるのであれば、彼女のシンデレラストーリーに夢を見るのもまた一興かな、と思います。

おわりに
~その他の馬について、まだあるんかい~

ここまでこの長文、いつも以上に回りくどく書いたこの長い解説を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。そんな人本当にいるのだろうかと思いますが、いつも温かいご支援の声を頂戴し、本当にいるんだなあといつも驚いております笑
いやでも本当に感謝しております。

以上で今回のオークス攻略noteもお開きとなりますが、解説した馬以外にも有力馬がいるのは誰もが知るところ。ちょこっとコメントして終わりにしたいと思います。いやまだ書くんかね。

チェルヴィニア

デビュー当時からその素質を多方面から評価されましたが、アルテミスS後に長期休養。前走桜花賞をぶっつけで出走しましたが、13着と大敗。大きく期待を裏切る格好に…。しかし今回ルメール騎手に鞍上が戻ることで、その信頼も回復しそうです。木村調教師ら陣営側も今回での復調を大きくアピールしています。しかしながら、データ上前走桜花賞大敗の馬は、まず勝てていません。11年前のメイショウマンボが桜花賞10着から当日9人気で優勝、大波乱を演出した過去もありますが、データを重んじる森タイツ式では今回は紐評価に留めています。

クイーンズウォーク

川田将雅騎手騎乗で今回も人気しそうです。クイーンカップの際はその素質の高さを見せましたが桜花賞では8着に敗れました。そもそも陣営側もマイルは不得手であることを公言しており、最初からオークスが目標だったようです。ただ馬格を有しているので、前述した480㌔以内という過去データを超えた500㌔の馬体重で樫の舞台は本当に向いているのかどうか、疑問は残ります。また枠順発表をこの記事を書きながら見ましたが、内枠を引いたことが跳びの大きい巨漢のこの馬には不利に働くのではないかと懸念します。2年連続お嬢さん、とはいかないかな、というのが私の所感です。もし買うのであれば、馬体重減の究極仕上げで出て来て欲しいです。中内田厩舎と川田騎手ですから、その手腕は確かなので。

スウィープフィート

チューリップ賞勝ち馬、武豊騎手騎乗で人気を集めています。チューリップ賞では後方から一気の強い競馬を見せたので、その印象にいまだに引っ張られている方も多そうです。もちろん、あの末脚を再び発揮することが出来れば戴冠候補に挙がるのは当然とも言えますが、気性的に難しい点が気になります。推奨したライトバックも気難しいですが、あの馬は本番になると意外ということを聞いてる感じがするのですが、この馬はなかなかだと思います。
直前の会見では武騎手も「折り合いがつけば」とコメントしてるので、やはりそういうことではないかと勘繰ってしまいますね。またデータ上危険な、7戦以上のレースを消化している点も心配です。同じスワーヴリチャード産駒なら推奨したアドマイヤベルを高く評価したいです。ここも紐どまりの評価にしておきます。

それ以外に気になっている馬

ミアネーロは先週のGⅠ初制覇で勢いに乗る津村騎手に期待が高まります。馬自身も強く、フラワーCの勝利は素直に評価できると思います。ただし一つだけ注意が。ミアネーロは水曜の最終追い切りでラスト10秒9という猛時計を計測していますが、管理の林徹厩舎は追い切りで時計を出すタイプの調教師です。マジです。気になる方は昨年のバトルボーン、アナザーリリックの追い切りをチェックしてみてください。直前では自信のコメント&期待度も、本番になると…あ、あれ?とういことも結構あるので。個人的にこの厩舎で高く評価してきたのは、昨年引退したソングラインだけです。なんか悪口みたいになってきたので、やめておきます笑
買えない馬だとも思っていないので、一考の余地は全然あると思います。

もう一頭、超惑星枠でエセルフリーダを挙げておきます。おそらく当日の単勝オッズは50倍を超えるでしょうが、面白いと思います。過去4戦すべて2000mを使われていて、上がり最速を2回計測しています。武藤厩舎に武藤騎手の親子タッグで挑んできますが、いかにも大穴候補という感じです笑
キタサンブラック産駒で、東京コースへの適正も悪くないと思います。

(先週は外れてしまいましたが)当noteでは(ちょっとだけですが)テンハッピーローズを推奨していました。
今回もまあ当然保証の限りではありませんが、ここで挙げている穴馬を紐候補にするか、複勝100円買うくらいなら大して害もないし、面白いと思いますよ笑

それでは本当にここまでにします。最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。来週はいよいよ日本ダービーです!
良き競馬ライフが訪れることをご祈念申し上げます!!明日も仕事や!
ではまた…。


今回参考にさせていただいたサイト


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