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【最終回】アメリカの”SaaSだらけの世界”とは?SaaStr2022で学んだグローバルトレンド

2022年9月にアメリカ・サンフランシスコにて開催されたSaaStr 2022。世界中から、B2B SaaS(ビジネス向けSaaS)を展開する企業が集まって交流しました。

第1弾では「SaaS成功のキーワードであるユーザフィードバック」、第2弾では「プロダクト開発におけるプロダクトマネージャーの役割とプロダクトデザイン」をご紹介しました。
最終回であるこの記事では、B2B SaaSのグローバルトレンド対談形式でのSaaStr振り返りをお送りします!

SaaS for SaaS

グローバルでは、すでにB2B SaaSの市場規模は4950億ドルとなっています。中小企業白書によれば、起業活動の活発さを表す指標も、日本が5%前後なのに対して、アメリカでは15%前後あり(SaaSサービスに限りませんが)起業しやすい環境にあるようです。

freeeは「オープンプラットフォーム」として、ユーザーの会計データなどをユーザー自身が自由に他のサービスで使えるように、2013年からAPIを提供しています。

このfreeeのオープンAPIを使えば、例えばこんなことができちゃいます。

  • ユーザーがfreee会計を他の経費精算システムやグループウェアなどの他のクラウドサービスに連携

  • 打刻したデータをfreee人事労務にインプット

  • 乗り換えが難しい基幹システムはそのままに、従業員が利用する会計や人事労務部分だけfreeeを使う

ユーザーが好きなサービスを自由に組み合わせて使って、バックオフィスを最適化してほしいという思いから、開発者のサポートや連携アプリの拡充に取り組んでいます。freeeの競合サービスとも連携できちゃうなんて、面白い世界観ですよね。

freeeアプリストアに掲載されているサービスのアイコンが並んでいる。
2022年7月末時点では、freeeアプリストアへの掲載数は148件

これは、日本ではまだ珍しい「APIエコノミー形成」を目指したfreeeの取組みですが、アメリカではもはや当たり前。

SaaStrの会場は、ただプレゼンテーションを聞く場ではなく、協業のマッチングやVCとのmeet upなど、自社サービスを成長させるためにどのSaaS企業と組むのがよいのかを模索する場になっていました。

過去の記事で紹介した「ユーザーフィードバックを1時間でプロダクトに反映する」という開発文化も、プロダクトの利用状況や定性情報を可視化するSaaSサービスと接続して分析できる基盤があってこそ実行できるものだと感じます。

つまり、アメリカでは、APIエコノミーによって、SaaSのためのSaaSサービスが数多く提供され、お互いにWin-Winの関係でユーザー価値を高めていると言えそうです。


SaaS vs. SaaS

日本では、会計ソフトに占めるクラウドの浸透率はどれくらいだと思いますか?

実は、まだ30%に届いていません。日本においては、クラウド会計SaaSの最大の競合は「他のSaaS」ではなく、「紙やワープロソフトやオンプレミスのサービス、またはBPOサービス(人力)」と言えるかもしれません。

日本(25.2%)、イギリス(48.5%)、アメリカ(51.2%)、オーストラリア(75.0%)、ニュージーランド(84.1%)
スモールビジネスが利用する会計ソフトに占めるクラウド浸透率(International Data Corporation(IDC)「Worldwide Public Cloud Services Spending Guide Software Add On: V2 2021」。従業員1000人未満の法人又は個人事業主におけるクラウド会計ソフトウェアの浸透率として、クラウド会計ソフトウェア市場規模を会計ソフトウェア市場規模で除して算出)

一方で、アメリカなどグローバルでみると、SaaSの競合はSaaSのようです。たくさんSaaSサービスがあるのだから当たり前だと思うかもしれませんが、初めてSaaStrに参加したfreeeのメンバーは、新興SaaS vs. 既存SaaSの激しさにびっくり…!

あからさまな比較広告はもちろん、デモブースで出展者と意見交換をすると、
「競合SaaSでは〇〇ができないんだけど、わが社の特徴は△△で…」
と、必ず自社の差別化要素を紹介されます。

これは、日本の商談でも同じ面はあると思いますが、その差別化要素が細かいんです。

「競合SaaSでは、UIがかわいくないんだけど、わが社はかわいい」
(た、たしかにかわいい… これは業務が楽しくなりそうだな)

「競合SaaSでは、パーソナライズ設定ができないんだけど、わが社は好きにカスタムできる」
(toCだけでなく、toBでもパーソナライズの時代なんだな)

「競合SaaSでは、サブスク料金で一定課金されるんだけど、わが社は使った分だけ」
(価格での差別化は、後から出るサービスやりやすそうだし、わかりやすいな)

などなど。

SaaSのエコシステムが育成されてくると、「SaaSだらけの中で、既存SaaSと比べてどう自社の優位性を確立するか」を常に探求しているのだと思います。
そして、SaaSの領域によっては、ある程度コモディティ化してくると、各社のMissonやVisionに基づいた細部にこそ違いが出てくるものなのかもしれません。

SaaStrでは、SaaS間の「協業」と「競争」の中で、ユーザ価値を最速で高めるために、誰とどう組んで、どう尖った差別化をしていくかの戦略を練りながら、切磋琢磨が行われていることを実感しました。


***

SaaStr Annual 2022 振り返り

最後に、SaaStr Annual 2022の総括を、参加した小泉・内木の対談形式でお送りします。

左:内木美里(プロダクト企画職)
右:小泉美果(プロダクトマネージャー/金融渉外部長)

SaaStrお疲れ様でした!率直にどうでした?

小泉:楽しかったですね!実際に現地に行ったからこそ得られた情報がたくさんありましたね。

内木:本当にそうですね!アメリカのSaaS業界の規模感と、スピーカーや参加者の熱量に圧倒されました。やっぱり、日本のスピード感とはちょっと違うなと。


1番印象に残ったセッションは?

小泉:HashiCorpのCEOが「会社づくりにおけるメカニズム構築」について話すセッションがめちゃくちゃおもしろかったです。

MicrosoftやGitHubなどでも勤務経験のあるCEOが、会社づくりの極意について再現可能なフレームワークとして教えてくれて、「おぉ、言われてみれば確かに・・」という、じわじわとした興奮がありました。

ざっくりいうと、

  • 企業の成長フェーズによって当てはめるセオリーを選ぶこと

  • インプットとアウトプットの間に、うまくワークするためのメカニズムを構築すること(これは大抵のリーダーが苦手だけど、超重要なこと)

  • 企業を動かす4つの計画(財務・人材採用・プロダクト開発・Go To Market)のつくり方

  • 役職に応じて意識すべき時間軸の概念(CEOなら3年、リーダーは1年半、マネージャーは1年)

です。
現地でのプレゼン動画が公開されているので、B2B SaaSに取り組むリーダーの方にぜひぜひ観てほしいです!

内木:私はAtlassianの”How to scale a platform and ecosystem to $10B with Atlassian’s CRO”というセッションですね。こちらもYouTubeで公開されています。

SaaS for SaaSの世界観をつくるための戦略部分について、「自分たちで全てはつくらず、整合性を意識しながら他者に委ねる」ということを話していて、目から鱗でした。

例えば、プラグイン開発の仕組みをつくり、一般向けに開放し、ユーザー同士でフィードバックを解決できるようになった事例が紹介されていました。

APIやユーザーコミュニティなどでやるべきところを決めて、集中すべきところにリソースを割き、開発スピードを高める。その結果、顧客により速く価値を届けることができる。

事業会社にいると、どうしても「自分たちでつくること」に目が向きがちですが、「どこは自分たちでやるべきで、どこは他者に委ねるべきなのか」という考え方は、心に留めておきたいです。


SaaStrイベント全般で印象に残っていることは?

小泉:今年は99か国から参加者が集まったそう。そして289人のSpeakerのうち、52%が女性であった、ということ。

内木:確かに、現地でも「女性のCxOが多いな、英語が母国語ではない方もたくさん登壇しているな」と感じました。

小泉:現地で意見交換したところでは、アメリカのSaaS業界でもまだ女性のCxOはそこまでは多くないそうなので、あえて各社の代表者として登壇しているんだなと。

SaaStrの開幕セッションも「The Diversity, Inclusion & Equality」がテーマだったので、もしかしたら「SaaS企業が社会を変えていくんだ」という主催者の想いがあるのかもと思い、かっこいいなーと。

内木:かっこいいですね…!

あとは、スポンサー企業が出店しているブースが楽しくて、印象に残っています。製品のデモをみたり、話を聞いたりするだけじゃなく、プレゼントがもらえたり。

小泉:freeeでいう「たのしさスパイス」というか、各社の色が出てましたよね!

1番パンチがきいてたのは、エアブラシアーティストがその場でパーカーや帽子に好きな言葉を書いてくれるというおまけ。世界30か国以上で法人カードを提供しているPayhawkが提供していて、私もつい列に並んで、
「コアエンジン」(freeeのデータアグリゲーション基盤のチーム名)
って書いてもらっちゃいましたw

Core Engineと書かれたキャップ
キャップやTシャツにペイントしてくれるブースの様子。賑わっている。

内木:このブース、大人気でしたよね。私もセッションの合間に挽き立てのコーヒーを貰えるブースに行くのが、密かに楽しみでした!


今後SaaStrに参加する人へ

旅の準備

小泉:9月のサンフランシスコ、寒かったですね。

内木:はい、サンフランシスコは昼夜の寒暖差が大きかったですね。昼間は日差しが強く、半袖でも快適に過ごせますが、夜は9月でもダウンが必要なくらい冷え込みました。

小泉:準備といえば、今年は数年ぶりのオフライン開催ということで、SaaStrイベント会場への入場には、ワクチン接種証明書と陰性証明書が必要でしたね。

内木:来年は、なくなっているといいですね…

あとは、8つのステージでいくつものセッションが同時並行で行われているので、事前に聞きたいセッションの目星をつけておくことをお勧めします!


オンラインでもオフラインでも

内木:メインステージでのセッションのほとんどは、後からSaaStr公式YouTubeにて公開されました。情報収集が主目的であれば、YouTubeで観るのも一手ですね。字幕も出ますし。ただ、来年以降も公開されるかはわかりませんが…

小泉:私たちも含めてオーディエンスは、プレゼン中のスライドを一生懸命撮影してたけど、後からスライドも公開されましたねw

小泉:個人的には、YouTube非公開の少人数セッションでこそ発見が多かったり、会場内でSpeakerを捕まえて質問できたりもしたので、オフラインで参加したからこそ得られた学びはありましたね。

内木:あとは、オフライン参加だと、夕方16時くらいにはセッションや出展ブースは終わり、DJが出てきていましたw
参加者同士が交流するカクテルアワーがあったりと、この辺も日本とだいぶ雰囲気が違いました。

小泉:ですね。現地でSaaStrに参加しているSaaSを提供するスモールビジネスの経営者との会話も楽しかった!
「このSaaStrの混雑を解消するアプリを開発したら、すぐにVCから資金調達できるのでは?」
なんて冗談を言いながら、
「今日のセキュリティSaaSのセッションでこういう話があったけど、実際シリコンバレーではどうなの?」
と、現場の経営者の感覚を、直接聞けるのもオフラインならではでした。


これからのSaaSコミュニティ

小泉:内木さんは、さっそくSaaStrでの学び「1時間でユーザーフィードバックをプロダクトに反映」を開発合宿でトライしてたよね?

内木:はい。Stripeのセッションで出てきた「ユーザーフィードバック、本当に1時間で1つ直す」という話について、本当にできるのかのアンサーソングをつくってみようというプロジェクトです。

エンジニア・デザイナー・PMのみならず、サクセス・サポートのメンバーも一緒に取り組みました。結果、1時間でサクッと直せたものは1つ、2日間強で6つがデプロイ。Stripeにはちょっと敵いませんでしたが、SaaStrでやればできるんだと思えたことは大きかったです!

小泉:SaaStrで学んだ内容は、freeeのプロダクト開発に活かすのはもちろんだけど、SaaSのエコシステムを育てていくために、日本のSaaSコミュニティにもどんどん還元していきたいですね!

***

おまけ

弾丸出張のスキマ時間で爆速観光してきた際の、サンフランシスコの写真をお裾分けします。

Golden Gate Bridgeがライトアップされている。
日没の夕日に間に合わなかったGolden Gate Bridge
The Palace of Fine Artsがライトアップされている。幻想的。
The Palace of Fine Arts


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3回に渡り、読んでいただき、ありがとうございました!
過去の分はこちらからご覧いただけます。


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