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不可解な夢

 最近よく不可解な夢を見る。夢には深層心理が反映されて自分の潜在的な願望が表出するというような通説があるけれど、洞窟に顔見知りでもないオッサンと一緒に閉じ込められたりとか、スーパー銭湯の施設内にトイレがなかったから代わりに何故か備え付けてある空のペットボトルで用を足したりとか、そんな奇怪な夢を見る度に僕はその通説に異を唱えたくなる。

 そんな訳で今日もまた夢を見たのだが、これもやはり異質な夢だった。僕は土木作業員として働いており、屋外の工事現場みたいな場所で長細い謎の石を運ぶ作業をする場面にいた。しかもこの石がなぜか若干発火している。この時点でだいぶ意味不明だが、僕の上司っぽいメガネの中年男性がこのやや発火している石を運んでおり、その謎の石を別の場所(夢だから不明瞭な部分が多く、別の場所がどこかと聞かれると困るのだが)へ運び終わると僕に向かって大声で「オイ、それ早く運べ!」と怒鳴ってくる。
 とりあえずわけもわからぬまま石を運ぼうとするが、いかんせん発火しているため持つのを躊躇する。というか発火している石を運ぶなんてそもそも無理な話である。それも何のためにやっているのか意味が分からない。よっぽど理不尽な体質のブラック企業だって、何か理由があるから社員に負荷をかけるような行動を強要してくるのであって、今回のように理由もわからぬまま意味不明な行動を取らせようとしてくる企業はブラック云々以前にこの世界に存在してはいけない。
 僕がしかめ面でその場で立ち尽くしているとやがてその夢の中限定即席メガネ上司がこちらに向かって「オイ何やってんだ!取っ手ついてんだからそこ持ってこっち運べ!」と怒鳴ってくる。は、取っ手?と思って謎石を見てみるといつのまにかグリップできる取っ手が出現している。
 「そこ持てば熱くねーからよォ!」と言ってくるメガネの言葉を受けて、半信半疑ながら取っ手を持ってみるとその長細い石の前方が発火している割には熱くなく、むしろひんやりと感じられた。なんだかよくわからないなぁ、と思ったところで目が覚めた。

 夢から現実に戻って真っ先に思ったことは「ああ、あんな職場で働いてなくてよかった」ということである。幸い理不尽で不可解な強要をしてくる上司もいないし、夢の中でいた職場環境に比べたら自分の今の職場はだいぶ優しい方である。気付くと自然と涙が出ていた。今の環境、現状の職場に不安や不満を覚えどこか後ろ向きでいた自分が高望みをしすぎていたんじゃないかということや、今まで当たり前だと思ってきた施しみたいなものが決して当たり前ではなかったこととか、長細い謎の熱い石を運ぶことを強要してくるような人間性とは真逆の性格の人たちが職場にいてくれることへの感謝とか、雑多な感情が混じり合ってふいに涙腺が緩んだのだろう。

 普段なら夢を見て泣くことなんかないし、現実でも涙を流すことなんてほとんどないんだけど、最近になってなんだか感受性のようなものがおかしくなってきた。なんでもないようなことで心が動いたり、逆に普通ならショッキングな出来事が起きた時に心が動かなかったり、もしかしたら精神的に異常をきたしているのかもしれない。
 故にトイレが存在しないスーパー銭湯内で空のペットボトルに用を足したり洞窟で知らんオッサンの与太話を聞かされたりすることになるのだ。は~やれやれ。



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