まゆげとの対話

はて、眉が整っている生活というのは少し奇妙なものである。顔の中の一つのパーツに過ぎないのに、その形がほんの数ミリ変わっただけで、なんとも落ち着かず自分の性格まで変わったような気分になる。

駅で道を聞かれれば、綺麗なお姉さんに見えたから声をかけたのかなと思ってみたり、すれ違う人と目が合えば、やっぱり浮いて見えるかなと、途端に心配になったりする。

今になって思うと少し不思議ではあるが、この間人生で初めて眉毛サロンなるものに行ってみた。久しぶりに会った友達が綺麗になっていて、その理由が眉毛サロンだと熱烈に語るものだから、ならば一度くらいは試してみようと思った訳だ。
普段はジーパンにTシャツという恰好で、肌にも髪にも最低限しか気を遣わず、口コミや流行りにも鈍感な私が、なぜ。まあいいか、その時の気分で試したくなる日があったっていい。

顔の中の、眉毛というピンポイントのお手入れが今回のコースで、ワックス脱毛なるものなので形を整えた。終えてみると、なるほど、眉の形が見事な美人(に見える)ようになった。と同時に、眉周り1mmの産毛が綺麗になくなり、ピカピカに輝いているのである。もともと自黒の私の額に黒々と君臨する眉毛が、黄色い額縁のような線で囲まれた。これが私の眉毛です、はい、ここです。いままでおろそかにしてきたようですが、もう少しきちんと注目して、大事にしてくれてもよくないですか?・・・と、鏡を見るたび、電車の窓に映る自分の顔が見えるたび、問われるのである。

そんなことを言われても、こちらには気にしなければならないところが多すぎるのだから困る。目にはコンタクトを入れないといけないし、お腹は減ったらぐうと鳴るし、足は疲れたら痛くなるし。爪は伸びたら切らないと割れちゃうし、肩がこったらマッサージは必須だ。

・・・。

ああ、そうか、君は今まで無口だっただけなのか。

こうして私と眉毛と、対話の日々が始まった。

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