見出し画像

旅をする石① 南イタリア

Dear my friends,

おはようございます。私は今、南イタリアのプーリア州にあるチルテスニーノという街から約4キロ離れた丘の上で過ごしています。トゥルッリという、とんがり屋根が印象的な昔ながらの石造りの家に泊まっていて、なだらかな丘に植っているオリーブやアーモンドの木々の向こうに、白い街並みが見えます。

冬の時期は比較的雨が多いと聞いてはいましたが、一週間前に到着してからは基本的に天気が悪く、晴れているのは今日を含めて2日間だけです。一年に一度くらい、とお世話になっているジョヴァンニさんが言うような強い雨風にもなり、青い空がイメージにあるイタリアも色々な顔を持つんだなあと思うこの頃です。

同じくプーリア地方のブリンディジという空港からこちらに来たのですが、道路右手に広がるエメラルドグリーンの海と冬でも葉を落とさないオリーブの薄い緑、そして真っ白な家々がとても印象的でした。ジョヴァンニさんが高速道路も一般道路も関係なく、法定速度50キロの道路でも100キロ以上で飛ばしまくるのも、面白怖い体験でした。

私はこの旅で、最初に北の都市ミラノから入国し、7日間かけてヴェネツィア、ピサ、フィレンツェ、ローマと南下してきました。

イタリアという国は、第二次世界大戦後にできた比較的新しい共和政の国で、それ以前は今で言う各州が独立した国家だったという背景もあり、地域ごとに雰囲気が違って特色がはっきりしているなと感じます。ここプーリア州は、オリーブとワインの生産が昔からの主要な産業で、今では海辺のビーチやのんびりした景色を求めて世界中から観光客がやってくる場所でもあります。

今でこそキラキラしたイメージですが、この土地が石灰石でできている背景から、かつては慢性的な貧困地域でした。地表の約1mほどに土があり、その下はすぐに岩という痩せた土地で、人々は手作業で一つ一つ石を取り除きながら土地を開拓してきました。根を横に張る特徴があるオリーブやブドウの栽培は、それを育てたかったというより他に選択肢がなかったという言い方の方が正しいかもしれません。

そして、その取り除いた石を一つ一つ集めて作ったのが、トゥルッリという石造りの家です。(その歴史や成り立ちについて、「南イタリアプーリアへの旅」という木下やよいさんの本で知ることができます。)

トゥルッリは石を組み上げて作られた家で、モルタル(接着剤)が一切使われていません。であるが故に、古い石を再度新しく組み上げながら、昔と同じ材料で家が新しくなっていきます。私が今過ごしているトゥルッリは伝統的な手法で石を組み上げる一方で、内装はとても可愛らしく改装されています。元々の雰囲気を残しつつも床暖房や水回りが現代的に整備されていて、このバランス感覚がイタリアや欧州ならではだなあと思うところです。(ちなみに、この床暖房で使われているのは、屋上の太陽光発電や暖炉の火で温めたお湯です。)

昔ながらのトゥルッリには窓がついていなかったようですが、今は新しく付けられています。技術的な問題もあると思いますが、石を組み上げただけの設計なので、通気性はきちんと確保されていたみたいです。私が過ごしているトゥルッリは、入り口と窓が東向きについています。

中に入ると、壁の厚みが約50センチ、天井の厚さは約1メートルにもなっていて、夏は暑さを防ぎ、冬は一度室内が暖まると保温がキープされる仕組みです。ここに来た最初の夜は寒すぎて震えが止まらなかったので驚きましたが、今ではずいぶん暖かくなりました。室内は白一色になっていて、窓からのわずかな光でも全体がふわっと明るくなります。外装も、昔からあるものは石が黒くなっていますが、リノベーションされたトゥルッリは明るい色の石とてっぺんの真っ白な装飾が印象的で、青い空によく似合います。

ということを書いているうちに、また雨が降ってきました。私がいる丘の上はいくつかの風がぶつかる場所なので、天気が変わりやすいんです。海からも距離があるので、海辺と比べると気温が4度くらい低くなります。これからマウンテンバイクでサイクリングを計画していたので、残念です。

サイクリングは昨日の午前中に一度行きました。ムッソリーニ時代に作られた運河を活用したもので、元々の水路を地中に埋めて、その上が自転車と歩行者向けに整備されています。道幅が十分に広く自転車が通りやすい土がひかれていて、何よりも景色が最高でした。たくさんのトゥルッリや花や動物の間を風を切って進むと、自動車で旅するのとは違う季節の香りが感じられるし、農作業や家の掃除をする人たちに「ボンジョルノ!」と挨拶しながらこの地区の生活にも触れることができます。このあたりのハード面の整備も、農村ステイ(アグリトゥリズモ)を通じた地域イメージの構築に向けて、大切な役割を演じているなと思うところです。トゥルッリのリフォームなどの農村振興プロジェクトは民間事業者が進めることが大半のようですが、このサイクリングロードは行政が整備したもので、良い相乗効果が生まれているなと感じました。

さて、天気予報では晴れだったので、この変なお天気雨がいつまで続くのか、ジョヴァンニさんに聞いてくることにします。今日も素敵な一日になりますように。

mit liebe Grüße

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?