特別企画:脚本『君の歌』公開②

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 音楽家の家。
 インターフォンが鳴る。
 音楽家がゆっくりやってくる。もう一度インターフォンが鳴る。

音楽家 「……んー。」

 音楽家がドアを開ける。

コトハ 「お久しぶりです。」
音楽家 「……え?」
コトハ 「ちょっと聞きたいことがあって来ました。」
音楽家 「うーん、ああ。」
コトハ 「おうち入っていいよね。」
音楽家 「はあ。」

 コトハとカノンがやってくる。

カノン 「あの、はじめまして。私は、その、貴女に伺いたいことがありまして。」
音楽家 「うーん。」
カノン 「普通の世界って言うんですか?そこに帰りたくて、コトハちゃんから、貴女なら知っていると聞いたんですけど。」
音楽家 「ちょっと、ちょっと待って。早すぎる。とりあえず、中にどうぞ。」
カノン 「あっすみません。お邪魔します。」
コトハ 「寝てないからあんな感じなの。」
カノン 「寝てない?」
コトハ 「話すのにコツがいるんだよ。任せて。」
音楽家 「ああ、飲み物。」
コトハ 「おもてなしは大丈夫。座って座って。」
音楽家 「んー。」
コトハ 「この人迷子なんだって。」
音楽家 「まいご?まいご、ああ、迷子。大変だね。」
コトハ 「普通の世界から来たんだって。で、普通の世界への帰り方を教えてって。」
音楽家 「普通の世界、帰り方。帰り方か。世界。狭間呼べば?」
コトハ 「狭間さんはどこにいるの?」
音楽家 「どこって、さあ?この区域。」
コトハ 「この区域って、広いよ。」
音楽家 「うーん。君は誰?」
コトハ 「えっ?えっと、私はカノンって言います。」
音楽家 「カノン?良いね。良い名前だ。」
カノン 「……ありがとうございます?」
音楽家 「……うーん、えっと?カノンは普通の世界に帰りたいの?」
カノン 「はい。」
音楽家 「仮面は?」
カノン 「それが、あの、これなんですけど。」

 鞄からボロボロになった仮面を取り出す。

カノン 「最初はひびだけだったんですけど、どんどん壊れちゃって。今はもうこんな感じで。」
音楽家 「これが君の仮面?」

 インターフォンが鳴る。

音楽家 「んー?」

 音楽家がのろのろと立ち上がりドアを開ける。
 軍人がやってくる。

軍人  「……ただいま。」
音楽家 「……。」
軍人  「また寝てないな?大丈夫か?」
音楽家 「うーん。」
軍人  「……おかえりって言って欲しいな。」
音楽家 「……おかえり。」
軍人  「ありがとう。誰か来ているのか?」
音楽家 「うん。」
軍人  「はじめまして。」
カノン 「……はじめまして。お邪魔しています。」
コトハ 「私とははじめましてじゃないでしょ。思い出してよ。」
軍人  「君は、ああ、もしかしてコトハさんか。大きくなったねえ。綺麗になったよ。」
コトハ 「綺麗だって。えー。ありがとう。」
音楽家 「この子はカノン。」
コトハ 「こっちの世界に迷い込んじゃったの。」
軍人  「迷い込んだ?」
コトハ 「そうだ、狭間さんに会わなかった?」
軍人  「ああ、会ったよ。今行けばまだ近くにいるかもしれない。」
コトハ 「本当?」
音楽家 「でも、仮面。仮面が壊れている。」
軍人  「壊れている?」
カノン 「これです。」
軍人  「……君、本当に普通の世界の人間か?ここまで壊れていたら、こっちの人間じゃないのか?」
カノン 「えっ。」
コトハ 「急にこうなっちゃったんだって。」
軍人  「……仮面っていうのは普通の世界で生きていく上で必要なものだ。それが壊れているってなると、普通の世界では生きられないんじゃないかな。例外はあるけどさ。」
カノン 「でも、お母さんも、ちょっと欠けてたり、ちょっと壊れてる人なら普通の世界にもいっぱいいますし。」
軍人  「君のはちょっとじゃない。」
カノン 「直すことは?直すことは出来ないんですか?」
軍人  「今のところ直す技術は無いな。聞いたことがない。」
カノン 「……じゃあどうすればいいんですか?普通の世界に帰れないんですか?というか、あの、異常な世界って何なんですか。うわさに聞いたくらいで。そこから知らなくて。本当、あの、本当に、どうしたらいいんですか?」
コトハ 「……とりあえず狭間の人に会おうよ。ね?知ってるんでしょ?どこにいるか。」
軍人  「ああ、狭間に連絡してみるよ。そっちの方が確実だろう。」

 軍人がスマートフォンを手にしながら去る。

音楽家 「……コトハ。君、何してる?」
コトハ 「何が?」
音楽家 「必死だなと。」
コトハ 「必死にもなるよ。だって友達が困ってるんだよ?」
音楽家 「友達?君たちは友達なの?」
コトハ 「そうだよ。私達、友達だよ。ね?」
カノン 「はい、友達です。うん?」
コトハ 「ヒーローはみんなと友達なんだよ。」
音楽家 「……友達なら、大切にするんだよ。」
コトハ 「分かってるよー。」
音楽家 「分かってる?分かってる。ふうん。」
カノン 「あのさ、仮面が壊れるってどういうことか分かる?」
コトハ 「うーん、分かんない。私仮面持ってないからさ。」
カノン 「えっ無いの?無い人いる?」
コトハ 「生まれた時から無いよ。まあ生まれた時覚えてないけど、自分の仮面なんて見たことないなあ。」
カノン 「……へえ。そういう人もいるんだ。」
コトハ 「ごめんね。私仮面のことも普通の世界のことも全然知らないんだ。でもカノンちゃんは絶対に大丈夫だよ。私が帰らせてあげる。帰りたいんでしょ?」
カノン 「うん、ありがとう。なんか、コトハちゃんに言われると帰れる気がするよ。」
コトハ 「そりゃそうだよ。だって私が言ったんだもん。」

 軍人が戻ってくる。

軍人  「失礼。あいつの居場所が分かった。もう行く?」
カノン 「はい。ありがとうございます。」
軍人  「とりあえず地図。ここにいるって。分かる?」
コトハ 「あっ分かる。この公園行ったことあるよ。ラーメン屋さんが前にある所だよね。」
軍人  「ああ。何なら一緒に行こうか?」
コトハ 「大丈夫。ここなら行ったことあるから。」
軍人  「そうか。気を付けて。」
カノン 「本当にありがとうございました。」
音楽家 「……正直、行かない方がいいんだが。」
コトハ 「行こうよ。」
カノン 「いってきます。え?」
コトハ 「ほらほら、ついてきて。」

 コトハとカノンが去る。

コトハ 「あっ忘れてた。ちょっと待ってて。すぐ戻るから。」

 コトハが戻って来て音楽家の家に入る。

軍人  「どうしたんだ?」
コトハ 「ごめんごめん。忘れてて。今日も寝てないんでしょ?」
音楽家 「ん?」
コトハ 「おやすみなさい。」

 突然音楽家が倒れる。軍人が音楽家を支える。

軍人  「おい、何をしている。」
コトハ 「何ってお礼だよ。寝れないなら、私が寝かせてあげるって約束して、たまにこうやって寝かせてあげるんだ。お兄さんのお礼は今思いつかないから、カノンちゃんを普通の世界に戻してからね。おやすみ。ヒーローは助けてくれた人にお礼をする。それじゃあね。バイバイ。」

 コトハが去る。

軍人  「おい、大丈夫か?」
音楽家 「……。」
軍人  「おい。くそっ何で。眠い、俺まで。助けに、いや、まずは。」

 軍人が音楽家を抱えて音楽家の家の奥へと去る。

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