特別企画:脚本『君の歌』公開③

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 公園。
 狭間がやってくる。
 そこへ、ゴーグルをつけた別の狭間の人間がやってくる。この狭間は鎌ではなくナイフを身につけている。

狭間2 「あれ?」
狭間  「え?ああ、どうも。」
狭間2 「夜勤?」
狭間  「はい。」
狭間2 「ふうん。」
狭間  「先輩は?」
狭間2 「仕事上がり。」
狭間  「お疲れ様です。」
狭間2 「お疲れ様。ねえ、あんた今度の投票どうすんの?」
狭間  「投票?」
狭間2 「今投票って言ったらあれしかないでしょ。」
狭間  「あー、はいはい。まだ先じゃないですか。」
狭間2 「あんたそう言って当日になってどうしよっかなあって悩むタイプでしょ。」
狭間  「何で分かるんですか。」
狭間2 「もう少し関心持ちなさいよ。」
狭間  「すいません。」
狭間2 「で、どっちに入れるの?」
狭間  「いや、投票の守秘義務。」
狭間2 「みんなペラペラ喋ってるんだから。今更そんなものない。」
狭間  「人権ー。」
狭間2 「人じゃないでしょ。」
狭間  「狭間の人間って呼ばれてるのにー?」
狭間2 「で、どっち推すの?」
狭間  「俺よく分かってないんで、決めてないっす。先輩はどうなんですか?」
狭間2 「私?賛成派。」
狭間  「うええー。俺ら無職になるやつじゃん。」
狭間2 「無職にならないでしょ。むしろ仕事増えるよ。」
狭間  「えっ?じゃあ俺反対派で。」
狭間2 「あんた仕事したくないだけでしょ。」
狭間  「まあそれもありますけど。現状満足って感じっすかね。」
狭間2 「その現状に問題があるから、普通の世界と異常な世界をつなげるっていう意見が出たんでしょ。狭間たちの投票にまでなってるんじゃない。」
狭間  「うーん、つーか何で俺らが決めなきゃいけないんですかね。人間が決めればいいのに。」
狭間2 「人間に聞いたって、まともに決めらんないわよ。大体、世界が分かれてることすら知らない人間もいるんだから。」
狭間  「ああ、そうでした。」
狭間2 「だから私たちが決める。人間の手が届かないところで世界が変わるなんて、別に珍しい事じゃないし。」
狭間  「そんで変わった世界で人間がパニックに。」
狭間2 「そして後始末として私たちの仕事が増える。」
狭間  「あー、そういう。」
狭間2 「あんたそんなことも知らなかったの?本当もう少し関心持ちなさいよ。」
狭間  「はーい。」
狭間2 「じゃあ、お疲れ。」
狭間  「お疲れ様っす。」

 別の狭間が去る。
 着信音が鳴り、狭間がスマートフォンを取り出し電話に出る。

狭間  「んー?またかよ。はい、もしもし、俺はもう着いてるよ。うん?気を付けろ?何を?おい、聞こえねえんだけど?もっとはっきり喋ってよ。あの、本当に聞こえない。あっ切んなし。えー、何だったんだよ。」

 そこへ、コトハとカノンがやってくる。

コトハ 「狭間さん。」
狭間  「おっ待ってたぜ。」
カノン 「あれ?」
狭間  「あっ。」
カノン 「コトハちゃん、この人?」
コトハ 「そうだよ。」
狭間  「待って。さっきはごめんなさい。急に腕掴んじゃって。怖がらせちゃってごめんなさい。」
カノン 「いやあの、そうじゃなくて。」
コトハ 「知り合いなの?」
カノン 「あの時驚いたのは、急に目の前の場所がなんか変わったからなんです。腕掴まれたことじゃなくて。ただ訳分かんなくて逃げちゃったんです。あの、ゴーグルみたいなのつけてましたよね?」
狭間  「そうか。俺たち見たの初めてだったのか。そりゃあ驚くよな。怖い思いさせてごめんなさい。えっと、俺は狭間の人間。まあ人間じゃないんだけど人型だからそう呼ばれてる。普通の世界と異常な世界を繋げる仕事をしてるよ。よろしくね。」
カノン 「よろしくお願いします。」
コトハ 「ちょっと待って。カノンちゃんがこっちに来たの、狭間さんのせいなの?」
狭間  「んー、仮面付けてなかったから、こっち側の人間だと思ってゲート開いて通しちゃったんだよね。」
コトハ 「原因はお前かー。」
狭間  「痛い、何すんの、ちょっと痛い痛い。本当ごめん。君が普通の世界の人間だって知らなかったんだよ、ごめんって。」
コトハ 「今すぐカノンをお家に帰らせてあげてー。」
狭間  「分かってるよ。やるよ。やりますから。でも、仮面は?あっちの世界にいるなら必要だよ。」
コトハ 「大丈夫だよ。」
カノン 「そう、大丈夫。えっ本当に?」
コトハ 「大丈夫。」
狭間  「例外さん?」
コトハ 「そう。カノンちゃんはれいがいさん。軍人のお兄ちゃんが言ってたよ。」
狭間  「へえ、あいつが言うなら。」

カノン 「本当に大丈夫?」

コトハ 「大丈夫ー。れいがいさんってすごい人なんだよね。普通の世界に行けるんだよ。」

カノン 「……。」
狭間  「じゃあ、通してもいいかな。とりあえずお家の住所知りたいから、身分証ある?」
カノン 「……あー、はい。ちょっと待ってください。学生証で良いですか?」
狭間  「うんうん、良いよ。うーん?ああ、ちょっと区域はみ出てんなあ。うーん、駅前で良い?本当は家の前につなげてあげたかったけど。」
カノン 「良いですけど。」
狭間  「ありがとう。あと一応決まりだからもう一回聞くけど、君は本当に例外さんなの?仮面の奴らを引き寄せない強い心を持ってる?」
カノン 「えっと。」
狭間  「だって仮面付けないであっちに行くんだろう?普通の奴ならしないぜ。」
カノン 「あー、私は。」
コトハ 「そういうこと聞かない。」
狭間  「はい、聞きません。えっ何で?」
コトハ 「しつこいし、プライバシーの侵害だよ。」
狭間  「お前ませてんなあ。うーん、聞けなくなっちまったよ。でも確認するのは必要項目だし。君、危ない人じゃないよね?犯罪起こそうとしないよね?」
カノン 「そんな。しませんよ。」
狭間  「嬢ちゃん、嬢ちゃんも確認してくれ。」
コトハ 「えー?友達を信じるのがヒーローなんだけど。」
狭間  「困ってる俺は助けてくれないのか?」
コトハ 「……しょうがないなあ。カノンちゃんは危ないことしない?正直に答えて。」
カノン 「はい、私は危ないことをしませんし犯罪者ではありません。そんな度胸もありません。」
コトハ 「ほらー。」
狭間  「んー、なら一応大丈夫かな。」

 ゴーグルをつけ狭間が鎌で空間を切り裂く。

狭間  「ここを通れば普通の世界に帰れる。」
カノン 「そうなんですか。」
コトハ 「良かったね。」
カノン 「ありがとう。」
狭間  「さあ、どうぞ。」
カノン 「はい。じゃあね。本当にありがとう。」
コトハ 「バイバーイ。」

 カノンが空間を切り裂いた部分を通り、その後去る。
 ちなみに切り裂いた空間を通った後のカノンを見られるのは狭間だけである。
 狭間が切り裂いた空間を直す。

狭間  「本当に例外だったのか?」
コトハ 「何?」
狭間  「いや、仮面付けないで普通の世界生きるとか、きついぜ?」
コトハ 「まだその話?」

狭間  「まあ軍人のあいつが言うならそうか。」

コトハ 「……。」
狭間  「つーか、お前も俺に力使うなよなあ。」
コトハ 「使おうと思って使ってないもん。」
狭間  「いや、さっきのは使う気満々だったね。」
コトハ 「むー、友達のためだもん。」
狭間  「いい加減使い方をちゃんとしろっての。」
コトハ 「頑張ってるもん。」
狭間  「その割には学校サボってんじゃねえか。」
コトハ 「……つまんないんだもん。」
狭間  「それじゃあいつまで経ってもヒーローになれないぜ?」
コトハ 「んー。んー。」
狭間  「だから殴んなって。地味に痛いんだから。」
コトハ 「どうしたらいい?」
狭間  「何が?」
コトハ 「ヒーローになりたい。」
狭間  「知ってる。」
コトハ 「この力使いこなしたい。」
狭間  「良いことだ。」
コトハ 「でも学校行きたくない。」
狭間  「じゃああいつらは?」
コトハ 「あいつらって?」
狭間  「あいつらは、いや、あいつらだって気にかけてるけど、何分不眠症とPTSDだからなあ。」
コトハ 「何ぶつぶつ言ってんの?」
狭間  「ああ、悪い。お前の能力をちゃんと分かってくれてる奴らいるだろ?」
コトハ 「うん?」
狭間  「そいつらからも言葉を教えてもらってるんじゃねえのって。」
コトハ 「誰の事?」
狭間  「いつも眠そうな音楽家といつも死にそうな軍人のことだよ。」
コトハ 「音楽家さんは話すのも難しいし、軍人のお兄ちゃんは大体いないよ。」
狭間  「でも力のことはわかってるだろ、あいつら。」
コトハ 「うん。」
狭間  「だから力の使い方を教えてくださいってあいつらに頼んだらどうだ?」
コトハ 「あの二人は力ないのに?」
狭間  「なくても教えられるもんはあんの。」
コトハ 「分かんない。難しいよ。」
狭間  「あー、愚図るな愚図るな。悪かったよ、難しいこと言って。」
コトハ 「狭間さんの。」

 「ばーか」と言おうとするが口パクで終わる。

狭間  「ああ?今お前悪口言ったろ。」
コトハ 「分かりやすく話す人は頭良いんだって。テレビでやってたよ。だから分からないこと喋る狭間さんは。」

 もう一度口パクで「ばーか」と言う。

狭間  「ばーかって言ってんだな。制限かかった言葉を言おうとすんな。ませがきー。」
コトハ 「うわっ。ああっ髪の毛ぐちゃぐちゃだよー。」
狭間  「どうよ。」

 何度も「ばーか」と言いながら狭間をゆする。

狭間  「はいはい。悪かったよ。じゃあ俺は戻るから。」
コトハ 「えー、何で。これから遊ぼうよー。」
狭間  「だーめ。俺はまだ仕事残ってるから。」
コトハ 「久しぶりに会えたのにー。」
狭間  「また会えるっての。俺はこの区域の狭間だからな。じゃあ、良い子で過ごすんだぞ?」
コトハ 「……はーい。」
狭間  「気を付けて帰れよ。」
コトハ 「バイバイ、狭間さん。」

 コトハが去る。

狭間  「……気を付けて?気を付けろって、言われたんだ。電話のこと聞きに行くか。」

 狭間が去る。

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