特別企画:脚本『君の歌』公開⑤

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 コトハの家。
 コトハがグラスを持ってやってくる。飲み物を飲んでいる。
そこへ、一部が欠けた仮面をつけたコトハの母親がやってくる。

母親  「コトハ、何してるの?もう寝た方がいいわよ。」
コトハ 「喉乾いただけだよ。」
母親  「そう。」
コトハ 「……ねえママ。仮面付けてない人が、普通の世界に行ったらどうなるの?」
母親  「……逃げるか、普通の人たちが、仮面付けてない人を取り囲む。」
コトハ 「何で?」
母親  「……うーん。怖いから。仮面をつけてないってことは、普通じゃないってこと。普通じゃない人は、怖い。だから取り囲んで、せめて数で抵抗しようとするの。」
コトハ 「抵抗するの?」
母親  「仮面をつけてない人が、自分は普通だって信じ込んで、こっちに来て、現実を見て、やけになって犯罪を犯しちゃう事件もたまにあったから。取り囲んで、こっちの方が怖いんだぞって見せつけて、仮面付けてない人を異常な世界に帰ってもらうようにする。」
コトハ 「怖いから、怖いんだぞって見せつけるの?どういうこと?」
母親  「うーん。怖くて立ち向かえないから、せめてその人がどっかに行ってもらうために頑張って虚勢を張るというか、威嚇するの。」
コトハ 「へえー。じゃあ私普通の世界歩いたら、取り囲まれて威嚇される?」
母親  「……そうね。だからやめておきなさい。」
コトハ 「でもママ仮面付けてるけど、私のこと威嚇しないよ?一緒に住んでるよ?そりゃ一回施設に入ったけど、でもママもパパもちゃんと迎えに来てくれたもん。」
母親  「……あれはね、コトハ。あの時はね、私たちも、怖かったの。」
コトハ 「怖かったの?」
母親  「ごめんね。でもね、あなたに仮面がないのは言霊使いだからって知ってからは怖くなくなった。むしろあなたのような特別な子が私たちの所に生まれてきてくれたのは、本当に奇跡だわ。ありがとう、コトハ。」
コトハ 「へへへ。私の力はね、ヒーローの力だからね。私もママとパパの所に生まれて嬉しいよ。」
母親  「……さあ、早く寝なさい。明日も学校でしょ。」
コトハ 「……学校。」
母親  「ちゃんと行きなさいよ。」
コトハ 「はーい。」
母親  「おやすみ。」
コトハ 「おやすみ。」

 コトハの母親が去る。
その後、コトハもグラスに入った飲み物を飲み干し去る。
音楽家の家にある音楽家の作業部屋。
 音楽家がやって来て、あとからカノンがやってくる。

音楽家 「はい、どうぞ。」
カノン 「……ありがとうございます。」
音楽家 「結構綺麗にしてるんだよ。気を付けないと、すぐごちゃごちゃしちゃうから。さあ、ここに座って。何が聞きたい?」
カノン 「えっと、あの。」
音楽家 「……。」
カノン 「最初に作った子守唄が聞きたいです。」
音楽家 「嘘。本当に?初めて作ったやつ、全然上手くないよ。聞くに堪えない気がする。」
カノン 「あの、私、スリーパーさんの公開した曲、全部聞いてますし全部持ってるんです。」
音楽家 「全部?私もう六枚くらいアルバム出してるけど。」
カノン 「今度七枚目出ますよね。予約してます。」
音楽家 「すごいなあ。それなら確かに聞いたことない曲聞きたいだろうなあ。ちょっと待ってね。ああ、はい。ヘッドフォン。本当はそこのでかいスピーカーで流すんだけど、最初に作った曲となると、ちょっと恥ずかしいから、これで聞いて。」
カノン 「はい。」
音楽家 「……あった。流すよ。ヘッドフォンして音大きかったら言ってね。」
カノン 「……。」

 カノンが音楽を聴く。
 そこへ、軍人がマグカップを二つ持ってやってくる。

軍人  「すまない。」
音楽家 「どうした?」
軍人  「差し入れ。」
音楽家 「ありがとう。安眠できそうな飲み物だね。」
軍人  「お前はこれじゃ寝れないだろ。」
音楽家 「私のことじゃないよ。」
軍人  「環境が変化すると寝れなくなるからなあ。せめてゆっくりしてくれるといいんだが。」
音楽家 「そうだねえ。でも、私たちが心配するよりも、あの子は強い気がするよ。」
軍人  「……。」
音楽家 「今日仮面が壊れて今日こっちに迷い込んだのに、私がスリーパーって知って興味津々ってね。切り替えが早い。」
軍人  「ほう。ただ、そこまでてんこ盛りの一日を過ごしたんだ。早めに休ませた方がいいぞ。」
音楽家 「分かったよ。」
軍人  「じゃあ、俺は風呂の用意しとくから。」
音楽家 「うん。」

 軍人が去る。

音楽家 「……。」
カノン 「……あの。」
音楽家 「あっ終わった?最初は一分の曲作るだけでも苦労したんだよねえ。はい、君を心配した軍人さんが淹れてくれたホットミルク。」
カノン 「えっありがとうございます。」
音楽家 「……。」
カノン 「あの、確かに、今より全然違うというか。」
音楽家 「下手だったでしょ。」
カノン 「いや、あの、えっと。」
音楽家 「いや良いんだよ。下手だし。」
カノン 「いえ、その、デビュー前の曲を聞かせてくださり本当にありがとうございます。バランスが悪い?かなって、ちょっと、思うところはあったんですけど。すごい何様だよって感じでごめんなさい。でも、これがスリーパーにつながるっていうのが、何て言うか、分かります。今より優しくて、歌が。あと、ピアノが今と変わらず本当に綺麗で。最初からメロディがすごい綺麗だったんですね。あの、今は結構暗いというか重めの歌詞のも出すじゃないですか。私ああいう曲もすごい好きですけど。これは子守唄だからこんなに優しくてかわいい歌にしたんですか?」
音楽家 「……君、そんなに喋る子だったっけ?」
カノン 「うああ、すみません。」
音楽家 「いや、良いよ。ありがとう。スリーパーの歌を聞いてくれて。」
カノン 「いえ、そんな。」
音楽家 「……歌手になりたいって、何で?」
カノン 「えっ?」
音楽家 「……。」
カノン 「……私、中学から合唱部なんですけど、最初は成り行きって言うか、まあ歌好きだし、あと、あの、すごい格好いい先輩がいたんです。」
音楽家 「ほおー。」
カノン 「それで、入部して、あの、パート分けの時、その先輩がピアノ弾いて、先生が一人ひとりの歌を聞いていくんです。で、私が歌い終わったら、先生が、君は良い声だねって言ってくれて、そしたらその先輩も、笑って頷いたんです。それがなんかもう嬉しくて。部活頑張ろうって思ったんです。まあ、先輩とは、その後何もなかったんですけど。先輩高校受験があるから秋には引退しちゃったし。でも、その後も部活続けて、歌うのが楽しくなって、いっぱい歌って、たまにスランプになりますけど、でも、気付いた時には歌手になりたいって思ってました。」
音楽家 「はあー、青春だなあ。」
カノン 「お恥ずかしいです。」
音楽家 「で、今は?」
カノン 「え?」
音楽家 「まだ、歌手になりたいの?」
カノン 「……。」
音楽家 「仮面が壊れて異常な世界に来て、それでも?」
カノン 「……なりたいです。だって、そのおかげで、本物に会えたから。」
音楽家 「……そう。そうだ、さっき連絡先交換したでしょ?お詫びに、ちょっと待ってね。」

 音楽家がスマートフォンを操作する。

音楽家 「はい。新曲。」
カノン 「えっ。」
音楽家 「いやあ、良かった、今回はバラードで。寝る時にでも聞いてよ。」
カノン 「無限リピします。」
音楽家 「無限にはしなくていいよ。まあ、今日は疲れたでしょう。」
カノン 「……そうですね。」
音楽家 「大丈夫。ここは安全。なんならこの部屋は完全防音。いくら騒いでもオッケー。」
カノン 「……ふふ。」
音楽家 「でも、いくら場所を提供しても、いくら私たちが励ましても、最後に考えて決めるのは君だ。」
カノン 「……。」
音楽家 「まあ、今日はちゃんと休んで寝て、明日いっぱい考えなよ。学校もサボってさ。」
カノン 「良いんですか?」
音楽家 「良いんですかって、サボる気だったでしょ?」
カノン 「あはは。」
音楽家 「さて、お風呂君最初入りなよ。それで、早めに寝るんだよ。」
カノン 「スリーパーさんは寝れるんですか?」
音楽家 「さあ。寝れると良いなあ。ああ、服貸さなきゃねえ。」

 音楽家とカノンが去る。

 公園。
 狭間がやってくる。
 そこへ、別の狭間がやってくる。

狭間2 「あんた、夜勤じゃなかったの?」
狭間  「あー、仕事前にちょっと。」
狭間2 「公園で黄昏れてるの。」
狭間  「その言い方はちょっと。」
狭間2 「そういやあんた普通の世界の子を連れてきちゃったんだって?」
狭間  「何でもう知ってるんですか?」
狭間2 「その子が問題起こした場所、私たちの管轄区域。」
狭間  「本当に申し訳ありません。」
狭間2 「良いわよ。報告書書いてくれれば。」
狭間  「すいません。」
狭間2 「何でそんな初歩的なミスしたの?あんたこの仕事就いて何年目?」
狭間  「えっと、百年ちょいです。」
狭間2 「あー、百年あたりってちょっと中だるみするからね。」
狭間  「先輩何年目なんですか?」
狭間2 「百五十年くらいね。」
狭間  「えっじゃあもう人間で言うと三十。」
狭間2 「そのペットの寿命みたいに言うのやめて。」
狭間  「すいません。そうだ、先輩。あの合併するかしないかってやつ、仮面はどうするんです?」
狭間2 「仮面もなくすでしょ。仮面は普通の世界の象徴。普通の世界と異常な世界を一緒くたにするんなら、そんな象徴ぶっ壊さなきゃ。」
狭間  「ぶっ壊すって、そんな物騒な。」
狭間2 「壊すの狭間の仕事よ?」
狭間  「ほあー。やっぱ俺反対派っす。いや、一緒くたにすんのはいいかなって思い始めましたけど、仮面ぶっ壊すのは、なんつーか、違うんじゃないですか?」
狭間2 「まあそれについても議論されてるみたいね。とりあえず今度の投票で合併するかしないか決めて、そこから細かい所を決めていくんでしょ。」
狭間  「最初に細かいこと決めた方がいいと思うんすけど。」
狭間2 「それは私も同感ね。」
狭間  「えっ先輩ってガンガンぶっ壊して行けって感じじゃないんですか?」
狭間2 「失礼にも程がある。」
狭間  「いってえ。パワハラ。」
狭間2 「何人間みたいなこと言ってんの。私だってね、あんたと話して後始末が面倒だなって思ったの。」
狭間  「やっぱそう思いますよね。」
狭間2 「私だって仕事増えるのは嫌よ。」
狭間  「まじっすか。」
狭間2 「じゃあ私仕事だから。」
狭間  「お疲れ様でーす。」

 別の狭間が去る。
 そこへ、カノンがやってくる。

カノン 「お待たせしました。」
狭間  「ちゃんと来れたね。」
カノン 「地図描いてもらいましたから。」
狭間  「へえ。不審者とまではいかないけど、めんどくせえ奴に絡まれなかった?」
カノン 「大丈夫です。」
狭間  「良かった。まあ異常な世界も治安良いからなあ。」
カノン 「治安が良いんですか?」
狭間  「ああ、普通の世界は、普通の世界が絶対で犯罪なんて異常なことはしないから治安良いだろ。こっちは、仮面取れて皆異常で皆バラバラで、でもってそれが許されるから、なんつーの?皆違って皆良い?だから心に余裕もってる人間とか、そもそも人に興味ない人間が多くて、あんまり犯罪起こんねえかな。うーん、犯罪発生率はどっこいどっこいって感じ。」
カノン 「へえ、異常な世界はとても怖い場所だって、授業で習ったので。」
狭間  「そりゃ学校じゃ生徒たちに普通に生きてほしくてそう教えるだろうよ。」
カノン 「その普通って何ですか?」
狭間  「知らねえ。人間が作り出した概念だろ。」
カノン 「狭間さんってやっぱり人間じゃないんですね。」
狭間  「人型だけどねー。それで、用って?」
カノン 「そうでした。あの、異常な世界にも学校ありますよね?」
狭間  「もち。」
カノン 「で、家の前に狭間さんが送ることも出来ますよね?」
狭間  「俺だと区域外だから、別の狭間呼ぶけど、出来るよ。」
カノン 「……ちょっと私、一回家帰って家族と話して、異常な世界の学校に転校しようと思うんですよね。」
狭間  「え?」
カノン 「あの、私が通ってる学校、仮面付けてないと通えないんで、校則なんで。だから転校かなって。」
狭間  「すごい決断力。」
カノン 「だって普通の世界で生きるには仮面が必要で、私は仮面が壊れちゃって、直らなくて、じゃあもうこっちで生きる方法探すしかないじゃないですか。」
狭間  「切り替えの早さ。」
カノン 「私例外になればって言われましたけど、今は例外じゃないんで、今できることなんてこれくらいしかないですよ。」
狭間  「強い子。良いけど。なあ家帰るって言ったけど、親御さん仮面してるだろ?大丈夫?」
カノン 「……何かあったら家出してスリーパーさんの家に住みます。」
狭間  「はあー、若い子の行動力凄まじいね。何?即断即決一直線タイプ?」
カノン 「いや、結構うじうじするタイプですけど。」
狭間  「自分では分かってないタイプか。」
カノン 「これでもちゃんと考えたんですよ。スリーパーさんの神曲を聞きながら。」
狭間  「あいつ言霊使いじゃないよ?」
カノン 「でも力貰いました。バクさんの美味しいご飯も癒してくれました。それで狭間さん。」
狭間  「はい?」
カノン 「私の家の区域の狭間さん、紹介してください。」
狭間  「今?」
カノン 「はい。」
狭間  「……へえー。昨日の今日でねえ。おもしれえー。良いよ。準備は?」
カノン 「出来てます。」
狭間  「よっしゃ。じゃあ行こう。」
カノン 「はい。」

 カノンが狭間と共に去る。

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