特別企画:脚本『君の歌』公開①

君の歌

脚本 小西里(演劇企画フラテとレオ)



 放課後の学校。
 仮面をつけた学生服の人が三人いる。

学生1 「ねえこれいつまでだっけ?」
学生2 「三十日までだって。書いてあんじゃん。」
学生1 「あっ本当だ。何書く?」
学生2 「普通に進学でしょ。」
学生1 「どういう系行くとか?」
学生2 「決めてねー。」
学生1 「まじめんどい。」
学生2 「それな。」
学生1 「カノンは?」
学生3 「私も進学かな。」
学生1 「だよねー。卒業していきなり働ける気がしねえー。」
学生3 「就職組はすごいよね。」
学生2 「分かるー。私なんて何したいかすら分かんないもん。とりあえず大学行っとけって感じ。」
学生1 「ほんとそれ。これ大学名まで書くの?」
学生3 「一応どういう系に進みたいかとか、やりたいことはちゃんと書けだって。」
学生2 「めんどー。」
学生1 「カノン何書く?」
学生3 「私?音楽がやりたいかな。」
学生1 「音楽?何?歌?」
学生3 「うん。」
学生1 「合唱部だから?」
学生3 「そうだけど、歌手になりたいかなって。」
学生1 「まじ?やば。」
学生2 「でもさー、歌手なんて本当になれんの?」
学生3 「えっ?」
学生2 「才能ある人しかなれないじゃん?」
学生3 「うーん、とりあえず音大とか専門学校とか、落ちたら大学通いながら音楽教室通おうかなって感じ。」
学生1 「やっば。」
学生2 「めっちゃ考えてんね。」
学生1 「まあ今は歌い手にもなれるしねー。」
学生2 「いや、歌い手めっちゃいんじゃん。あの中で伸びてる人ちょっとしかいないでしょ、絶対。」
学生1 「カノン歌い手やってみたら?ほら、スリーパーの曲歌ってみたとか。スリーパー好きでしょ、カノン。」
学生2 「スリーパーこないだ新曲出してたよねー。」
学生1 「聞いた聞いた。でもやっぱヒーローとコラボしたやつの方が好きー。」
学生2 「あれはマジ神曲。」
学生1 「分かるー。」
学生3 「私も、いつかスリーパーとコラボできる歌手になりたい。」
学生1 「あ、まだその話?」
学生2 「でも歌手って普通じゃないじゃん。」

 学生3の仮面にひびが入る音がする。
 学校のチャイムが鳴る。

学生2 「やば。帰ろ。」
学生1 「帰りどっか寄ってく?」
学生3 「ごめん私金欠。」
学生2 「それな。」
学生1 「……カノン、何その仮面。」
学生3 「え?」
学生2 「ひび。」
学生1 「えっ嘘。まじ普通じゃない。」
学生2 「ごめん、ちょっと、近寄らないで。」
学生1 「無理無理無理。ねえ、行こう。早く。」
学生3 「待って。」
学生1 「くんなよ。」
学生2 「まじやばい。先生に言おうよ。」

 学生1と2が急いで去る。
 学生3は鞄から鏡を取り出し自分の顔を見た後、去る。
 学生3の家。
 学生3がやってくる。

学生3 「母さん、ねえ、お母さん。」

 学生3の母親がやってくる。少しだけ欠けた部分がある仮面をつけている。

母親  「何よ大声出して。おかえり。」
学生3 「ねえお母さん、私の仮面今どうなってる?」
母親  「うっわ、何それ。何でひび入ったの?その歳で普通入らないよ。」
学生3 「分かんないよ。ただ歌手になりたいって言っただけだよ。」
母親  「あんたまだそんな子供みたいなこと言ってんの?そんなのなれる訳ないでしょ。」
学生3 「なれる訳ないって、やってみなきゃ分かんないじゃん。」
母親  「あのねえ、やってみて、それでなれなくて、そしたらどうすんの?あんたお金のこと考えたことある?」
学生3 「それはバイトしたらいいじゃん。」
母親  「バイトだけで生活できると思ってんの?」
学生3 「でも、バイトしながら、働きながら歌うたってる人だっていっぱいいんじゃん。」
母親  「その中から売れる人なんてほんの一握りよ。あんたただの合唱部でしょ。」
学生3 「それでも、私は、歌を歌いたいの。歌手になりたいの。」
母親  「そんなの普通じゃないの。もっと現実見なさい。」

 学生3の仮面が取れる。カノンの顔がはっきり見えるようになる。

カノン 「あっ。」
母親  「……。」
カノン 「……。」
母親  「あんた、仮面。」

 カノンが落ちた仮面を拾い走り去る。

母親  「あっ、ちょっと、カノン。」

 カノンの母親はどうして良いか分からず、家の中へ戻る。


 道端。
 ごついゴーグルをつけて顔があまり見えない男、狭間が手に鎌を持ってやってくる。

狭間  「あー、夜勤だりー。」

 そこへ、カノンが周囲を気にしながらやってくる。

狭間  「ん?」
カノン 「……。」
狭間  「おーい。」
カノン 「……。」
狭間  「んー?」

 狭間が持っている鎌で空間を切り裂く。

狭間  「ほい。」
カノン 「ああっ?」

 狭間がカノンを引っ張り、切り裂いた空間をくぐらせる。

カノン 「……え?あっ何?」
狭間  「俺たちを探してたんでしょ?おかえりー。」
カノン 「え?やだ。」
狭間  「えっどうしたの?」
カノン 「うわあ、離して。」
狭間  「あっちょっと。」

 カノンが走り去る。

狭間  「えー、なんだよ。どうなってんの?」

 狭間がゴーグルを取る。
 そこへ、軍人がやってくる。

軍人  「……。」
狭間  「おっ。うぇいうぇい、こっち。」
軍人  「ん?もう開いてるのか?」
狭間  「開いてる開いてる。おかえりー。」
軍人  「久しぶりだなあ。」
狭間  「ああ。まじでいつぶりよ。生きて帰ってきたなあ。」
軍人  「死なないようにしてるんだよ、俺はね。」
狭間  「何だよそれ。」
軍人  「何で開いてたんだ?」
狭間  「女の子が来てさ。うーん、こっちの世界の人間だと思ったんだけど。」
軍人  「……まさか、あっちの人間を入れたのか?」
狭間  「いやいや、仮面つけてなかったし大丈夫なはず。慌ててたっていうかキョロキョロしてたのも俺たちを探してたからだろうし。で、開けて、こっちに連れてきたの。そしたら逃げられた。」
軍人  「逃げられた?」
狭間  「俺の顔を見て一目散。だーっと走っていっちゃった。」
軍人  「お前なんかしたんじゃないか?」
狭間  「えー、してねえよ。開いて、こっちだよって腕つかんで。」
軍人  「それだ。つかんじゃ駄目だろ。」
狭間  「じゃあどうすりゃいいのさ。」
軍人  「声かけるだけで良かったんだよ。急に腕つかまれて、びっくりしたんだろう。」
狭間  「うわあ、まさか俺セクハラやった?」
軍人  「やったんじゃないか?」
狭間  「ほあー、申し訳ありません。そのようなつもりはなかったんです。」
軍人  「俺に言っても意味ないだろ。」
狭間  「うええー。会えっかなー。会ったら謝ろ。」
軍人  「こっちはどうだ?相変わらずか?」
狭間  「相変わらずも相変わらず。平和なもんさ。」
軍人  「……そうか。平和か。それはいいもんだ。」
狭間  「あんたが言うと重みが違うなあ。」
軍人  「じゃあ、俺はしばらくゆっくりしようかな。」
狭間  「ああ、良いね。またな。あっちに用がある時は呼んでくれよ。」
軍人  「分かってる。ありがとう。じゃあな。」

 軍人が去り、その後、狭間はゴーグルをつけ切り裂いた空間を元に戻してから去る。
 カノンがとてもおびえた様子でやってくる。
 そこへ、コトハがやってくる。コトハはカノンを見つつも一旦は通り過ぎる。
しかしカノンが困っている様子だったので気になり戻ってくる。

コトハ 「どうしたの?」
カノン 「えっ?」
コトハ 「いや、困ってるみたいだったから。」
カノン 「あの、えっと、すみません。ここ、どこですか?」
コトハ 「……えっ?ここの住所のこと?」
カノン 「いやあの、住所じゃなくて。ちょっと、分からないんですけど。すみません。」
コトハ 「えっと、迷子なの?」
カノン 「……迷子、だと思います。」
コトハ 「どこから来たの?」
カノン 「……あー、それが、道が分からなくて。」
コトハ 「うーん?」
カノン 「それになんか、おかしいというか、あの、何で仮面つけてないんですか?」
コトハ 「え?仮面?つけないよ。」
カノン 「……つけない?」
コトハ 「普通の世界じゃないんだから。あっもしかしてこっちに遊びに来たとか?」
カノン 「こっち?こっちって?」
コトハ 「だから、異常な世界。」
カノン 「異常な世界。」
コトハ 「……知らない?」
カノン 「……本当にあったんだ。」
コトハ 「えっまさか、知らないで来たの?」
カノン 「……あの、どうやったら元の世界に帰れますか?」
コトハ 「うーん、狭間の人に会えば。でも狭間さんどこにいるか知らないなあ。」
カノン 「……。」
コトハ 「あっ。」
カノン 「え?」
コトハ 「そういう事に詳しい人を知ってるよ。ついてきて。」
カノン 「えっ?えっあの。あれ?」

 コトハが歩き出すと、機械的にカノンも歩き出す。

カノン 「どういうことですか?」
コトハ 「私はコトハ。困ってる人がいたら助ける、ヒーローです。」

 再びコトハが歩き出し、カノンもその後に続き去る。

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